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私たちが恋人になる理由  作者: YOGOSI
九話目
136/159

急接近が気にならない理由Ⅱ



「逆?」



 私にも想像がつかない。私の今までの行動で男らしさを見られるような行動はなかったはず。



「まあ、わからないでもない」



 萌々香副部長が小さく笑っていた。



 どういうこと?と皆が教えを請う。私も教わりたいくらいだ。



「明日音は晴彦くんを現実的に支えていて、晴彦くんは明日音を精神的に支えている。こう考えれば、一般的な家庭とは逆だろ?」



 普通であれば、お金を稼いで現実を支えるのは夫で、夫の精神面を支えるのが妻の役割だとも言える。時代錯誤だと言われればそれまでだが。



「まー、お金とか稼げないしね」



 バイトは特別な許可がないと不可能だ。



「それに、明日音は不器用なところがあるからな。そういう所は男子と似ているだろう。晴彦くんがそれを察して先回りしているものだから、明日音が夫で、晴彦くんが妻のように見えないこともない」



 不器用だとは昔から多々言われる。手先はじゃがいもの皮を綺麗に向けるほど器用であるのに、顔と心は思うように動かない。



 あー、まあそう言われればそうかも?とも思う。



 萌々香先輩の意見はどうやら信ぴょう性があるらしく、皆口々に納得している。



「私、男っぽいですかね……」



 正直、ちょっとへこんでいた。男らしいといわれて喜ぶ女子は少ない。



「な、中身のほんの一部の話だって!」



 雨宮先輩がフォローを入れるも、余り慰めにはならなかった。



「そうそう。晴彦くんが浮気しないかどうか常に不安なとこは女子って感じ!」



 そんな変なところに女子力を裂きたくはないのだけれど。



「でもまあ、晴彦が男っぽくないのは確かですね……」



「ほほう?どういうところが?」



「そうですねぇ。この頃よくくっついてくることとか……」



 何気なしに発言してから瞬時に後悔して、周囲を見渡すとニヤニヤと気味の悪い笑みが浮かんでいた。



「ほー。確かに肌寒くなりましたからなぁ」



「寒いから温めて!とか言っちゃってるんでしょうかねぇ」



 羞恥心が隆起するのをこらえる。言葉はともかく、想像に近しい行為をしていることは確かだ。



「ぶっちゃけさ、明日音と晴彦くんってどこまで進んでるの?」



「流石にそれはプライバシーの侵害じゃないか?」



 萌々香副部長が静止をかける。が、こういった話題に萌々香副部長が無力であるということを知っている私は、その前にささやかな抵抗をする。



「雨宮先輩がどこまで進んでるのか話してくれたら言います」



「なんで私!?」



 急に槍玉に挙げられ、先輩も焦りの声を上げる。



 地味で目立たないゆえ話題に上がることもない雨宮先輩の恋愛模様は、実に気になる。



「私ばっかりバレるのは不公平だと思うからです」



 毒を食らわば皿まで。恋路をあまり隠せない私のささやかな仕返しである。



「あまみーはもう初体験までしたんじゃないの?」



 その時、どこからか聞こえてくる声。



「マジ!?」



 色めき立つ家庭科室。



 言葉を発したのは、料理研究部二年、穂積瑠璃ほずみるり先輩である。



 料理研究部では稀な、大人しい二年生であり、長い黒髪と、菩薩のような微笑みがチャームポイント。



 外見も物腰も良家のお姫様だが、中身は不器用な町娘であり、料理研究部で包丁の使い方が未だに怪しい。料理の腕があがって、自分にも取り柄ができたと喜んでいる一年から見ても可愛い先輩である。



「ちょ、ちょっと待って。穂積、それどこの情報?」



 雨宮先輩が必死の形相で穂積先輩に食ってかかる。詳しく話す前にこの世から消されそうなほど強大な何かを持って。



「え?二学期の初めに小太郎くんがクラスの男子に自慢してたよ」



 小太郎、というのは雨宮先輩の彼氏である。本来は孝太郎なのだが、身長が小さいことを理由に「小太郎」と呼ばれているのだとか。



 あの馬鹿……!



 憎しみのこもった瞳で雨宮先輩は家庭科室独特の黒い机の上を見つめた。



「男はとりあえず童貞捨てたがるからねー」



 焦りも何もしない先輩方に比べ、一年は色めき立っている。これが一年間の差なのだろうか。



「で、で、どうなんですか!?」



「嘘はダメですよ、嘘は!」



 先を急かすように話を進めるのはやはり一年。



「こらこら、自白しろってのは酷だろ……。首を縦に降るか横に振るかでいいよ。嘘かどうかは後日穂積に確認してきてもらうから」



 ええっ、やだよぉ。なんて聞けばいいの!?



 穂積先輩の悲鳴が先に響いた。あまり話題のない一年に比べ、二年生は話題が豊富で良くも悪くも楽しそうだ。



 長く沈黙する家庭科室。気にかけるのは雨宮先輩の首が横に動くか縦に動くか。



 誰と誰がそういう関係になったとしても、私はどうも思わないけれど。



 やっぱり世の中に、そういう早熟な人たちはいるものなのだと私は他人事のようにその緊張感を楽しんでいた。



 一分ほど溜めを作っただろうか。テレビでも先を急いでいる時のコマーシャルはもどかしい。



 そしてついに、雨宮先輩の首が。縦に、動く。



 一気に黄色い声を上げる一年。



 お疲れ、よくやったな、とまるで自首した犯人を慰めるかのような二年。



「いや、世の中にそういうものが早い人はいると聞いたけど、まさかこんな身近にいるとはね」



 萌々香副部長も感心したのか恥ずかしいのか、よくわからない表情を浮かべた。



「付き合ってればよくある話じゃない?男なんて今が性欲の盛りだしさ」



「そういうあんたはどうなのよ?」



「私?私はもうとっくの昔に大人の女よん?」



 そこからなぜかなし崩し的に性の告白会が始まる。



 男の下ネタより女の下ネタの方がヤバイと世間では言われるらしいが、ヤバイのは男か女かではなくその体験を武勇伝のように語ることだと思う。私にはとても恥ずかしくて無理だ。



 結果。雨宮先輩含め、大人の女は二年生に三人、一年生に一人という驚愕の結末に。



「思ってる以上に、みんなやることやってるんですねぇー」



 下ネタとは無縁そうな春風部長は、なぜか現実を見ているような、目が覚めた表情で皆を見ていた。

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