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私たちが恋人になる理由  作者: YOGOSI
二話目
12/159

私がこの頃おかしな理由

 それは、料理研究部として最初の活動をした日。


 結論から言えば、クッキー配りは大成功だったと言える。昨年の失敗を礎に、今回はきっちりと分量を測り、手順を踏まえてクッキーを作った。


 そもそもクッキーは結構簡単で、手軽だった。チョコチップを入れたり、グラノーラを入れたり。加工も混ぜるだけ。


 むしろ、昨年どんな失敗をしたのか少し気になるところでもあった。


 配りに行った時、少し警戒されたものの、美味しいと言ってくれた人が大半だった。


 春風部長直々に配るのはやはり「ハズレ」。が、失敗作がほぼなかったため、普通のクッキーと、ハズレのクッキーを作る二段階作業だった。無論、後者のほうが盛り上がったのは言うまでもない。


 ハズレはワサビだとかカラシ、胡椒を大量に塗したり、納豆や漬物を混ぜ込んだりした。


「本当にこれ、配るんですか?」


「そうだよ。大丈夫、春風が笑顔で配れば不味いなんて言うやついないし、

二年の男なら絶対春風のとこにも来るから」


 萌々果副部長の言うとおりだった。


 男子は私たちのクッキーを貰った後、もしくは私たちより先に、春風部長のクッキーを貰いに行った。


 そして皆、微妙な顔で「美味しい」と言葉にしていた。それを見て、部の皆は笑っていた。女子は冷静で、「それハズレでしょ」と誰一人食べなかった


 男ってこんなものよね、と誰かが言った。


 春彦も、春風部長のクッキーを貰うのだろうか。そして、美味しくもないクッキーを食べ、白々しい顔で「美味しい」というのだろうか。


 それは、嫌だ。


 そんな晴彦は、見たくない。


 クッキーを作るのは、そこそこ楽しかった。だが、配るのは全く楽しくはなかった。


 晴彦にあげるクッキーを分けてもらい、片付けをして、その日は終了。


「来週はテスト期間だから無し。次はテスト明けの水曜日に活動内容を決めるぞ」


「運動部と違って、赤点取っても大丈夫なようにしてるんですよー」


「ま、赤点を取らないに越したことはない。普通に勉強してれば赤点は回避できるからな」


 副部長の言葉で、部活は締めくくられた。


「あ、あの、部長、ちょっといいでしょうか?」


 私は珍しく、自分から他人に声をかけていた。


「はい、何でしょうか?」


「その、相談があるんですけれど」


「相談ですか!?どうぞどうぞ!先輩ですから、いくらでも聞いちゃいますよ!」


 春風先輩は瞳を輝かせて私の手を取った。


「春風に後輩の相談なんて無理じゃないのか?」


 萌々果副部長が最後の戸締りを確認している、後は退出するだけだ。


「無理じゃないですー。勉強から恋の悩みまで、ばっちりなんですから!」


「恋ねぇ。確かに、告白された回数は多いけど、お付き合いまで行くことは今まで無かったじゃないか」


「私は恋をしたいタイプなんです!告白されたいんじゃなくて、告白したいんです!」


「はいはい、そういうことにしておくよ。で、私は居ると邪魔?」


「あ、いえ。副部長にも、少し意見をもらいたいです」


 そうかい、と副部長は適当な椅子に話しかけた。


「で、相談って言うのは?例の幼馴染の子?」


 春風部長の瞳が輝く。相変わらず、可愛い人だ。ふわふわな髪の毛が踊るように舞う。


「まあ、そんな感じ、です」


「へぇ、進展があったんだ?」


「進展、といいますか、その……。私が、その、幼馴染を、好き、かも、しれないっていうか」


 先週のあの出来事以降、私の心は平常を保てていない。


 これが恋なのか、どうなのか。


 どうしたらいいのか、話したかった。だが、誰に話せばいいのか。


 晴彦は論外である。風華と茉莉も、なんだか少し気が引ける。母親と姉は真面目に相談に乗ってくれる気がしないので却下だ。


 そして考えたとき、やはりこの変化の原因を作った先輩方に責任を取って貰うのが無難ではないか、と思い当たったのだ。


「いいですねぇ!青春ですねぇ!」


 春風部長はきゃあきゃあとはしゃいで、副部長の腕を叩く。


「痛いって。で、相談って?」


 副部長は優しげな、真剣な瞳で私を見ている


「その、色々、気付いたことがありまして……」


 これは正直、友人に言うのは憚られる。ある意味では、他人である二人だからこそ話すことができるのだ。


「これから、どうしたらいいのかなって」


 私が言うと、二人共よくわからないと言った顔をした。


「好きだって気づいたんなら、告白なりなんなりすればいいじゃないか」


「そ、そうなのかもしれないんですけど……」


「断られるかもしれない、ですか?」


 端的に言えば、そうなる。私は頷く。


 幼馴染と、恋人は違う。


 恋人という関係に進むことに失敗してしまえば、きっと幼馴染という関係には戻れない。そんな気がする。


 それは、怖い。失うことが、怖い。


「しかし、その幼馴染くんも悪くは思ってないんだろう?」


「そう、だと思うんですけど。その、異性として見られていない、ような気もするんです」


「良くある問題ですよねぇ」


「近すぎて対象外になる、って奴か」


 先輩方はそう言って納得するが、二人が思っているものとは少し異なる。


 晴彦は、私を含め、全ての女性を異性として認識していないような節がある。まるで子供のような純真さを保っているかのよう。


 私も、その中の一人に過ぎないのだ。

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