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私たちが恋人になる理由  作者: YOGOSI
八話目
103/159

陸上競技会が盛り上がる理由Ⅱ



「よっしゃ、行くか!」



 王道競技、百メートルには俺も参加している。裕翔と一緒にスタート地点を目指す。



 種目は全競技基本的に男女別だが学年の括りはなく、無論ハンデもない。一年は肉体的にも不利だが、それが逆に気楽でいいし、勝利した時の目立ち方も一塩だ。つまり、立場的に一年はローリスクハイリターンで、ある意味美味しいのだ。



 一度に走る人数は五人。



 俺は三番目第三コースと、まあ目立つには程遠い位置。



『さー、始まりました男子百メートル。早速お仕事しましょうかね』



『お前去年これすげー楽しそうだったからな』



 司会が漫才をはじめる。どうやら競技中だろうがなんだろうがお構いなしに喋り続けるらしい。



『そりゃーもちろん!このために生徒会に所属してるといってもいいですからね!』



『肩書きは書記だけど一年でまともに働くのここだけだしな』



 二年に笑いが木霊する。上級生にも変わった人がいるものだ。



『では走者を紹介します。まず三年二組の清水先輩、五組の日村先輩――』



 順当な紹介が続く。名前を呼ばれる度に、皆大げさなリアクションで応える。



 他の生徒会のメンツは採点係だったり、他の競技の準備で忙しそうだ。



『えー、早速タレコミが来ております』


 タレコミ?一年がざわつき、二、三年の客席が待ってたというように沸く。



『清水は実は涙脆い。この間の英語の授業の教材の海外ドラマで隠れて泣いていた。とのこと』



『聞けばラブロマンスものだったそうです。いやぁ、中々に初心なんですね』



 清水先輩のクラスが沸騰したように沸いた。



 当の本人は照れくさそうだがどこか嬉しそうに手を振ってアピールしている。



『という感じにですね、多数のタレコミ、今年も来ております。無論、誹謗中傷になる恐れのあるものは却下となりますが、お祭りみたいなもんですし、まあ自分アピールもできますので、気にせずに大いにはっちゃけて下さい』



『ちなみに、一年の子のもちゃんとありますのでご心配なく。部活の先輩とか、クラス委員とかにもネタを提供してもらいましたから』



 解説席には悪魔が座る。そんなことを思った。



『おっと、始まるようですよ。皆さん、準備してくださいねー』



『去年も思ったけどかなり滅茶苦茶だよな。親も呼ばないんじゃなくて呼べないんじゃないかこれ』



 第一組が撃鉄の音で走り出す間も、あの二人は喋っていて、中々に混沌とした滑り出しを見せた陸上競技会だった。



 百メートル草で俺が弄られることはなく、また裕翔がいじられることもなかった。



 結果的には俺がギリギリで二位、裕翔が一位でそこそこの結末。



『おー、彼が一年の問題児佐々木裕翔くんですか』



『バスケ部所属ですねー。担任の先生からは、もう少し勉強も頑張れ、という言葉をいただいております』



『過去を振り返っても一年の優勝はないですからね。頑張って欲しいものです』



 笑い声とともに、裕翔は大きくガッツポーズをして答えた。



『俺としてはバスケ部部長の嶋村のほうがやばいと思うけどね』



『一時期、バスケ部の練習中にお経が流れるだとか、意味不明な情報が来てたけど。別に嶋村君は普通じゃない?』



『いや、あいつの笑顔たまに怖い時あるから』



 嶋村先輩はやはり二年でも有名な部類らしい。



 学校というのがいかに狭い世界であるか思い知らされるようだった。



 だがまあ、これはこれで持ち上げられている気分で悪くはないのが、あの司会二人の不思議な所だ。



 二人が喋っている間にも、ちゃくちゃくと競技は進む。



 ラジオを聴きながら作業をしているような感覚。皆聞き入っているのか、競技に出る人間もでない人間もリラックスした表情を浮かべていた。



「流石生徒会ってやつか」



 俺が風華に話しかける。



 隣のクラスなので待機場所が近いのだ。茉莉が百メートルにでて、なんだあのナイスバディは、と司会の女子の妬みを買って笑いをとっていた。



「生徒会だからってわけじゃなさそうだけどね。あの二人の相性なんじゃない?」 



 女子百メートルも滞りなく終了する。会話が挟まっているのに、選手の紹介も盛り上げも欠かさない。まるで熟練の技を見るかのよう。



『えー、じゃあ次の競技のパン食い競争、の前に、ゲストでーす』



 パン食い競争は、紐で吊るされたパンをジャンプで齧るようなものではなく。ダッシュで机まで走って、パンを完食。そしてゴールへ、というシンプルな作りだった。



『これは今年からの競技ですね。足の速さとかはまあ、あまり関係ないです。運と精神力ですかね』



『ちょっち、説明は春風っちにしてもらうから!光陽は引っ込んでて!』



 じゃ、どうぞ、と、いつの間にか居た春風先輩にマイクが渡される。



『え、えーっと、料理研究部部長の五十嵐春風です。今回、このパン食い競争のパンを一から作りました』



 芸能人が現れたかのような歓声が、二年を中心に巻き起こる。一年でも知っている人間は多い。



「凄い人気」



 明日音が嬉しそうに笑う。



「ま、学校のアイドルの体操着姿を見放題だものね」



 当然だが、俺は料理研究部が関係する競技には出ていない。



「確かに、凄い可愛い人だな」



 茉莉と風華も、物珍しそうに春風先輩を見ている。



「料理研究部の評判は聞いているだろうに、出る人がいるものだな……」



 俺はパン食い競争に望む挑戦者の面持ちを確かめる。何かを期待しているのかどうなのか、遠くて表情は伺えない。



「あの美人の手料理だもの。男だったら食べたいでしょ」



 例え不味くてもね、と風華が付け足した。



『簡単な競技です。皆さんは走って自由な机に座り、目の前のパンを完食してゴールに入る。これだけです』



 それだけ。確かにそれだけの競技だ。



『一度に走る人は五人までだけど、点が入るのは三位までだからリタイアも受け付けます』



 リタイア――。



 その当然とも思われる不穏当な言葉に、女子陣からは拍手さえ巻き起こる。



 男子人気は言わずもがな、女子人気もそれなりにあるだろう。

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