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私たちが恋人になる理由  作者: YOGOSI
九話目
118/159

人が孤独になる理由



 陸上競技会が終わり、佐々木くんも失恋から立ち直った九月の半ば。



 晴彦が風邪をひいたりしたけれど、大まか例年通り通りに時間は進んでいた。



「えーでは、料理研究部は今年の文化祭で何を作るか、会議を始めたいと思います」



 週に一度の料理研究部は、今までにない真剣味を帯びていた。



「なんかみんな真面目だね」



「うん。そうだね……」



 一年はどこか、不安そうな顔を付き合わせていく。いままでの巫山戯つつ話をしていた雰囲気などどこにもない。



 春風部長がきりりと表情を引き締める。



「まず一年生に言います。前年、創設まもない料理研究部の文化祭での活動は、それなりの成果を上げたものの、教師から睨まれる、所謂大失敗でした」



 去年の文化祭。料理研究部にとっては、部員を増やす絶好の機会だった。



「まあ、部長の春風が一年だったってこともあるし、それなりに目立ってはいたんだけどね」



 萌々香副部長も真剣な表情で応える。



「あの頃は部員まだ五人だったんだよ」



 創設メンバーの先輩が声を上げる。



「じゃあ、失敗、っていうのは……」



「部員を増やそうと思ったんだけど、誰も来なかった、ってこと。まあ、今はそれなりにいるけど」



 今は二年生八人、一年生十一人と、文化部にしてはそれなりの大所帯である。



 やや冷気の残る張り詰めた家庭科室に、暖かな日差しが差し込む隙もないほど、二年生は真剣に語る。



「去年は春風の料理早食い対決とか企画もやってたんだけどね。部外者も来る学園祭でやられると教師側も黙っちゃいなくてね」



「加減を知らなかったと言ってください。中身としては盛り上がってたじゃないですか」



「それはうちが女所帯だからっていうのと、春風目当ての男どもが押し寄せてたからだよ」



 一年を差し置き、二年だけで去年の反省会が始まる。




 どうやら、去年の文化祭で出した企画が教師陣からストップの声がかかったのだろう。まあ、ある意味で教師陣が春風部長の能力を舐めていた結果だとも言える。



 コホン、とわざとらしい咳を萌々香副部長がする。



「ということもあってだ。去年は盛況の割に売上もしょぼく、教師陣からも睨まれ、部員も増えず印象も宜しくなく、大失敗だったわけだ」



「しかーし!今年は違います!」



 春風部長が堰を切ったように話だす。



 その瞬間、いつものあの空気が戻ってくるような気配がした。どうやら、我が部活に真剣なムードは長続きしないらしい。



「まず第一に、人手が潤沢にあります!これなら料理の幅も広がる!更に、去年までのマイナーなイメージも陸上競技会である程度払拭!更に更に!今年はみんなの料理スキルが段違い!これならいけますよー!今年こそは連日大盛況の満員御礼、部費の足しにして皆でクリスマスパーティでもやりましょう!」



 おお、と一同が声を上げる。



 我が校の文化祭は、二年以上の各クラスの出し物の他、文化部は必ず何かをやらなければならない。運動部はしてもいいししなくてもいい。



 部活とクラスの出し物の二足の草鞋を履かないようにはなっている。



 出し物は金銭を取ってもいいし取らなくてもいい。体育館で行う吹奏楽、演劇部の見世物は基本無料だ。



 それで得た利益は部費の足しにするもよし、または打ち上げに使われるか、修学旅行の積立金になる。基本的に顧問が管理してしまうので大きな利益を上げても生徒に金銭的な得はない。


 しかし、大きな利益を出せば修学旅行のホテルが旅館になったりするらしい。二年にとってはやる気の出ることも少なくない。


 


 大規模な学校行事はこれが最後だ。



「で、今年の企画を、私の方である程度まとめてきた。細かいところはみんなで話し合って決めよう」



 萌々香副部長が自作のプリントを回す。



「これ、家で作ったんですか?」



 書類には、『第二回料理研究部文化祭企画』とある。随分本格的だ。



「ああ。私は今回裏方だが、去年の雪辱を晴らすべく本気で行かせてもらうからな」



 おそらく、一番文化祭に本気なのは綾瀬萌々香その人であるらしかった。一年に皆も、その静かに燃える火を見てそれを感じ取っただろう。



「どれどれ?」



 大まかに、料理研究部の出し物は『定食屋』と、『春風ドリンク一気飲みで無料券プレゼント』とのことだ。



「定食って?出すもの増えればコストも増えるし、そもそも文化祭は二日しかないんだよ?」



「女子しかいないのに定食ってのも味気なくない?コスト面でプラスになんなきゃ意味ないんだし、出すものはもう少し考えるべきだね」



 二年生の当然の意見に、副部長も頷く。



「私もそれは考えていた。流石に私の一存で決めれないしな。みんなで考えよう」



「クレープとかお菓子系はさ、なんか料理研究部って感じしないよね」



「そうだねぇ。どうせならガチの一品もので勝負賭けたいよね」



 基本的に文化祭の出し物というのは、皆が想像つくような、学生の出し物である。今回は、その一歩も二歩も上のクオリティを目指すというもの。



「でもそうすると値段とかやばくない?」



 大人も来るとは言え、基本的には生徒向けの出し物。そう高いものは出せない。



「その辺は創意工夫でなんとか!」



 少し、というより、前々から気になっていたことが頭をよぎる。



「春風ドリンク一気飲みで無料券、というのはわかるんですけど」



 私が発言すると、皆がこちらを見る。



「あれって春風部長にしか作れないので気にしてませんでしたが、どのくらいの材料費がかかってるんですか?」



 この春風ドリンク一気飲みというのは、かなりミソなアトラクション。



 成功した時の報酬を大きくするためには、料理の価格を高くしなければならない。それに、失敗しても美味しいものを出しているとわかれば、口直しに食べてくれる可能性もある。しかし、あまりに高すぎると普通のお客さんは離れていく。


 料理に手は抜けないことはもちろんだが、ある意味お祭りなのだ。そんな雰囲気があるこの一気飲みのチャレンジ料金がすべての基礎になるような気がした。



「そうだよねぇ。これも大事な集客要素な理由だし。今まで気にしてなかったけど、売上で賄えるならそうしたいよね」



 視線が春風部長に移る。



「え?どのくらいお金がかかるかですか?うーん、家にあるものを適当に使うので、材料は毎回違うので詳しくはわかりませんが……。でも、この額で収めろと言われればその金額でなんとかしますよ?」



「チャレンジ料は多少安くてもいいんじゃないでしょうか?どうせクリアできないんですし」



「そうだよねぇ。そうすると、結構量も必要になるのかな」



 会議は流れるように進む。



 去年のことはともかく、料理のことに関してなら一年も口を挟める。コスト面に関してはなかなかに厳しい。調理はここですればいいが、流石にこの風景で食べるのは味気ない。



「うーん、これは暫く部活の回数を増やす必要がありそうだな」



「そうだね。準備もあるし。皆もそのつもりで」



 装飾なりなんなり、やることは多い。それは二年以上のクラスも同じだろう。



「先輩方はこっちに本腰いれるんですか?」



 私が問うと、一致団結した答えが返ってくる。



「もっちろん!クラスのはお遊び程度だしね。文化祭が本番っていう部は結構少なくないよ」



「話題に上がれば部員も増える。来年の部員が増えれば部費も増えるし部室も貰えるかもしれない。張り切るところは張り切らないとね!」



 文化祭まで残り三週間と少し。我が料理研究部も万全の構えでそれに向かう。


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