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私たちが恋人になる理由  作者: YOGOSI
八話目
109/159

男が失恋を引きずる理由Ⅱ



「何事も素直が一番だろ」



「私はアンタが怖いわ……」



 この後、適当に暫く歌って解散となった。二次会もあったが、別の約束があったので断った。



「明日音ちゃんとの約束?」



 紬がからかうように尋ねる。



「ま、そんなとこ。一日に一回は顔見ないとなんか落ち着かなくてな」



 約束、というほどのものではないけれど。奈美さんがまた出かけているので、騒ぐのもいいが家でゆっくりしようという明日音の提案だった。



「愛されてるよなぁ。羨ましい」



 霞が俺の胸を肘でつつく。



「明日音がか?」



「お前もだよ。それほど好きな人がいるっていうのは、やっぱすげえと思うよ私は」



「霞にもいつか出来るだろ」



「今してるっていうのが羨ましいんだよー」



 紬がふわふわと笑う。



 学生時代というのは、確かに貴重なのかもしれない。三年という時間は、思ったより一瞬だと、中学で皆学んでいる。だからこそ皆、恋に逸るのだろう。



「だから晴彦。あんた裕翔が立ち直るまで、彼女といちゃいちゃすんなよ?」



 失恋者には目に毒だからな、と雫が俺に釘を指す。



「いや、学校ではしてないし。明日音だって俺のクラスに頻繁に来るわけじゃないだろ?」



 極力、学内では目立たないようにしているはず、である。



「ご両人はそのつもりでもー、他人にはそうは見えないことも多々あるんだよ。まあ、こっちが勝手に深読みしちゃうだけなんだけどね」



 紬はにこやかに笑い、じゃあね、と俺に手を振った。



「それは俺にもどうにもできん」



 裕翔のために、明日音と会うことを避けるというのは、あまりにも過剰反応な気がした。



「うちのクラスで一番のバカが凹んでると、なんか感じ悪いだろ?親友として、早く何とかしてくれよ?」



 それはクラス全員の総意のようなものなのか、ほかのクラスメイトもその言葉に頷いていた。



「……まあ、努力はするよ」



 俺はそう言って、皆と別れた。



 日曜日の街並みは、溢れかえる人で実に面白くない。賑やかではあるが、一人では動きにくいだけだ。



 どこかへ向かう人の波に逆らうように、俺は目的の場所へと向かう。



「……なんか買ってくか?」



 今回は奈美さん不在かつ、俺の家に両親が揃っているということで、明日音の家に行くことになっている。夕飯はうちで一緒に食べる。



 久しぶりに明日音の家に行くということで、何かを用意したほうがいいのではないかと考えるが、下手をすると明日音が何かを作ってくれているというパターンもあるので悩む。



「この頃外食にも厳しくなってきたんだよな……」



 以前はそうでもなかったが、ファストフードに関して明日音は厳しくなった。



『あんまり美味しくない』とか、『体にも悪い』だとか。



 特段ジャンクなものが好きなわけではないから気にはしないし、食べたいといえば作ってくれるのだけれど。



 そうなると、食べ物を買っていく、という行為が若干しづらいのは確かだった。



「ま、深く気にするのはやめよう」



 結局、老舗のたい焼きを数個買っていく。季節を先取りして栗餡が入っているものが美味しそうだった。



 時刻はまだ二時前。街では俺だけが家に帰る装いをしているようだった。 



 帰る道のりで自宅を通り過ぎ、明日音の家に。



 インターホンを鳴らすと、軽快な足音と共に玄関の扉が開か得る。



「おかえり」



 開口一番、明日音は笑顔そう言った。



「俺の家じゃないのに、ただいま、っていうのはおかしくないか?」



 そう答えてたいやきを差し出す。明日音も例に漏れず打ち上げがあり、洒落た服装をしている。小夜さんにもアドバイスをもらったりしているのか、見慣れない明日音の姿を見ることもできる。



「わ、好味堂のたい焼き。ありがとう」



「おお。いつもは作ってもらってばっかだからな」



 感謝の気持ちとしてはいかんせんチープだが、俺にできることはそこまで多くないことを自覚している。



 明日音は嬉しそうにそのたいやきを抱えて奥へと進む。



 久しぶり、というわけでもないが、早川家の空気はやはり家とは違う。



 玄関からリビングまで、まるで女子の部屋とでも言おうか。初めての人間、特に男性は居づらいだろう。綺麗だし、内装も凝っている。



「何か飲む?」



「なんでもいいぞー」



 リビングと隣接しているおかげで、家では感じられない広さを感じる。声の通りもいい。



 座りなれないソファに腰掛ける。カラオケの疲れは意外と重かったのか、身体は思った以上に沈んだ。



「お待たせ」



 目の前に緑茶が置かれる。これまた家にはない高級そうなカップである。



「明日音は打ち上げどうだった?」



 自分の分を用意して、明日音もソファに座る。



「うちのクラスは皆大人しいから、皆で普通に遊んで、お昼食べて解散だったよ」



 それは盛り上がるのだろうか。はしゃぐのが好きではない人間もいるのだからいいだろうけれど。



 そか、と俺も茶をすする。いつもとは違う、いつもの味がした。



「……ん?」



「なんだよ?」



 明日音が俺の服に顔を寄せる。



「……女子の匂いがする」



 そして、不服そうな瞳で俺を睨んだ。まあ、睨んだというよりは視線で抗議するような可愛いものだが。



「そりゃあ俺のクラスにも女子はいるしな」



 相変わらず明日音は匂いに敏感だ。特に女子の匂いは直ぐにわかるらしい。俺はさっぱりわからない。俺からはどうやっても洗剤の匂いしかしない。



「しかも一人じゃない。二人」



「そこまでわかるのか」



 凄い奴だ、と近づいた頭を撫でると、複雑そうに嬉しそうな表情をした。



「雫と紬のバレー部コンビに弄られてたんだよ。裕翔を早く立ち直らせろとか、学校ではイチャイチャするなとか。散々言われたぞ」



 そこまで言うと、元からそんなに糾弾するつもりはなかったのだろう、明日音が驚いた表情をする。

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