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私たちが恋人になる理由  作者: YOGOSI
九話目
154/159

結婚が重い理由Ⅲ


 俺の母さんと、奈美さんの境遇はかなり違う。



 若くして妊娠してしまった奈美さんと、どちらかといえば行き遅れギリギリだった母さん。



 言ってしまえば、『若さ故の過ち』を推奨していく母さんに対し、冷静にそれを見極めようとする奈美さん。



 まあ、どっちの主張も理解はできる。



「若い時の一瞬ってのは貴重よー晴彦。制服でやれるなんて、あと二年したらお店でしかないんだからね?」



「恭子さん、それは言っちゃダメなんじゃ……?」



 流石の奈美さんもドン引きである。



「情操教育って奴よ。仮にも思春期男子。そういう話はあるでしょ?明日音ちゃんなんて身近な女の子がいたら、普通ならもうやばい領域にいるわけ。だから、初めから言っておく」



 性に理解のある母親でよかったと思うべきなのか、恥ずべきなのか。俺にはまだわからない。



「万が一出来ちゃっても、堕ろすことはできるわ。うちの産婦人科にも何人も来る。でもね、そういう子は結構色々あるのよ。お金はいいわよ。うちは共働きだし、お父さんだってまだまだ現役だし。でもね、明日音ちゃんは傷つくわよ?」



 俺が何かを話す前に、勝手に母さんは話をする。



 病院には、色々訳ありの人が来るのはわかるのだが。



 果たして、その話を俺にする程度、俺は母さんから信頼されていないのだろうか。いや、むしろ焚きつけられているのか?一体俺はこの話を聞いてどうするのが正解なのか全く分からず、ただ唖然としてその話を聞いていた。



「相手のことを考えるなら、そういうことも考えること。中絶とか簡単に言うけど、負担もかかるんだし。特に若いうちはね」



「はっきり言うけど」



 奈美さんが何か心配そうな瞳で俺を見ていた。



「俺そういうの、あんま考えてないから」



 そして理解不能だという顔に瞬時に変わった。



「ど、どういうこと?」



「いや、どうもこうも……。流石に俺だってやっちゃまずいことはわかってるってことですよ」



 俺が奈美さんにそういうと、母さんは露骨につまらなさそうな顔をした。



「ほんとあんた、つまんない息子よねぇ。陰毛とか生えてんの?」



「きょ、恭子さん!」



「生えてますよ、ちゃんと」



「晴彦くんも、反応しない!」



「なーによ、いいじゃない、どうせ数年後にはうちの子になるんだし。こっちはもう受け入れ態勢万全だからね。むしろ年齢満たしたら結婚届くらいだしてもいいんじゃない?とか思ってるくらい」



 そう言って母さんは奈美さんの隣に腰掛ける。



「それはまあ、否定できないですけど……。早いと思います、軽率です!」



「大丈夫よ。うちの息子はよくわかんないけど常識あるから。現に、こんなに密着したままで何もしてないでしょ?」



「まあ、晴彦くんは信頼してますけど……。恭子さんにそそのかされたら、もしか、とか思っちゃいます」



 実の親にそそのかされるとは、一刻も早く家を出たほうがいいのかもしれない。



 そんなこんなで、母さんと奈美さんのやりとりが続く。そして、明日音に変化が起きていた。



 寝息が浅い。寝息というより、呼吸しているよう。それに、鼓動の感覚が早い。



「……起きたか?」



 俺が話しかけると、少しだけ明日音は身をくねらせて答える。



「な、なんで母さんがいるの……?」



 うつ伏せの体制を維持して、明日音は俺に聞く。寝起きからなのかわからないが、顔が真っ赤だ。



 奈美さんの声で起きてしまったのかもしれない。



「まあ、色々あって」



「母さんがいるってことは、写真撮られた……?」



「写真は母さんが撮ってた。あと、飯は出前で取ることにしたから」



 明日音は羞恥に悶え、炬燵に隠れるようにして下がっていく。



「……どうやって起きればいいかな?」



 起きるタイミングを逸した明日音は、困っていた。まあ、どのタイミングで起きたとしても既に手遅れなのだけれど。



「もうちょっと寝とけば?」



 問題を先送りにしても、何も解決はしないことはわかっているけれど。



「う、うん……」



 俺に対してではないけれど、何かと口うるさい母さんと奈美さんはいい母親である。



「結婚してても大学っていけるの?」



 俺がそう尋ねると、母さんが嬉々として答える。



「結婚だけなら高校卒業からできるわけだからね。子ども作ったりするとアレだけど、するだけなら別に問題ないはずよ。いいわよねー、学生結婚とか。夢のまた夢って感じ?私はね、明日音ちゃんにはそういうのを味わってほしいの!」



「結婚式とかどうするんですか。大学とかで忙しいのに」



「やーね、卒業してからやればいいじゃない。今は大学も人生の夏休み、なんて言われるくらいだから、それを新婚旅行替わりなんてのもありよね?」



 確かに、同じ大学に受かれば、アパートで明日音と同棲生活をするつもりではあるが、その前に婚約届けを書くなどという発想はなかった。



 結婚式やらなにやらと、金がかかるものだと思ってはいたけれど、それは日本や世界の慣習的なもの。



 はっきり言ってしまえば、別に結婚式などしなくてもいいし、指輪も要らない。



 本当に必要なのは市役所に出す紙一枚。それだけ。



 ある意味、結婚というのは携帯電話の機種変よりも簡単だ。結婚式や指輪などは、その価値を意図的に高める付属品でしかない。

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