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私たちが恋人になる理由  作者: YOGOSI
九話目
143/159

退屈がいちばん平和な理由



「それではー、一年二組、小野風華の生徒会長就任を祝いましてー」



 茉莉がジュースを高く掲げる。



 場所は風華の家の、風華の部屋。



 並んだジュースに、数々のお菓子。そして二段の重箱に入った明日音の料理。



 選挙の翌日に発表された結果は、俺の予想したとおり。



 世間では番狂わせだという人もいたが、その実これが妥当な結果であるのだ。



 何票だったかという記載はなかった。気になるところではあるものの、当初の目的を果たしたのだからよしとする。



「かんぱーーーーーい!!」



 かんぱいー。



 この部屋にいるのはいつものメンバー、俺と、明日音と、茉莉と裕翔と、そして風華。



「いやー、やるもんだね!」



「私たちまで誘ってもらって良かったのかな」



 そして我が一念三組からなぜか渋谷霞と保科紬の二人が参加し、計七人の、騒がしい宴会が繰り広げられている。



「いーんだって、晴彦も無事に生徒会入りになったんだし、その祝いもあるだろ」



 この二人を誘ったのは、なんと佐々木裕翔である。



「あの裕翔が女子を誘うなんてね。失恋騒動は流石にダメージがでかかったと見えるわ」



「う、うるせーぞ。いいじゃねーか」



「お、この唐揚げうまっ」



 裕翔をからかう言葉に全く動じず、雫は明日音のおかずを口一杯に頬張る。



「ありがとう」



 明日音はどこか照れくさそうに、いつものように控えめに佇んでいる。



「しかし、雫は茉莉と似たようなものだと思っていたけど、近くで眺めると少し違うんだな」



 俺は茉莉と雫を交互に見る。



「そりゃあ、他人だから違って当然だろ?」



 茉莉が素直に声を出す。



「北川と一緒にすんなっつーの。私らはどっちかっていうとギャルだから。天然ガールとは百八十度違うから」



「天然じゃないって。そもそも天然ってなんだよ。雫が養殖な訳じゃないだろ」



「そういうのが天然ってんだよ」



 雫と茉莉は、その要素を言葉にすると何かと似ている。



 二人共細かいことを気にしないし、冴えない運動部であるし、性に対してあまりにもあけすけだ。



 今日は二人共パンツだからいいものの、同じ格好をスカートでも平気でするのだ。



『パンツ?ただの布だろ?』という雫の言葉は三組で一時期流行った。



 顔は似ても似つかないけれど、一目につく特徴が似ている。高校一年にもなって、男子を意識しないのはこの二人くらいだろう。



「しかしまあ、雫ね……」



 先の思い人とはまた百八十度くらいタイプが違う。いや、裕翔が好きであるということではないのかもしれないけれど。



 それでも、ある意味で似たタイプの茉莉は恋愛対象外だというのに、雫はどうでもそうではなさそうだというのがなんともその気なのではないかと思わせる。



「あんだよ?私がいるのが不満か?」



「いいや。まあ、俺も少し思うことがあるってことだよ」



「なんだよお前まで……。まさか私をまっとうな女だと思ってるんじゃないだろうな?」



「いやいや、お前もまっとうな女だろうよ。そんなだから教師に色々言われんだぞ?」



「私を女扱いする奴なんてもういないって!」



 雫は笑いながら物を噛み、何かがあちこちに飛び散る。



「雫、汚い」



 紬がその後片付けをする。



「それにしても、早川さんだっけ?凄いね、この料理」



 紬は明日音に合わせるかのように話を振る。



「あ、うん、ありがとう。そんなに手は込んでないけど」



「これで?料理研究部ってすごいのね」



 明日音は基本人見知りだが、紬はゆっくりと話を聞くタイプなので誰とでも会話をして過ごすことができる。



「人の繋がりもよくわからんもんだな」



「一期一会とか言う奴よね」



 生徒会長になった当の本人、小野風華は静かに緑茶を啜っていた。



「しかし、前より確かに部屋っぽくはなったが……」



 以前の風華の部屋は、壁という壁に本棚があり、正しく本に囲まれた部屋、という風だった。今はその本棚は図書室のように広い部屋の一角に効率的に押し込まれ、図書室のように向かい合って本を収納している。



「あれ地震が起きたら大変だろ」


 風華の部屋は一面畳であり、本棚は見る限り固定もなにもされていない。倒れてもいいようにはなっているのだろうが、危ないことこの上ない。



「倒れたら本に埋もれるという長年の夢が叶うから別にいいわ」



「風華は本当に変わってるよな……」



 本に囲まれると聞いて、茉莉が呆れたような声を上げる。



「それは俺も同感だ」



 生活感という言葉は、風華には無縁のようだ。



 ベッドとこたつがある図書館と言ったほうがしっくりくる。



「それで、別件の方は上手く片付いたんでしょうね」



 風華も少しながら気にしていたのだろうか。無関心を装い俺に尋ねる。



「ああ、まあ……。少し変な顛末にはなったけどな」



 あの選挙の結果のあと、俺に真っ先におめでとうと言い放ったのは、まさかの菊池昴元生徒会長だった。



『いやぁ、おめでとう!流石、僕の眼鏡に叶っただけはあるね!あれだけ優秀な人材と知り合いなのも頷ける!」



 彼はまるで、俺が良きライバルでもあるかのように語り、握手を求めてきた。



「なにそれ。握手したわけじゃないでしょうね」



「いや、したよ」



 はぁ?という風華と茉莉の声が響いた。いやだって、手を差し出されたし。



「それだったら、またあの美人の先輩に付き纏うんじゃないか?」



「いや、別に春風先輩のことが好きじゃなかったらしいし、大丈夫だろ」



 彼の春風先輩への執着はやはり物欲に近かったらしく、どうしても手に入らないと知れば、潔く諦めていた。



「じゃあなんだ?最初からきっぱり言ってればここまでこじれはしなかったってことか?」



「そうだろうな」



 人との付き合いで、完全な拒絶を見せるというのは大変なものだ。それこそ、春風先輩には向いていない。明確な拒絶も、他人から見れば可愛いく写ってしまうのだ。今回の勝負は、菊池昴先輩にとってもいいきっかけだったのだろう。



「……理解不能ね」



「まあ、そういう人なんだよ」



 最も哀れだと思われたのは、永峰英哉先輩である。あれ以来、菊池先輩は彼に興味をなくしたかのようである。いや、彼にとっては全ての人間は利用価値という基準でしか判別されない。利用価値がなくなれば、また路傍の石に戻るだけ。



「で?連絡先か何か交換したの?」



「まあそんな感じ」



 使うかどうかはわからないけれど、持っていても損はないだろう。彼自身の人格は確かに俺には理解できないものであるけれど、それが何かの役に立つ時が来るかもしれない。人脈というやつだ。

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