俺の服がダサい理由Ⅱ
小野風華宅までの道のりを歩く最中、明日音はショップの前で立ち止まる。
何かと思い見てみると、もう夏物の新作の服が並べられ、ガラスの向こうではマネキンが夏を満喫していた。
鮮やかな色合いのスカート、日差しで輝くようなシャツ、それに添えられた多少のアクセサリー。
「こういうの?」
俺が隣に並んだことを察して、明日音が声を出す。
「そうだな。そーゆーのだ」
「私に似合うと思う?」
「着てみなきゃわかんないだろ」
「……うーん」
明日音はまだ何かを迷っているようだった。
ほら、行くぞ、と言うと、明日音は名残惜しそうにそこから離れる。
「……俺がプレゼントしてやろうか?」
え、と明日音が俺を見上げる。
「弁当作って貰ってばっかだしな。そのお礼も兼ねて、な」
思えば、俺は明日音に何かを貰ってばかりだったような気もする。それがいつしか当たり前になってしまっていた。
それは良くないよな、と思い直す。
「い、いいよ別に。そんな大したことしてないし」
「いーや、決めた。今度買い物に行くぞ。買ってやるから、好きなの選べよ」
決して安い買い物にはならないだろう。だが、渋る気持ちはなかった。
「それともご褒美制にするか?今度のテストで何点だったら、って奴」
俺の心が決まったことを明日音が察する。俺は中々に頑固者なのだ。
歩く足取りが軽くなる心地がした。
「じゃあ、お互いに、九十点以上の科目の数だけ、プレゼント」
「俺も貰っていいのか?」
「勿論。私だけじゃ不公平だし」
「じゃ、それで。そういうのあると、勉強もちょっとやる気出るよな」
当然だが、それじゃあ弁当の礼にはならない。
三年だ。自身のついでのようなものとは言え、三年も弁当を作ってもらって、何もなしというのはどうなのか。
この件はまた別に、考えておくとしよう。また三年、お世話になるのだから。
しかし、そうなると何をプレゼントしたらいいのか。
明日音が喜びそうなもの。
「晴彦、危ない」
「おっと……」
人にぶつかりそうになるのを、明日音が引っ張ってくれる。
「悪い、ちょっと考え事しててな」
もう、気をつけてよね、と明日音が返す。
『明日音、今欲しいものある?』
そう言いかけた口を、噤む。
「どうしたの?」
早く行かないと、九時過ぎちゃうよ。
「ああ、わかってる」
これは、言わないでおこう。そう心に決め、歩き出す。
明日音がどんなものをプレゼントすれば喜ぶのか。
どんなものを上げても、ある程度喜ぶような気がする。でも、それじゃあちょっと面白くないのだ。
感激されなくてもいい。でも何か、意味あるものを。
今までの感謝を形にしたものを、何か贈ろう。
こうしてテスト前、俺の受験科目が一つ増えたのだった。