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私たちが恋人になる理由  作者: YOGOSI
九話目
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少し距離を置いた人と仲良くなれる理由Ⅱ

「大学生なんだっけ?年末は帰ってくるとかそういう話か」



「まあ、そんな感じかな」



 姉の早川小夜は、明日の二十三日の夜に帰省する予定なのだそうだ。



 どうやら、ここ三ヶ月で劇的な変化があったようだ。まあ、二人に詳しく話すような内容ではない。



「私も大学に行くんなら、一人暮らしとかすんのかなー。そうなると、弟どもの面倒は誰が観るんだ?」



 茉莉の家族は、中学二年生の弟、小学校六年生の次女、五年生の三女。そして幼稚園年長の四女の五人兄妹。



「あの二年経てば、弟さんが面倒見てくれるんじゃない?



 茉莉は、どうかな、と心配そうな表情をした。



「うちの弟は裕翔みたいな感じだからな……。下の子の面倒見るより、喧嘩してばっかだし」



「心配ないと思うけどな。兄妹って、そんなものじゃない?私だって、別に姉さんと仲がいいって訳じゃないし」



「そうなのか?」



 茉莉が目に見えて意外だ、という表情をする。どうだろう。言っておいてなんだが、私にもよくわからない。



 ただ、普通一般の仲がいい、という項には当てはまらない箇所が多くあるような気もする。そもそも、数ヶ月前まではあまり話したこともなかったのだ。



「多分、そうかな。頼れるところはあるけど、きっと茉莉の家みたいな感じじゃないと思うな」



 少なからず、何かを話すことはある。身内、という特別なものは、仲が良い、悪いとは少し違う。



「明日音の姉さんって、どんな人なんだ?」



「え?うーん、なんていうか、人生舐めてるって感じ?」



『このままモデルになっちゃえば就職活動とかもしなくて楽じゃない?いや、仕事自体は大変だけどね?』




「なんだそれ……」



「人生舐めてるんだよ。将来苦労するタイプ」



 実際はどうなのかわからない。けれど、容姿もよく頭も良く、性格は悪いけれど周囲に気を使うことのできる姉は人生イージーモードと言っていい。



 ただし、難易度が低いだけに欲しい物が手に入らなかったりする。



 美人はそれをわかっているから、自分の難易度では手に入らないレアな何かを求めて旅をする。得られるかどうかはわからない。確率の神様に祈れば、宝くじの一頭が当たる確率で何かを得ることができるかもしれない。



「明日音が姉ちゃんと仲が悪いってには、なんだか意外だな」



「……別に悪いわけではないけどね」



 私の人生は容易くもなく難しくもない。



 一言で言うなら、『幼馴染を好きになりました。両思いでした』で終わり。終わるといい。ここから実の姉がイチャモンをつけて来るような昼ドラ展開は望んでいないのだ


「……どういうことだ?」



 結局、教室に着くまで茉莉は混乱しっぱなしであった。



 終業式が終われば、あとは適当な提出物を受け取って帰るだけだ。その中には、文理選択のプリントもある。



 理系は二クラス、文系は五クラスと決まっているが、理系の希望が余りに多い場合、三クラスになる可能性もあるのだという。そう言った意味で、調整をしなければならないのだろう。教師も早く提出するように、と念を押した。



「やっと終わったわ……」



 風華も戻ってきて、心底疲れたように息を吐く。



「お疲れ。中々様になってたぞ」



 茉莉の励ましに、ありがと、と躊躇いがちに応えた。



 風華はああいった役割もできるが、余り得意ではないのだとか。『黒幕だから表舞台に出るのは苦手なんだよ』と晴彦は笑っていた。



「また皆で打上でもやる?」



 風華が珍しく提案する。



「いいな!やろう!」



 部活のない茉莉が声を上げる。陸上部は寒くなると、徹底して練習メニューを制限する。



 適当に走るだけであると、その後体調を崩したりしがちになり、結局身体が鈍るのだという。休みを計算するのではなく、練習量の徹底した管理。自主的なトレーニングさえ禁止されるのだとか。まあ、走ることが好きな茉莉には無理な話だ。



