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私たちが恋人になる理由  作者: YOGOSI
九話目
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二組の賢者が黒い理由Ⅲ



「あんたはいいわね。必要とされたい人に必要とされてて」



「俺からそれを取ったら、俺の人生悲惨すぎるからな」



 はいはい、惚気惚気。風華はそうやる気なく手のひらを振った。



「ホント、あんたにとって明日音は特別なのね」



 確認するような口調。風華は明日音の良き友人でもある。



「まあな」




 明日音に関して肯定はするが、どう明日音が俺にとって『特別』であるのかは筆舌に尽くしがたい。上手く言葉にできないのだ。



「生徒会、ね」



 風華が感慨深そうに言葉にする。



「なんか私向きよね」



 言葉にして頷く。



「裏で学校生活を牛耳ってる感じがぴったりだな」



「ふふ、いいじゃない。ちょっとやる気出てきたわ」



「そりゃなにより」



 自分の望まない何かだとしても、必要とされるのは決して悪いことではない。




 ここに、未来にこの学校生活を裏で支配するだろう、小野風華という黒幕が舞台袖で出番を待っている。



 生徒会についてたわいのない話を続けていると、部活動を終えた明日音が図書室にやって来る。



「晴彦、終わったよ」



 明日音は図書室の雰囲気に少し驚いたようであった。いつもは静かな部屋を、たった二人が賑やかしているのだから奇妙かもしれない。そしてその相手が風華だということにも驚いているようだった。



「えっと、楽しそうで何より?」



 状況を把握できていない明日音が微笑みながら近づいてくる。



「あんたの彼氏に口説かれて大変だったわ」



生徒会に、と風華が小さい声で言った。



 風華が珍しい、色気のある伏し目がちな視線で挑発するように明日音を見た。



 え、と明日音の足が止まる。



「でも結局は同意してくれたじゃないか」



 俺も悪乗りに付き合う。なんというか、こういうのは明日音に悪いと思いながら、それを楽しんでしまう自分がいるのだ。その結果後で苦労するのだけれど。



 予想通り、え、と明日音は魂の抜けた声を出す。



「そりゃあ、あれだけ言い寄られれば落ちもするわよ」



 しなりとした声を出す風華。やはり中々に役者なのだ。



「ちょ、ちょっと待って!!」



 俺たちの予想通り、慌てに慌てる明日音を見て、俺と風華は大いに笑ったのであった。



「悪趣味」



 すると当然帰り道にはこうなる。



 秋晴れの帰り道、またしても明日音の機嫌は悪い。



 九月の半ばは、やや日が短くなったのを実感する。以前はまだ夕方だったのに、もう夕暮れである。木から抜け落ちた葉が秋のもの悲しさを彩るように風に舞って何処かへと飛んでいく。



「今回は俺に非はない」



 明日音に弁解するように俺は両手を上げる。今は秋の景色を楽しむ余裕は無さそうだった。



「何言ってんのよ同罪よ、同罪」



 風華はどこか満足げに帰路を歩む。思えば風華と帰ることはなかなか珍しい。途中までだが、帰り道は一緒だったのだ。



 未だ夏服の俺と明日音とは違い、風華はもう上にカーディガンを羽織っている。身長がもう十センチあれば女子高生らしい格好と言える。



「首謀者と構成員では罪の重さが違って当然だと思うのだが?」



「二名なら首謀者とその腹心でしょ。同罪よ」



 心なしか縮まった風華との距離に、明日音の機嫌がさらに悪化する。



 もう言葉もなく、俺を睨んでは視線を逸らす。



「ちょっとやりすぎた?」



 流石の風華もこれには焦る。同性を恋愛方面でからかう経験はなさそうだ。どの程度やっていいかの分別は流石にある。



「大丈夫だとは思うけど」



 悪気があったのは認めるが、からかわれたという事実を理解している。



 特に何もしなくとも明日には元通りになっている、はず。



 そんな俺たちのヒソヒソ声を、明日音は敏感に察知する。というより、風華の背丈が低いので、内密な話をする時には意図的に顔を近づけなければいけないのだ。



「んっ!」



「おっ?」



 そうこうしている内に、明日音が俺の片腕にしがみつく。



 その様子を見て風華は小さな笑いを上げる。その風華に明日音は抗議的な視線を送っていた。



「あらまーラブラブね。羨ましい」



 この時ばかりは明日音が風華より小さく見えた。何と言うか、黒幕を恐る一般人のそれである。



「じゃあ、こっちは私が貰ってもいいかしら」



 風華が悪乗りを極めて俺のもう片方の腕に手を回そうとする。



「ダメッ!」



 しかし、明日音が今度は正面から抱きついて俺の両腕を縛る。



「明日音、歩けないぞ」



 されるがままの俺は、歩くことも何もできずにただ立っていた。



「いやー、あんたたち本当に面白いわね」



 風華はどこか満足そうに笑うと、一人出先を歩き出す。



「じゃ、また明日」



 そう言って手を振って、路地の奥へと消えていった。風華の家との分岐路は意外に早い。



「おう、また明日な」



 挨拶をする間も、明日音は何かから警戒するように俺を捕まえていた。



 人通りもあまりない普通の通路なのだが、流石に車通りがないとは言えず中々に恥ずかしい。制服の上からでも明日音の体温がわかる。伸ばしている髪の毛が腕に当たりくすぐったい。



「明日音、歩けないんだけど」



 しかし、明日音はまるで威嚇する猫の様に何かを威嚇している。可愛らしい、と純粋に思う。



「うーん……」



 やはり今回は短いスパンで少しやりすぎたのかもしれない。少しの反省と、懲りない悪戯心で、俺は明日音にキスをした。



 その後、帰宅して夕食の時間までお説教を食らった。幸いなことに、トマトが夕食に並ぶことはなかった。

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