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私たちが恋人になる理由  作者: YOGOSI
九話目
158/159

幼馴染みがエロくない理由Ⅲ


 晴彦の部屋は八畳。ドアから左手にベッド、対角線に机があり、机には学校指定の鞄が乗っている。右壁はクローゼットになっており、その上にはおもちゃのバスケットゴールが設置してある。部屋にあるのは本棚と電気ストーブ、あと小さな玩具のバスケットボールが転がっているだけ。



「うっわ、超シンプル」



 姉さんも引いているのか感嘆しているのか良くわからない声を上げる。男の部屋だけど、小奇麗、というより、想像以上に物がないのだろう。



 テレビもなければゲームもない。あまりここで過ごさないのだから散らかりようもない。



 しかし、晴彦の匂いは強い。毎日ここで寝て起きる。



 すん、と鼻がなる。なんだろう、香水でもない、晴彦の肌や髪からする匂い。



「探す場所もあんまりないんだよね」



 ベッドの下とよく言うけれど、明らかに何もないし、本棚もきっちりとしている。カバーだけが違うとか、そういったこともない。そもそも、晴彦はそういうのをきっちりしたがるタイプで、小説や漫画はこぎれいに揃えてある。帯まで取っている作品はお気に入りだ。



「机は問題ない。けど、なんかこれはちょっと心配になる部屋だね」



 学習机を漁り終えた姉さんは、狭い部屋を見回す。わからないでもない。晴彦の部屋は、薄い。



『こういうのが好きなんだな』とか、『こういうのが趣味なんだな』といったものが少なすぎるのだ。



「あんまり好きなものの話とかしないしね」



 風華も言っていたけれど、晴彦が話すのは基本的に『良い物』の話。好き嫌いが分かれるけど、私は好きだ、という話は余りしないのだ。



「好きなものがないって困るよね。ご飯作るときもそうじゃない?」



「そういうのはあるかな。晴彦は嫌いな物以外はたいてい美味しいって食べるけど」



 ただし嫌いなものはどう足掻いても嫌いなのが晴彦である。どうすれば食べれるというのはあるけれど。



「ちなみに小夜ちゃんはお刺身が好きだぞ?」



「昨日、恭子さんにお寿司のいいやつご馳走になったから、当分刺身はないと思うよ?」



 私が言い放つと、珍しく姉さんは本気でショックを受けていた。



「いいもんいいもん。はい次、王道クローゼットね」



 クローゼットは引っ張ってスライドする一般的なやつで、内部は上下に板で別れている。下は主に下着、上はシャツから何まで、と言ったわかりやすい使い分けがしてある。



「ここにも隠す場所はないと思うんだけど……」



 奥には夏服が収納され、ハンガーでよく着る服が吊るされている。上の棚の奥は背伸びをしなければ見えないが、どうも中学時代の教科書や卒業証書、また部活動引退時の寄せ書きなど、過去にあったものが保管されている。



『なんだかこういうのは捨てにくいよな』と晴彦は言う。別にそんなことはない、と思っていた私だけど、晴彦からのプレゼントは確かにどんなものだろうと捨てづらい。それが例え使い捨て式の何かだったとしても。



「ねえ、ちょっと」



「何?」



 姉さんが神妙な声を上げた。



「……あった」



「何が?」



「エロ本!あったよ!」



 嘘だ、と思うと同時に、視線は姉さんの持っているものに集中する。



 それは私が確かに見たことのない紙袋だった。参考書二冊分くらい分厚い、本屋で本を買ったときにいれてくれる紙袋のようだ。



「ホント?」



「マジマジ!ほら、見て!」



 興奮した姉さんが出したのは、確かにそっち系の本だった。



 全部で三冊有り、二冊は写真集のようなもので、一冊は漫画本だ。



「こういう写真集って稼げるんだろうな……」



 姉さんが神妙な顔で写真集を見ていた。モザイクはかかっているものの、見えてはいけないものが露出している。



 出ている人は皆胸が大きく、どこかエロティックな表情をしていた。



 なんというか、身体付きが私とは全く違う。軽蔑などしない。同じ女として、男の目を引く何かを持っている彼女らに畏敬の念を抱くほどだ。



 それをお金にしている、という行為が褒められたものであるかどうかはともかく。彼女らはそうして世界中の多くの男子に必要とされている。ある意味では凄い仕事である。私には到底できない。精神的にも、もちろん肉体的にも。



