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私たちが恋人になる理由  作者: YOGOSI
九話目
139/159

生徒会が不人気な理由



 十一月に入ると、寒さが目に見えるように下がった。半袖などもってのほかで、陽があたっていても肌寒さを感じる。雪がふるのはまだ先だろうけれど、ひしひしと冬に移ろう季節を感じる。



 二年の修学旅行などもあったが、一年の私たちには全く関係なくひたすらに穏やかな学生生活が続いていた。



 二年の修学旅行は沖縄で、少量の王道のお菓子と、大量の沖縄でしか手に入らない食材がお土産だった。



 保管していたそれらを、十一月の部活で処理してしまおうということになった。正直、皆扱いに困っていたというのもある。



「沖縄って島国だけあって、食文化もだいぶ違うんですよねー」



「関東と関西でも違うし、ましてや四十七都道府県で食文化は違うものだぞ」



「私はちょっと受け付けなかったかな……。味が濃いってわけじゃないけど、独特の臭みみたいなのがね……」



 といいながら、沖縄料理を作って食べた。ゴーヤも慣れれば美味しいものだった。



 まだあちらは暖かいらしく、戻ってきた時の寒さに驚いたのだとか。



「来年はどこになるのかな?」



 先輩たちの話を聞いて、俄然私たちの期待も高まる。



「確か去年も沖縄だったんですよね」



「行き先の決定権は生徒会にあるみたいだな。予算的に却下されるものもあるそうだが、ブラジルだとかアメリカだとか言わなければいいそうだ」



 私はどうせだったら北海道が良かったですねー、と春風先輩が呟く。



「私は九州でいいな。ラーメン巡りの旅がしたい」



「私は四国!」



「なんでそんなマイナーな……。お遍路でもすんの?」



 一年後の話題に花が咲く。



 なんとも料理研究部というか、皆食べ物の話ばかりで、建築物や場所の話は出てこない。朝市だとか魚河岸だとか。そういう場所に皆なぜか行きたがった。



「じゃあさ、小野さんが生徒会長になれば、割と融通が利くってことになるよね」



「そうだね。頑張ってもらわなきゃ」



 少なからず、小野風華擁護の声は一年の間で高まっている。生徒会選挙は明後日の六限目を返上して行われる。生徒の間では詰まらない、いわばどうでもいいイベントの一つでしかないのだが、今回、私の周囲だけは少しだけ違う。




