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私たちが恋人になる理由  作者: YOGOSI
九話目
151/159

少し距離を置いた人と仲良くなれる理由Ⅲ



「昨日電話で話したけど、やっぱり働くってことは大変だって言ってた」



「当然よね。楽な仕事なんてないわ。というか明日音、あんたその姉と仲悪かったんじゃないの?」



「んー……、別に仲悪かった、ということじゃないけど。歳も離れてたし、姉さんは姉さんで昔から友人付き合いで家を空けること多かったし。あんまり接点がなくてね。それがなんか、高校に入って珍しく帰省して来たときに、多少喧嘩みたいなところもあったのは確かかなぁ」



 晴彦を貰うだの、奪うだの言っていた割には、姉さんは晴彦にさほどの執着を見せていない。電話もほとんどしていないみたいだった。



 逆に私の方にはたまにメールや写真が送られてくるし、面倒でスルーすると怒ってくる。わざわざ私の方に「晴彦君にも見せて!」とセクシー写真を送り付ける事もあった。



「確かに腹が立つって言うか、腑に落ちない所は幾つかあるけど。仲が悪いとかじゃなくて、今はなんか、普通って感じ、かな」



 私が言うと、茉莉も風華も何処となく感心した様な素振りを見せた。



「それはきっと、あんたと仲良くしたかったのかもね」



「そうだなー。歳が離れてても姉妹だしな。仲悪いならともかく、何も思わないって言うのは悲しいよな」



「姉さんが私と仲良くしたい、って言うのはあんまりピンとこないかな……」



 仲が良い、とかそういう物ではない様な気がする。からかわれているとか、そんな類の物である。気ままな猫が遊び道具を見つけて暫く遊んだ後見向きもしない様な感覚に似ている。折角買ったのに違う遊び方をしたりするのもそうだ。



 そんな感覚を説明すると、茉莉は面白そうに笑う。



「じゃあ晴彦は犬派だったってことだな」



「言えてる」



 二人は瞳を合わせてニヤける。私にはその意図が見えない。



「晴彦は動物は割と何でも好きだよ」



 蛇も見る分にはいい、と言っていた。私は虫も爬虫類も駄目だ。猫の様に懐かないのも面白くないし、とは言え犬の様に懐かれるのも嫌だ。後、獣臭い匂いも好きじゃない。



「そう言う意味じゃないの。明日音って犬っぽいじゃない?」



「そうだな。晴彦が『待て』って言えばきっちり待つ忠犬って感じだな」



「そんな事無いと思うけど……」



「でも、きっと明日音って晴彦との約束を破ったことってないでしょ?」



 私は今までを思い返す。



 晴彦と喧嘩をした事は無い。約束を破った、と大袈裟に言えるほどの約束をした事は正直無いとは思う。一緒に出かける時も待ち合わせは晴彦の家だし、晴彦の家でダラダラしていたら私の方が面倒くさくなって行かないとかそういうパターンもある。



「そもそも約束とかあんまりしないし」



「ああ、うん、そう言う所から違うんだな……」



「デートの約束をするとかじゃなくて、もう日常がデートみたいなもんだからね」



 全てのデザートが口に入っても、私達はダラダラと話す。注文しないのも悪いのでドリンクを適当に注文する。




「でも、ご飯作ってるのも私だし、家事してるのも私だし。犬っぽいって感じじゃないでしょ」



「いや、忠犬も出来るなら主人にご飯作ったり家事したりするかもしれないわよ?今はやってるじゃない、擬人化って奴。明日音がするなら犬耳がお似合いよ」



「じゃあ茉莉や風華は?」



「そうだなー、自分は馬が良いな!走るの早いし!風華は……なんだろ。狐?」



「いいわね、狐。ぴったりじゃない。裕翔は猿ね。バスケの時のあの跳躍力と言い、女に目覚めたとたんにがっつく感じも正しく猿だわ」



 佐々木くんの新たな恋は、当人たち以外ほぼ全員が理解している。二年の町田先輩と長谷川先輩の様に、いつ付き合っていますとカミングアウトをするかという見守り方ではなく、佐々木くんが上手くやるかどうかということを見守る様な視線がある。




