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私たちが恋人になる理由  作者: YOGOSI
九話目
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生徒会長が嫌われる理由Ⅲ



「綾瀬さんはダメだ」



「どうしてですか?」



 春風部長の声に少し陰りが見えた。



「そりゃあ勿論、勝てないから」



 隣にいる彼が、微妙な表情を浮かべていた。どうやら彼は春風部長より大切な『物』ではないらしい。


 こう言われても言い返さないあたり、権力に弱く、溺れやすいタイプなのだと思ってしまう。真実はどうあれ。



「彼女以外なら誰でもいいよ。それで、彼が生徒会長に就任すれば、晴れて君は僕の彼女」



「私の推薦人が当選すれば、あなたは二度と私に関わらない」



 空気が冷えた気がした。



 よもやこんな駆け引きをドラマ以外で見るとは。



「で?君の推薦人は誰?」



 もう勝ったかのような悠々とした態度で、彼は春風部長を見た。



「え、えーっと……」



 春風部長が困ったように周囲を見渡す。皆、無理無理、という風に首を振った。



 危機に力を貸してあげたいけれど、生徒会長になれるような力は残念ながらない。皆がそう思っている。



 綾瀬萌々香なら、何の策も用いず、いや、何も策を弄しないように見せかけて確実に勝利を掴めたのだけれど。皆がそう思っていた。



 そして春風部長が見つけたのは。



「わ、私……?」



 春風部長は、私を見て爛々と瞳を輝かせた。まるで私なら行けるというように。



「ちょ、む、無理……」



「高瀬晴彦くんです!」



 しかし、春風部長は迷わずそう答えた。私が上を向くと、晴彦は言葉にできない微妙な表情だった。



 傍観者がいきなりステージの人間に呼ばれると、こうなるのだろう。



「そう言えば、君はなぜここに?」



 生徒会長がこちらを向く。その瞳から逃げるように身をよじる。



「バイトです」



 いや、報酬はないからボランティアかな。



 晴彦は難なくそう答えた。



「見ない顔だけど、君は一年?」



 ええまあ。



「その人は?」



「彼女です」



 なるほど。



 端的な会話が続く。



 生きた心地がしないとはこのことだろうか。



「で?君は一年の癖に生徒会長に立候補して、選挙に勝つ自信があると?」



 晴彦なら、いける、かもしれない。かもしれない、である。



「ないですね」



 ええっ!?



 春風部長が嘆きの声を上げる。流石にこれは部長の読みが甘かったのだろう。生徒会長含め、他の三人も笑う。



「これはこれは。自己評価がきちんとできているのは評価に値するよ」



 嫌悪より、苛立ちが勝って表情に出た。



 あなたに晴彦の何がわかるというのだ。そりゃあ確かに、生徒会長という柄じゃないけれど、晴彦にはいいところが一杯ある。



「いやぁ、俺も生徒会に入ろうとは思っていたんですけど、下っ端でいいんですよね」



「ほう、なら――」



 しかし、生徒会長の会話を遮って晴彦は言う。確かに晴彦は、生徒会長の柄ではないのかもしれない。だけど。



「だから、俺が推薦しますよ」



「何?」



 生徒会長の顔が警戒心を顕にする。



「春風部長に推薦された俺が推薦する人物が勝てば、こっちの勝ち。それでいいですよね?」



 頭の上の晴彦の様子は見えない。しかし、生徒会長が返答を躊躇うほどの何かを、晴彦に感じているのは確かだ。



「居るのかい?」



 いますよ、と晴彦は笑った。



「小野風華。一年二組、小野風華が、生徒会長に立候補します」



 風華の許可などとってはいないはずだ。いいのだろうか。



 いいだろう。



 生徒会長がそう答えた。



「書類はこちらで作っておく。君も選挙に出るんだったか?」



「下っ端でですけど」



 わかった。そう言って、生徒会長、菊池昴が席を立った。



「どれ、早速書類と戦略を練るとしようか」



 彼が立つと、他の二人も立つ。二年の彼は、中々に悲壮な顔をしていた。



「文化祭を回ることはしないので?あなたの最後の仕事でしょう」



 春風部長はやはり、悪人には向いていない。



「こんな子どもの行事に興味はありませんよ。仕事ですから上手くいくようにはしましたけどね」



 これは代金です。そう言って、彼は丁度の金額を支払っていった。



「選挙、楽しみにしていますよ」



 そう言って、三人は部屋を出ていった。



 その瞬間、皆の口から安堵のため息が漏れた。



「っていうか、春風大丈夫なの!?あんな賭け事して!」



「絶対やばいって。あいつ絶対職権乱用してくるから!」



 皆口々に、春風部長を按じる。



「いやぁ、流石にちょっとイラッとしまして……。でも、晴彦君がいて助かりました!」



 誰も助けてくれなかったのに、春風部長はそれを責めない。



「そうそう、やっぱやるねぇ男子!」



「大口叩いたからには、勝目あんでしょうね!?」



 大口を叩いたつもりはないんだけど、と晴彦は呟いた。



「でもその、小野風華って子には無断で決めちゃいましたけど、大丈夫なんですか?一年で生徒会長なんて……」



 やれるだろう。風華なら。



「まあ、その辺りはどうとでもなるとは思いますけど」



 晴彦は少し困ったような口調で言った。



「滅茶苦茶怒られるだろうなぁ……」



「そりゃあ、勝手に生徒会長に立候補だもんね……」



「風華には勝手に言うなよ。俺の口から慎重に説明するから」



 晴彦が両腕を肩から解く。その表情は少しだけ困っているようにも、面白いことになったと笑っているようにも見えた。



 怒涛の文化祭は波乱の幕開けでしかなかった。

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