 果たして、変わり者の小野風華と、高瀬晴彦はどんなスピーチをするのだろう。



 晴彦に聞いても、原稿を見せてはくれなかった。自宅でなにかしている気配はないけれど、晴彦なら授業中にちょこちょこ作業をしているのかもしれない。



 はぐらかされているというよりは、何も考えていないという様子で、私のほうが心配になる。



 風華も風華で、全くと言っていいほど変わらない。それはそれで彼女らしいのだけれど。



「それにしても、選挙で勝ったら春風と付き合えるってのは、無謀だとしてもある意味破格の条件だよね」



「次からもこういう賭け事受けるの?」



 本来は一番渦中にいるはずの春風先輩も、不安など忘れたかのように日々を過ごしている。



「まさか。こんなバカなことはやりませんし、やる人と付き合おうとは思いません」



 どちらにしても、見込みのない勝負。



「というか、そこまでして春風先輩のことが欲しいんでしょうか」



 好き、ではなく、欲しい。この表現は実に的確だと思われた。私の問に、先輩方はため息を漏らす。



 菊池昴元生徒会長の考えは、未だにわからない。



「私より萌々香ちゃんに目をつけて欲しかったですねぇ」



「私だって彼はお断りだよ」



「まあ、春風を隣にはべらせて置けるだけでも、そこそこいい目を見れるでしょうしね」



 綺麗なお人形替わりかもね、というのは雨宮先輩。あれ以来、部の中でエロ担当という不名誉な地位に収まっていて、事あるごとにネタにされる。



 人形、という言葉に春風先輩は身を震わせた。



「穏便に済ますためにも、小野さんと晴彦くんには頑張っていただかないといけませんね!」



「事を荒立たせるほうが簡単に解決したかもしれないけどね」



 雨宮先輩の言葉に、多少なりとも萌々香先輩が反応する。その用意はしてあったのだろう。



「いやですよ!お金持ちって何するかわかったもんじゃないですし!萌々香ちゃんみたいな巨乳さんならまだしも、ただのボンボンですよ!?一般家庭には荷が重いです!」



「そうねぇ。萌々香の胸はでかいわねぇ」



「それは関係ないだろう……」



「次はいつ揉めるの?正月?それともクリスマスにサンタコスでケーキ配る?」



「サンタコスでケーキですか……」



「絶対にやらないからな」




 料理研究部は何時も通り。明日の生徒会選挙で何が変わるということもないけれど、運命の生徒会選挙が始まろうとしていた。

 



 選挙当日は、雲が空を覆うどんよりとした日だった。それでいてなにか嫌な予感がするというわけでもなく。



「寒いぞ……」


「寒いね……」


 しかし、皆寒い体育館に小一時間閉じ込められることに不満の声をこぼしていた。



 やはり、皆にとっては詰まらないイベントの一つでしかないのだろう。そもそも立候補者が少ないのだから、競い合うのは生徒会長の席だけ。



 他の皆からすれば厄介事を引き受けてもらえるのだから、有能だろうが無能だろうが丸を付けることに抵抗はないはずなのだ。誰でもいいからこそ、生徒会に皆興味がなければ、この生徒会選挙にも興味がない。当然のことだ。



「我慢我慢」



 茉莉を宥めすかすように冷たい地面に腰を下ろして時を待つ。



 ステージの横には生徒会長立候補の小野風華と、永峰英哉ながみねえいや、というのだそうだ。立候補した彼が並んで椅子に座っている。



 どこか気だるげで面倒くさそうな風華に対し、彼はどこか落ち着きなさそうに前を見て、後ろにいる菊池昴元生徒会長を頼っているように見える。



 元生徒会長の横には晴彦がまた寒そうな顔で座っていて、なにやら隣の元生徒会長の何かを話しているようだ。それもかなり楽しげに。



「風華はどんなことを言うんだろうな?そもそも、どんなことを言えば当選するんだ?」



「それはわからないよ。風華のことだし、きっちり原文は書いてきてると思うんだけど」



 生徒会長候補と、その推薦者。また一応役員として、長谷川美紅先輩と、町田光陽先輩もスピーチを行う。



 生徒会長以外全員が当選するとしても、その数は六人ほど。部活というより同好会という規模である。



「生徒会って、こんなに少ないんだね」



「そうだな。何してるのかいまいちよくわかんないけど」



 生徒会というのは、やはり裏方であって、何をしているのかはよくわからない。それが不人気の理由の一つでもある。裏方を好む人間は少ない。皆、何かしらの役でステージに立ちたいと思うものだ。



 今日は彼らの舞台ということだ。ある意味では、私たちの舞台を作るための裏方を選ぶ、重要な機会。若者が選挙に行かない理由も、選挙が面倒だという姿勢も、意外とこの場所で培われているのかもしれない。かく言う私も、生徒会の意義を見つけ出すことは難しい。




「担任総選挙とかあったら面白そうなのにね」



「総選挙というより、ドラフト会議みたいに生徒が担任を取り合う感じだったら面白いな」



 結果がすぐにわかりにくい選挙というものは、やはりどこか馴染まないものなのかもしれない。だが、やはりその裏には負けられない思いや、すぐさまに変わる現実がうごめいている。



「では、これより生徒会選挙を始めます」



 仕切るのは現在の生徒会役員の女の人。彼女は立候補していないようで、最後の仕事ということになる。



「帰りのホームルームで用紙を配りますので、丸を記入し、担任の先生方に提出してください」



 無効票もあるが、他の役職が落ちても仕方ないので裏で工作でもするのだろう。教師だって再選挙のような無駄な時間は撮りたくないだろうし。事実上争われるのは生徒会長が誰になるかである。これが裏工作をされないかどうかは教師の常識に賭けることになる。

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