 お相手の渋谷霞さんはどうもその手の話が苦手な女子で、一言で言えば怖い。別に悪い人ではないのだが、なんだか喧嘩腰のように私には思える。



 端から見て下手くそなアピールを続ける佐々木君と、それに全く気付かない渋谷さんを、まるでコントのように私達は見守っている。佐々木君や渋谷さんに誰もアドバイスをしない所が、私含め皆性格が悪い、と言われても仕方は無いだろう。



「じゃあ晴彦は?」



 私が問うと、茉莉は風華を見る。



「晴彦は犬じゃない?ゴールデンレトリバー」



 風華は即答した。しかも種類まで明確に。



「確かに、穏やかで優しいもんな」



「じゃあ私の種類は?」



 姉はなんだろう。ロシアンブルー?アメリカンショートヘア?猫の気性がどうだとか言う話は解らない。



「そうねえ……」



 風華は自分の端末で犬の種類を検索しだす。



「柴犬とかじゃないか?明日音は日本犬だろ?」



「ち、チワワとかは?」



「整形で目をぱっちりにしたらそうなるんじゃない?土佐犬とか言わないだけ有情だと思いなさい。秋田犬も捨てがたいけどやっぱ特性を鑑みると柴犬ね」



 画像と一緒に、風華が端末を渡してくる。



「えっと……基本的に主従関係に厳しく、警戒心と攻撃性が高め……?別に私攻撃的じゃないよ」



「そうかしら。晴彦にちょっかい出す女性がいたらけたたましく吠えそうだけど」



「警戒心は確かに高そうだな」



 そう言われると確かにと言わざるを得ない。今ではそうではないが、かつては風華も茉莉も、警戒をしていた過去がある事は言えない。茉莉はともかく、風華はそれを感じていたのかもしれない。



「高温多湿に強い……確かに身体は強いけど。あとは……主人に忠実、他の物に馴れ馴れしくせず……」



 当っている、のかもしれない。釈然とはしないが。端末を返す。



「ね、日本犬でしょ?それで忠義深い柴犬はゴールデンと平和に暮らしていたけど、そこに野良の猫が入ってくる物だから気に食わなかった、と」



「良かったじゃないか。ネコとは仲良くなったんだろ?」



「う、うーん……。良かった、のかな」



 姉と言う存在がどういう物なのか、まだ自分の中で整理が付いていない。



「そう言う茉莉はどうなの?あんた一年でもはや鉄壁の城呼ばわりよ」



 茉莉が泣かせた男は数知れず。断り方もばっさり爽快であるので、ある意味諦めが付かず、何度も挑戦する男子もいるらしい。



「別に意固地になって告白を断ってるわけじゃないぞ?ただ、やっぱ休日を男子と、っていうのは違和感があるし、付き合うっていうのもなんかピンとこないな」



「付き合ってみてもいいかな、とかそういうのもないの?」



「ないなぁ。あれだろ、恋って、ズガーンってくるんだろ?明日音はどうだったんだ?」



 どうやら茉莉は一目ぼれしか許容しないスタンスらしい。



「どうかな……。人それぞれだと思うよ?私は別に、晴彦に告白された訳じゃないし、私も告白とかはしなかったし。お互い、じゃあ取りあえず、的な感じで始まったような気がする」



 劇的な何かは正直無かった。恋人になって何が変わったと言う訳でもない。ただ、同じ高校に行く事になって、それで色々、中学時代で抱えてた物を吐きだして。それでなんとなく、本当になんとなく、付き合っている、という状況になっているのだ。



「茉莉、明日音に聞いたらだめよ。ハードル高すぎて飛ぶ気も失せるわ」



 風華の言葉はともかく、茉莉は興味深そうに私を見ていた。



「じゃああれか。好きですとか晴彦に言われた事は無いのか?」

 



