俺たちがテストを受ける理由Ⅲ
「何なに?何の話?」
「うわっ!?なんだよお前、いつの間に入ってきたんだ!?」
「別に、普通に入ってきたけど」
「風華もか。珍しいな、何か用か?」
茉莉と風華がいつの間にか傍に立っていた。
たまにだが、明日音を含めた五人で昼食を取ることもある。裕翔と茉莉のお陰で、俺と明日音が一緒にいても目立たない。
明日音の変化も、きっと茉莉と風華の影響が大きいのではないだろうか。
「いや、テスト前だしさ。ここは一つ、勉強会でもどうかってね」
「勉強会ねぇ……」
正直に言えば、一年一学期の中間テストに、勉強会など必要はない気もする
風華と視線を合わせる。同じようなことを思っていたのか、ため息を一つ。
「明日音も賛成してる。場所は何故か私の家に決まったから」
「土日で、最低限赤点回避!」
「我々スポーツマンは、断固補習という悪逆非道の制度に捕まりはしない!」
何時ものノリで、茉莉と裕翔が団結する。
頭が良くなる違法な薬があったら手を出しそうな気がするのは俺だけだろうか。
「……俺らのメリットってなんかある?」
「まあ、総復習だと思えば悪くない。やることもないし」
「確かにな。部活やめてから、土日は暇だ」
休日の時間の使い方は、がらりと変わった。
まず、掃除や洗濯を親の代わりにするようになった。母さんは土日も病院に詰める事がある。医療関係の仕事は激務らしい。明日音の弁当が母の助けになっていることを、部活を辞めてから気づけた。
日が完全に昇る前に大抵明日音が家にやってきて、一緒に昼食を食べたり、勉強をしたり、買い物に出かけたり、ダラダラとしたりする。
たまにクラスメイトと出かける時もあるが、裕翔のバスケの練習に付き合う程度だ。
部活というのは、学生生活に大いに絡んでいるものなのだと思い知る。
学生の輪から外れているような気もするが、特に寂しいと思うことは、不思議にない。
何やら揉め始めた茉莉と裕翔を尻目に、俺は風華に視線をやる。あれから何度か図書館を利用し、刺し殺すような視線は緩和されている。
「しかし、風華の家でいいのか?」
「いいわよ。私一人っ子だし。部屋も広いし」
どうやら男を家に上げることに抵抗はないらしい。人見知りな奴かとも思ったが、どうも疑り深いだけらしい。
「というか、最近何かあった?」
「何かって?」
「明日音の様子が、ちょっと変わったから」
「それは俺も思ってたけど。そっちの影響じゃないのか?」
「まさか。春彦に何か言われたんだと思ってたけど」
ほら、あれ、と教室の入口を差す。
そこには、明日音がこそこそとこちらを伺っていた。
明日音が俺のクラスに入ってくることは余りなく、俺に用があるにしても風華や茉莉を頼るか、携帯のメールで知らせてくるのが常だ。
「何やってんだよ……」
視線が合い、明日音は何故か扉に隠れた。が、また直ぐに顔覗かせる。その奇妙な光景に、ウチのクラスのお節介数人がザワつき始める。
再び視線があったとき、手を招いて合図を送ると、ものすごく申し訳なさそうに明日音は俺の方に駆け寄ってくる。
「あ、あの、ごめんね?」
開口一番で、明日音は俺への謝罪を示した。
変な噂が立つから、極力学校内での接触は避けようと言ったのは俺だった。
「いいって。入口であんな風にされると、俺が何かしたのかって後で責められるからな」
俺が笑うと、明日音は安心したように適当に空いた席に腰を下ろした。
ウチのクラスには、委員長の長谷川さんを筆頭にお節介が多く、実に居心地がいい。
裕翔という爆弾を、クラス皆で見守っているというイメージ。影は薄いが、皆暖かい。そのせいか、他のクラスからの客人は多い。