「明日音は?」



「勿論行くよ」



 いつもの三人で、適当にぶらつくのだろう。目的はない。だが、それがいい。



「明日から晴彦とイチャイチャできるもんな。今日ぐらいは付き合ってもらわなきゃな」



 そうね、と風華も笑う。



「そうだったらいいんだけどね……」



 明日には、姉が帰ってくる。



 晴彦を最早義理の弟として認識し、それを利用して晴彦にちょっかいをかける厄介な人が。



「何よ、何かあるの?」



 風華が珍しく普通に疑問を抱いて私に聞く。



「二人が思うほど、休み中に二人でいる時間はないってこと」



 私が言うと、茉莉が興味を示した。



「お、じゃあ話題は決まったな。後は場所だな!」



「いつものファミレスでいいんじゃない?」



 三人で何かをやるときは基本的にファミレスが多いけれど、他のおしゃれな場所にも行ったりする。まあ、喋るのがメインなので気後れする場所は余り好まれない。



 そこそこ長居をして、ある程度の音量で話しても迷惑にならない場所は意外に少ないし、タダでもない。ファミレスというのはその点女子には都合がいい。



 子供連れがいれば自分たちよりやかましくはしゃいでくれるし、長居もできる。ドリンクバーなどがあれば二時間は軽い。



「いいかも。冬に食べるパフェもいいよね」



 しがないチェーン店だが、デザートには拘っている。特にパフェなんていうのは。自分で作るより店の方が何故か美味しい。



 晴彦と行くとこうはいかない、というか、晴彦といるのなら晴彦の家が一番落ち着く。



「恋人はいいの?」



 風華のどことなくからかいを含んだ言葉。



「大丈夫だよ。三組でも打ち上げあるし。佐々木君にも誘われたけど、あのノリについていける気がしないから、断ったんだよね」



 わかるぞ、と茉莉が頷いた



「酔っ払いってあんな感じなのかな?」



「いや、酔っぱらいはもっと酷いけど……」



「酒は飲んでも飲まれるな、というけれど、別に酒を飲まなくても酔うことはできるのよね」



「そうだな。車の中で本読んだりすると酔うよな」



「うん、そういうことじゃなくてね」



 そんな茉莉を少しからかいながら、近所のファミレスへ。



 全国的なチェーン店ではあるけれど、メニューにはオリジナル色が強い物が乗っている。デザート系が豊富で、女子に人気のお店である。私たちの他にも、主婦やほかの学校の女子などをよく見かける。



 話に聞けば、店長がパティシエを目指していた女性で、デザートには強いこだわりを持っているのだとか。人員不足なのか、『店長』と書いたプレートを胸にさしてたまに接客をしている。



 従業員もほぼ全て女性で、ある意味では女性による女性のためのファミレスである。内装は別段変わってはいない。どこにでもあるようなテーブルと椅子、観葉植物に小綺麗な店内。



 店の制服が可愛いということもないが、客の大半が女子なので男子は落ち着かないだろう。



 実は晴彦と一回来たことがあるが、『なんか居づらい』と晴彦でさえ苦笑いを浮かべていた。事実、ここで男女の二人組は浮く。男という存在が異端であるかのような視線を、周囲の客や、従業員から感じるのだという。女ばかりというのもまた不健康なのかもしれない。



 適当な席に案内され、これまた適当にメニューを決める。



 夕飯があるので余り多くは食べない。飲み物と軽いデザートのようなものを頼む。



 その全てが揃い、仕切りになれた風華が軽く音頭を取る。



「じゃ、今年もお疲れ」



 グラスを軽く掲げるようにして一口飲む。



「もう年末だな。二人は年末どう過ごすんだ?」



「私は変わらないよ。テレビ見てゴロゴロしたりするだけ。あ、でも初詣には行くかな」



「縁結びの神社を教えてあげようかとも思ったけど、必要なかったわね」



「私はまた下の子たちの世話役が始まるから、ゆっくりはできなさそうだな」



 それでもどこか楽しそうにしている茉莉がいる。風華は?と茉莉が尋ねる。



 風華は頼んでいた抹茶オレのストローから口を離した。



「別に、私も変わらないわよ。まあ、ちょっとした年始の挨拶で面倒くさい付き合いが増えるだけ」



 確かに、と茉莉も同意する。


「面倒だよなぁ。別にやりたいわけでもないし。明日音もそう思うだろ?」



「私の両親は駆け落ち同然だから、実家とかないんだよね。晴彦はあるけど」



「中々に重い話ね」



「その、何か悪いな」



 二人共何故か畏まる。



「いいよ別に。気にしてないし。それに、寂しいと思ったこともないしね」



「晴彦がお爺ちゃんとお婆ちゃんの代わりなわけか」



「その例えもどうかと思うけどね……」



 風華があきれ顔で笑う。ガラスの外は冬の風が吹き付ける。去年の冬はどうだっただろう。今年の冬は、やや暖かい。



「明日音の姉さんってさ、凄く美人なんだろ?料理研究部の人が言ってた」



 姉さんは合宿に父兄枠として参加したので、多少知られている」



「モデルのアルバイトはじめたらしいよ」



「へぇ、モデル。大したものじゃない」



 風華が手放しで人を褒める時は基本的に興味がない時だ。

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