優しい死刑囚と少女
始めての短編、次にアリスをあげようと思います。
死への台を一歩一歩登って行く。
そこにはこれから俺の命を奪うであろう死刑執行人が斧を持って控えていた。
死刑台の下には観衆がいる、見せしめだ。
その執行人のすぐそこに俺は手枷をかけられた腕をぶら下げながら頭を下げる。
「何か言い残すことはあるか?」
執行人が最後の情けなのかその様な事を言ってくる。
それに対して俺は本来この狂った国に殺されてしまうはずだった少女を助けられたことを思い出し不敵に笑ってから執行人に一言言ってやる。
「ざまぁみやがれ」
「それが最後の言葉か...さいごまでこの国に抗うなど無様だな、精々苦しまない様にその命刈り取ってやる」
そう言うと執行人はその手に持つ重厚な刃に付いた血が生々しい光を放つ斧を振り上げる。
ああ、俺は死ぬんだなと内心独りごちながらその目をゆっくりと閉じる。
最後に頭の中をよぎったのは優しい笑顔を浮かべる少女だった。
(あの子の事を救えただけで後悔は、ない)
死を導くその刃は首のすぐそこまで迫る。
心の中で最後に少女の名を呼ぶ。
(シルフィ)
しかし...
ジャリィィンー!
その様な澄んだ音が死刑台の上に観衆の中に響く。
閉じていた目を開くとそこには最後に思い出した少女、優しい笑顔を浮かべていた少女が今は凛々しい表情をしながらその手に白く輝く美しい刀身の剣を持って今まさに斧を弾いた姿勢で立っていた。
そして弾いた勢いを利用して少女は執行人に足払いをかけて転ばせその頭に剣の刀身をぶつけその意識を奪う。そして執行人の腕の筋を的確に切る。
執行人はビクンッと体を震わせるとガタッと音を立てながら斧をその手から離す。
呆然とその様子を眺めていると少女はその剣についた血を払って鞘に収めてから姿勢を低くして俺に飛びかかってくる。
「久しぶりです!」
「うおわ!」
それを何とか受け止めると少女は嬉しそうに俺の首に顔をうずめて満足そうにうりうりと頭をなすりつけてくる。
それにどうすればいいか分からなくなったので取り敢えず上げていた左手を頭に乗せ右手でその華奢な腰に手を回す。
そしてその少女の存在を確かめるように強く抱きしめながら会いたかった少女の名を呼ぶ。
「シルフィ、シルフィなのか?」
「はい、あなたに救われたシルフィです、あなたの事を...助けに来ました」
シルフィはそういうと目を閉じ俺の首に顔をうずめる。
シルフィの柔らかい金色の髪が頬をくすぐる、体からは甘い匂いがしてくる、かつて助けた時とは身長が伸び雰囲気も変わり大人の色気が見え隠れする。
しかしまだ年もそんなではなく少女のあどけなさも残りそれがシルフィの魅力を際立たさせていた。
「お前は何者だ!?」
シルフィとの再開を噛み締めていると後ろから国王の声がかかる。
それに対してシルフィは引き締まった凛々しい表情になり立ち上がると観衆の中、良く響く声で名乗りあげる。
「私の名はシルフィ、神に選ばれしもの、この世界の間違いを正すもの!」
シルフィがそう声を上げると周りがざわつき始める。
「な、まさか、あなたはあの勇者なのか...!」
「そうです、この剣が、そしてこれがその証明です」
シルフィが剣を掲げ瞑目をするとその後ろに白い靄のようなものが現れたかと思うと輪郭を作り始める。
それは白い翼を携える神々しい女性だった。
その閉じていた瞳をゆっくり開き観衆に慈悲に満ちた視線を送る。
その神々しさに大体の人は跪き祈りを捧げ始めている。
「な、何故あなたがここに?」
「私は、かつて私が贄として捧げられそうになった時私の事を救ってくれたこの人を救いに来ました」
シルフィはごく当たり前のことだと言わんばかりに堂々とそう宣言する。
