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私たちが恋人になる理由  作者: YOGOSI
二話目
14/159

私がこの頃おかしな理由Ⅲ

 時は流れて、勉強会の話をした日の帰り道。


「明日音さん、トマトは無理だって……」


「そう?結構甘いの選んだんだけど」


 今日晴彦のお弁当に入れたミニトマトは、結構高級な一品だ。私も食べたが、甘くて美味しかった。


 母さんは晴彦のことになると財布の紐がゆるくなる。お弁当に入れてみたいと言ったら多少高かろうと普通に買ってくれた。


「甘かろうか辛かろうが、トマトは胃が受け付けない」


「身体にはいいのに」


 それはわかってるよ、と晴彦は言う。トマトを最後に食べたのはきっと小学校のころだ。今食べたら美味しいかも、と思ったのだが、あてが外れたようだ。


「じゃあ、トマト残したの?」


「いや、裕翔にやった。あいつ、トマト好きだし」


 それは何か釈然としない事実ではあったが、嘘を付かれるよりはまだいいのだろうか。


 何時ものように、晴彦の隣を歩く。晴彦は、私の変化にあまり口を出さない。ただ、笑って隣にいてくれる。


 しかし、私はもう昔には戻れない。胸の鼓動は、ずっと激しく私の体を動かす。


 あれから数日が経って、欲望は収まるどころか深まるばかり。それも当然だ。私を満たす存在は手を伸ばせばすぐ其処にいるのだから。


「しかし、大人数で勉強会なんて、久しぶりじゃないか?」


「そうかも。何だか懐かしい」


 いつだって私たちは気付けば二人だった。いつだって、二人以上にはなれなかった。周囲から取り残されるように、隔絶されるかのように、私たちは二人だった。


 私と晴彦、共通の友達を持つということは、考えてみれば今まであまりなかった出来事だった。


「ま、赤点の心配はないだろうけど。俺は帰宅部だし、ちょっと頑張らないとな」


 どうも、帰宅部で成績が悪いというのは教師としても印象が悪いようだ。部活もしていないのに、勉強もしていない。そう見えるから。


「私も準帰宅部みたいなものだし」


 実のところ、この頃料理にかまけていて勉強はおざなりになりつつあった。


 風華に勉強を教えてもらうのは、いい機会だと思う。一緒の大学を目指している以上、下手な点数を晴彦に見せたくない。


 いつもの通学路。いつもの距離。違うのは私だけなのだろうか。世界が色鮮やかに私たちを彩る。


 いつもと変わらない背中を見て、ずるい、と思う。


 私はこんなに心乱されているのに。


 私が晴彦を求めるように、晴彦にも私を求めて欲しい。そう思うのは我が儘なのだろうか。


「どうした?」


 少しゆっくり歩いていた私に、晴彦が気づいて脚を止める。


「ううん、別に」


 近づきたくて、満たされたくて。


 でも、余りに近づくのは怖くて。


 最近の私は、同じところを堂々巡り。答えの出ない感情に振り回されて、

晴彦のことを思って、起きて、寝て。


 毎日嬉しくて、苦しい。


「明日音、ちょっと変わったよな」


「そう?そんなことないけど」


 そうなのかもしれない。


 普段だったら決して会いに行かない晴彦の教室に行ってしまったり。だって、会いたかった。ただそれだけだ。


 夜も声を聞きたくて、電話をしようかどうか散々迷う。我慢できなくて電話をする比率はそう少なくない。


 私は変わったのか?


 変わったのかもしれないし、変わっていないのかもしれない。


「早く行こう」


 言葉とは裏腹に、私は足をゆっくりと前に進める。


 晴彦に告白するような勇気はまだない。


 それに、いま告白しても、私たちはどこにも進めない気がするのだ。


 私が変われば、晴彦も変わるのだろうか。


 少しづつ変わっていく私たちを眺めるように、変わらない日常。それが今は、こんなにも輝いていた。


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