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私たちが恋人になる理由  作者: YOGOSI
九話目
134/159

テストの点が下がる理由Ⅲ



「で、でも、それじゃあ寂しいよ」



 明日音は優しい。優しいというが、まあ一言で言うとお節介だ。お節介なことを思いはするけれど、行動に移す勇気がない。だからそれは『優しい』という曖昧で都合のいい言い方に留まる。



「わかった。それでこいつが動くわけね……」



 風華はため息を一つ。こいつとは俺のことなのだろう。



「俺は優しくないと?」



「優しくはないでしょう。良くも悪くも」



 明日音には甘いけど。風華はそう俺を評価する。これは俺の自己評価に実によく当てはまる。



 俺は決して優しくない。



 例え何かが世の中の常識というものに当てはめて間違っていたとしても、当の本人がそれでいいというのであれば俺はそれをよしとする。その後の代償は本人が払うもの。



 そしてそれは俺も同じ。



 だから俺は、明日音以上に大切なものはなく、明日音を常に優先する。明日音が心配だというなら干渉するし、その心配を取り除こうとする。



 歪といえばそうなのかもしれない。しかし、これが高瀬晴彦という人間なのだ。



「お節介と腹黒のカップルとか、笑えないわねぇ」



 と言いつつも、風華は笑う。



「腹黒とは聞き捨てならないな」



 ちょっと裏での小細工が得意なだけだ。



「お、お節介、かな?」



 明日音は今更しゅんとした表情を見せた。



「考えうる最悪の組み合わせね。それでいて相性が最悪にも最高なのが手に負えないわ」



「それはどうも」



 最高なのか最悪なのか判断がつかないのか、明日音は瞳をまっすぐに風華を見つめていた。



 お節介な明日音が思っても行動にできないことを、俺が裏から手を回してなんとかする。まあ、考えようによっては質の悪いカップルであるといえる。



「そ、それで、生徒会長の話はどうするの……?」



 明日音が結論を急ぐ。緊張状態に長く耐えられる性格ではないのだ。



「やるわ。やるわよ。今更この雰囲気をぶち壊す度胸はさすがの私にもないわ」



 一年では小野風華は英雄扱いである。



 一学期から成績優秀で、尋常ではない成績を残してきた小野風華が、ついに動いた。一年にして生徒会長の座を狙いに来た。一年ではこの発表に反発するものなどおらず、今年最後のお祭りはこれだと皆噂している。



「それだったらそんなに怒る必要もないんじゃないか?」



 俺が言うと、またしても風華は厳しい視線を俺に向ける。



「それはまた別の話。勝手に生徒会長ならまだしも、他人の恋愛を賭けるとか、性格悪いにも程があるわ。このまま増長されても困るから、釘は指しておく必要があるのよ」



 まあ、今回は物事が上手く噛み合ったので勝手にそうしたが、いつもならばそこそこ本人の許可を取るのだけれど。



「まあ、やるからには当選を目指すのは勿論だし、そんな最低な奴の腰巾着に負けるなんてありえないんだけど」



 風華は俺ではなく、菊池昴生徒会長に向けて嫌悪の眼差しを宙に向けた。



 やはり顔や家柄はどうあれ、彼は少なくとも、俺の周囲にいる女子に受け入れられるものではないらしい。いや、俺もあんな人と友達にはなりたくないけれど。



「ちょっとお仕置きは必要よねぇ?」



 怪しい瞳が俺に向く。



「お、お仕置き?」



 明日音がだいぶ不安そうな視線を寄越す。が、俺にはどうも違うように思える。



 風華は俺の弱点を知っているし、明日音の弱点を知っている。



「生徒会長になるってことは、必然的にあんたの上司になるってことよね?」



 立場がどう上なのかはわからないが、長とつく以上そうなのかもしれない。たとえそうでなくても、小野風華健在の生徒会ではきっとそうなるだろう。正直に言って、長谷川美紅先輩が一番苦手とするような人物である。



「今後、このような私を謀る真似をしようものなら」



 風華が俺ではなく明日音を見る。



「晴彦とキスするから」



「なんで!?」



 明日音が意味不明な風華の言動に立ち上がる。



「特にいい案が思いつかなかったのよ。晴彦が一番嫌がるのは明日音が嫌なことでしょ?」



「なるほど。効果的だな」



 俺が風華と瞳を合わせて笑う。腹黒い人間の意思疎通方法は多彩だ。



「ダメ!絶対ダメだから!」



「いいじゃないキスくらい。減るもんじゃないし」



 案の定、明日音は嫌がる。人質を取られたようなものだ。今後、生徒会に入るのなら、風華と顔を合わせる時間が長くなるだろうから。



「減らないけど……」



 明日音は俺を縋るように見る。口喧嘩では勝てないことは承知なのだ。口下手な人見知りが口喧嘩に勝とうなどということがまず無謀なのである。



「風華もそういうのはあんまり気にしないタイプなのか?」



 俺と同じ考え方を持っている人間は少ない、らしい。



「ベタベタされるのはまだしも、キス程度ならね。何かが減るわけじゃないし」



「だよなぁ。明日音は大袈裟なんだよ」



「女心に疎い男を彼氏にすると苦労するわね」



 今度は俺ではなく、明日音と同情的な視線を交わす。もうその時、キス云々の話は流れてしまい、明日音が蒸し返せるような流れではない。



 なんとも腹黒い、というより、上手い会話である。



「じゃあ、そういうことで。生徒会選挙よろしく」



 俺は立ち上がる。話すべきは話したし、一応の了承も得た。これでこの件はおしまいである。



「何言ってるの?」



 明日音が本気で不思議そうな顔で俺を見上げていた。



「そうよ。私一人に押し付けるつもりなの?」



「押し付けるもなにも……。立候補したのは風華だろ?」



「そりゃそうだけど。推薦人あんたになってたわよ」



「……は?」



「は、じゃないよ……。生徒会長選挙は、立候補者と推薦人、二人一組なんだよ」



「元生徒会長も推薦人という形で参加してるわ。三年だからって無関係というわけではないのよね」



「つーことはなに?俺も何かしなきゃいけないわけ?」



「当然。選挙活動なんだし、色々やることはあるわよ下僕くん」



「マジかよ……。俺そういうの向いてないんだよな」



 そこまでの熱は、正直に言えばない。が、ついに俺にもツケを払う時が来たのだろうか。



「向いてないもなにも、勝手に生徒会長に私を仕立てた罰でしょ。ま、暫くよろしくね」



 こうして俺の、生徒会選挙が幕を開ける。

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