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私たちが恋人になる理由  作者: YOGOSI
二話目
22/159

私が欲張りになる理由

 放って置かれた。


 昨日の勉強会で思ったことは、その一点だった。


 晴彦は茉莉に殆んど付きっきりで、私のノートを見ても、『出来てる』としか言わなかった。確かに出来てるのはわかるし、茉莉に教えるための勉強会ということは予め理解していたはずだったのだが。


 ただ、やはり胸の内は冷静さを保つので精一杯だった。


 そもそもにして思う。


 晴彦は、女子に好感を持たれやすい。


 誰にでも明るく優しく、人によって態度を変えない。今時の男子は女子を異性として認識しているが、晴彦はまるで友達のように付き合うことができる。それが清潔感があると思われるのだろう。真摯な人、という印象を持たれやすい。


 更に言えば、茉莉が女子としての魅力に溢れていた。


 大きな胸と、スタイルを強調する格好で、晴彦と接近するとどうしても気になる。


 風華も侮れない。私のように無愛想だが、その実優しく、捨て猫なんかを放っておけない性格は、知れば知るほど好感が持てる。


 昨日、思わざる負えなかった。


 晴彦が茉莉や風華を好きになったら。また、茉莉や風華が晴彦を好きになったら。


 私は、あの二人に対抗できるような何かがあるのだろうか。


 そう思うと、不安になる。


 正直、二人には晴彦に近づいて欲しくなかった。だが、そんなことを思っている自分が情けなくて、昨日は意地になって不安に耐えた。


 昨日の晴彦からは、茉莉の汗の匂いがした。


 嫌だった。


 家に帰って一人になると、晴彦が茉莉や風華と連絡を取っているんじゃないかと更に不安になった。耐えられず電話をした。いつもの晴彦だった。


 いっそのこと、赤点を取ってしまえば晴彦に構ってもらえるのではないかと考えた。しかし、それでは一緒の大学に行くという計画までご破産になってしまうかもしれない。私は、どうしたらいいのか、自分でもよくわからず、そしてそのまま倒れるように寝た。


 夢の中で、晴彦は茉莉と親しそうに話していて。


 そんな夢など見たくもないのに、私はずっと起きることができなかった。


 朝六時に目が覚めたとき、悪夢を見たかのような汗と、荒い呼吸をしていた。平和そうに昇る朝日が忌々しかった。


 起きてしまったのは仕様がないので、渋々着替える。日曜に早起きしても、三文の特はない。平日なら、朝早くに晴彦の顔が見れるのに。


 見下ろす自分の身体は、女の身体付きではあるものの、茉莉には魅力で言えば適うはずもない。


「お洒落、かぁ」


 茉莉のような大胆な服を、私も着るべきなのだろうか。そんな私を、晴彦は笑わないだろうか。しかし、何もしなければ、夢が現実になるかもしれない。


 今日、服を買いに行こうか。お金は、母さんに言い訳をすれば出してくれるだろう。むしろ、目一杯着飾れ、というに決まっている。しかし、それには晴彦との用事を遅らせなければならない。


 どちらかというと、やはり私は買い物に行くより晴彦と一緒にいたい。


「そうだ、テストの約束」


 テストの点数如何では、晴彦に何かをプレゼントしてもらえる。


 そうだ、そうだった。晴彦は忘れていないだろうか。私の心は、急上昇する。


 もっと、晴彦から好かれたい。そう思う私は、少し異常なのかもしれない。


 一言で言ってしまえば、『重い』のだろう。私の晴彦に対する欲望は尽きることを知らない。知ったら嫌われるかもしれない。だから、満たしてくれ、とは大口に言えず、私はいつも乾いている。


 十時に晴彦の家で、英語を勉強する予定になっている。あと三時間半が待ち遠しかった。


 お弁当を作ろうか。いや、でも休日だし、何か違うものにしようか。


 そうしてリビングと台所をウロウロしていると、母が起きてきた。


「なに、休みの日にこんな早く」


「ううん、別に」


 母さんは何をするわけでもないのに、いつも六時には起きている。


「今日も晴彦くんの家行くんでしょ?」


「そうだけど……」


「さっさと付き合っちゃいなさいよ。好きなんでしょ、晴彦くんのこと」


 欠伸混じりに言われると、本気で言っているのかどうか。正直に言えば随分前から言われていた。が、私がそのことで悩んでいると、その言葉は身に染みた。


「う、うん……」


 言葉に詰まった私の変化を、母は的確に見抜いた。


「あら、やっと真剣に考え始めたのかしら」


 我が娘ながらおっそいわね、と母さんは言った。


「私なんて中学からお父さんに唾つけてたのよ?私があんたなら、もう晴彦くんと結婚してるわね」


「そうだったの?」


 母の恋愛話など、今まで聞いたこともなかった。確かに、今だに父と仲はいい。月に何回か、必ず父の赴任先に行く。


「そうよぉ。最初に好きになったのは私だけど、今はお父さんのほうが私のこと好きね、多分」


 母はそれから、聞いてもいないのに自分の話をし始めた。


「大学の時にね、お腹に小夜ができて。明日音はまだわからないかもしれないけど、就職活動ってのがね、できなかったのよ。女の社会進出も進んでなかったし、子連れだしで、なし崩し的に主婦やってる。そうして明日音が生まれて。お父さんが結構頑張ってくれて今も暮らしていけるけど。今思うと、働いてるちょっと恭子さんが羨ましかったりもするわ」


 母のこういった思いは、口を出せない重みがある。私のせい、とはいわないけれど、私を育てるために、母は仕事という選択肢を捨てたのだから。


「だから何って訳じゃないけど。私としてはさ、結構気になるのよ。明日音と晴彦くんのことがさ」



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