「ない事は無いけど、あんまりしないかな。たまに、なんていうかそう言う雰囲気になる時はあるけど、好きだとかそう言う者を、如何に行動で示すか、って言う感じかな」



「キスとかそう言う事?」



 風華も興味なさそうだった割には会話に参加する。



「そんな感じ。言葉に出すのは、なんていうか軽いって言うか。別に言わなくても、というか、逆にどう言葉以外で晴彦に好き、ってことを伝えるか。みたいな所は正直あるかな」



 真っ向から好きだと言われた事がないわけではないし、正直言葉も嬉しいのだけれど。晴彦が私を好きだとそれ以外の何かで示してくれるのは嬉しい。



「言葉以外で、ね……。あんたたち何もやってない様に見えて、高度な恋愛してんのね」



「そうだな。なんか恋人である事を秘密にしてる二人、見たいだ」



「別に隠してはいないよ……。ただ、やっぱり中学の時に晴彦とは色々あったから、それが尾を引いてるんだと思う」



 学校内で晴彦と極力接触しないと言う方針は、中学の時と変わらない。小学校から上がり立ての中学時代は、幼馴染の関係を大いにからかわれた物だ。晴彦がバスケを始めたのもそれに一辺の理由があるし、私が部活動に入らなかったのもそうだ。



「やっぱ恋愛って大変そうだなー。あたしはまだいいや」



 茉莉が背もたれに後頭部を押し付ける様に天井を見る。



「気になる男がいれば適当に付き合ってみるのも悪くないと思うけど?」



「そう言うのは余りやりたくないな。相手を弄ぶようで嫌だし。それに、下の子たちにばれたら赤っ恥間違いないしな」



 茉莉の純情な部分を打ち砕く人間がどこかにいるのだろうか。家族思いの茉莉を恋人にするのは容易くない様だ。



「風華はどうなんだよ。恋人とか」



「私に告白してくるような変人がいるなら、それは晴彦くらいでしょうね」



 風華が私を挑発的な瞳で見た。だが、それはやがて落ち着いた瞳に変わる。



「私はほら、別に恋愛結婚しなくてもお見合いで適当な相手を見繕われるから。良家ってのも大変よ。一々五月蠅いし、長女だから逃げ場もないしね」



 家柄、というのは本当に厄介な物である。私の様な駆け落ち同然の様な夫婦は珍しい。それに、父さんは身を粉にして働いてくれて、家に帰っても来れないのだ。



 お盆に晴彦が実家に帰る事もあまり好きではない、ただ、やはり後ろ盾があるのと無いのでは違うのだろう。もし、私の母さんと父さんの交際が認められていれば、父さんは毎日家に居たかも知れない。ただ、それではきっと私は晴彦と出会っては居なかったのだろうとも思う。




「風華は納得してるの?」



 私の質問に、風華は首を振る。



「流石にまだね。ただ、私が変わってる事もあるし、ある意味お見合いでも家柄でも結婚相手が必ずいるってのは変な重圧が無くていいわよ。いっちゃなんだけど婚期が遅れる事は無いわけだしね」



 その結婚が幸せな物かどうかということは置いておくのが前提だ。



「はー、皆色々あるんだなぁ」



「そりゃそうよ、と言いたいけど。まあ私達は結構特殊よね」



 風華が伝票を見る。デザートと飲み物だけで、其処まで値段は行かない。それでいて一時間以上ここに居るのだから、回転率は最悪の効率だ。だが、女子高生と言う生き物はそう言う生き物なのだから仕方ない。特殊な私達でも、女子高生と言う事は変わりないのだ。



 その後、なんだかんだと言いながらわかれる。二人はクリスマスの予定は無いようだった。適当にいつもの様に過ごす、と言っていた。まあ、茉莉当りは男子からの誘いがひっきりなしにあるだろう。



「うう、寒い寒い」



 皆と別れて一人になると、急激に寒さに対する体制が弱くなるようだった。姉さんはもう家に帰ってきているだろうか。



「……着替えずに晴彦の家に行こう」



 私はそうして、真冬の道を急ぐ。暖かさを求めて。

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