 私を必要として欲しいのは、いつだって一人でしかないから。



「は、晴彦はこういうのが好み、っていうこと?」



 当然ながら出ている人は全て性的な魅力に溢れている。



 晴彦がそういう本を持っていたことにショックはなかった。



 むしろ、女に興味があったことを安心し、好みの女性になろうという新たな目標が生まれつつあった。



「ははぁ、なるほど。晴彦くんは大人の女性の方が好みのようですな」



 確かに、写っているのは全て私より年上に見える――、と、ショックを受けかけたけれど。



「こういうのって、未成年は出ちゃだめでしょ。当然じゃない」



 考えてみれば、えっちな本に出ているのが基本的に二十歳以上というのは当たり前のことで。それを言ってしまえば、エロ本を持つ男子は皆二十以上の女性が好みという非常に偏ったデータが生まれてしまう。



 そして言ってしまえば、こういう本に出ている女性は皆胸が大きく、ある程度美人なのである。



 私は気づく。エッチな本というのは、男性を知る上で案外あてにならないのではないか。というより、こういう一般的なものより、かなりフェチ的なものを持っている場合、少しヤバイのではないかと私は思う。 



「……漫画の方は?」



 現実というのは、どうしても似たり寄ったり。



 しかし、二次元であれば話は違う。こちらならなんでもありだ。フィクションなら、演技なら人が死んでもいいという空想理論とでも言おうか。



 推理漫画を書くために、毎週誰かが犠牲になる。漫画の世界はかくも残酷である。



「漫画は……、うわ、何この書き込み。凄く綺麗」



 巻頭のカラーもそうだが、えっちな漫画というのは、普通の漫画より非常に凝っている。特に肉体の書き方なんかは、男の女も非常に魅力的に、そしてどこか生々しく描写してある。まあ、現実にはないとは思うのだけど。リアルではないのだけれど、リアルな描写が受けているのだろう。逆にこちらの想像力を掻き立てるのだ。



「週刊誌なんてのは締切との戦いとか言うしね。それに比べたら、質が勝負の世界なんじゃない?」



 この雑誌がいつ発売されるのかは知らないけれど、この書き込み具合で週間ということはないだろう。



 パラパラとめくられる紙には、異様なほど大きな胸と、嬌声と、良くわからない液体のオンパレードだ。



「こ、こんな感じなの?」



 私が姉さんに尋ねると、小さく笑う。



「全然。初めては痛いだけだし、場合によってはその後も痛いだけってこともあるわ。漫画やAVを鵜呑みにしちゃダメよ」



 どうやら、漫画のように必ずしもうまくいくとは限らないようだ。



「じゃあ、晴彦の性癖はわかった?」



 私が尋ねるも、姉さんがパラパラと、その雑誌を流し読みする。そしてその全てが終わる。



「うーん……。どうだろ?良くわかんないなぁ」



 なんだかパッとしない答えだった。



「どういうこと?」



 私はそれらをすべて見る度胸はなかった。



「なんていうのかな。雑誌としてよくできてはいるんだよ。出てる女の子は可愛いし、漫画の方は絵も綺麗だし。でも、別にこれが好き、っていうのは感じないかな。強いて言えば、いつもの晴くんと同じ、『良い物』が好き、って感じ?」



 エッチな本にも、良いとか悪いとかがあるのか――。



 そんなことを私は思った。ただ裸が載っていればいいというわけではないらしい。



「うーん、フェチ的なものは、確かに感じないかな……」



 全裸の女の子が写っているだけというは、王道過ぎていうこともない。



 私だって女だ。裸になれば多少性的にもなる。というか、裸で性的にならないというのは逆にまずいだろう。

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