「しかし、その者は死刑囚なのだぞ!?国で決められたことはいくら勇者でも覆せないぞ!」
「この方が何をしたと言うのです」
「このものは神に捧げられし者をこれまでことごとく逃がしてきたのだぞ!そのような事をして許さッ....!」
「私もその贄のうちの一人です」
「それは.....!」
シルフィがそう言うと国王は言葉を詰まらせる。
シルフィはその手に持つ剣を国王に向けると国王に冷たい視線を送る。
「あなた達は贄を捧げる事で何がありましたか?得がありましたか?これまでそのような事をして神に何かしてもらいましたか?それに贄になるもの達には決まってこう言いますよね「これは、由緒正しい行為だ、これで貴様もこの国の英雄だ」と何が英雄ですか、あなた達は贄を見せしめとして神に捧げる事でこの国の威厳を保っていただけでしょう?」
「くっ....」
「私は彼を救うことでこの国の間違えを正したい、闇を払いたい、殺してはいけない人を殺させない、私はシルフィとして、一人の女としてこの者を、ユリウスを助けたい」
その言葉の最後はシルフィの本音だった、別の意味で取ったらある意味告白のようなものである。
実際その言葉を聞いた俺はその頬を赤く染めてしまった。シルフィに関しても恋をする少女の表情をしている。
シルフィは振り返ると俺の手を取り立たせると白き剣で手枷を切って自由にさせてくれる。
そのやっと自由になった手を振り回したりしてほぐしているとシルフィは手を差し出してくる。
「ここから、逃げましょう、私はあなたと一緒にいたい、だからここから遠くに行きましょう」
「シルフィ...」
俺はその手を取りシルフィと向き合い一つ頷くと足を揃えて一歩を踏み出す。
二人で逃げ出す、これからは茨の道になるかもしれないけど、二人で歩くならばその道はけして険しいものではないだろう、何故なら隣には愛する彼女がいるのだから...
あの逃避行から8年、俺たちは手を繋ぎながら丘の上にある小さな家で寄り添いあっていた。
慎ましくも小さな家で俺たちは幸せな生活を送っていた。
目線の先には小さな子供達がもつれ合いながら走り回っている。
女の子が一人と男の子が一人、この子供達は愛し合った結果として生まれて来た。
子供達を見つめながらゆっくり流れる時に身を任せる。
隣には愛する彼女がいる、これ以上の幸せを求めるのは欲深いものだろう。
「ユリウス」
「ん?なんだ?」
ゆったりと流れる風に目を閉じているとシルフィが突然声をかけてくる。
横を向くとシルフィが上気した頬を赤く染め目を閉じ俺の唇に軽く唇を触れさせて来る。
突然のその行為に唇を抑えて赤面してるとシルフィは俺の手に白い手を添えてかつてのように柔らかく微笑みゆっくりと口を開けて言葉を紡ぐ。
「大好きです」
そのようにシルフィが言ってくるから俺もシルフィの頬に手を添えもう一度キスをする。
そしてゆっくり口を離しその目を見つめて愛の言葉を紡ぐ。
「俺も...シルフィの事が、大好きだ」
俺は今幸せだ、かつてのように虐げられる事も無く、子供も出来た。
愛する彼女と歩むこれからの人生、かつては茨の道になるだろうと思われたのだが今はゆっくりと流れる時間を大事に...守って行きたい。
白く広がる青空を眺めながらお互いの気持ちを確認して再び子供達を見つめる。
「これからも一緒にいてくれますか?」
白い指を手に這わせながら少し不安げな声で言う。
多分答えはシルフィにとっては分かり切って事なのだろうが不安は少し残ってしまうのだろう。
それに対して俺はその手をぎゅっと握りしめてありったけの愛情を込めた言葉を発する。
「俺は、シルフィから離れる気なんて毛頭もない、これからもずっと一緒だ」
そういうとシルフィはこれまでで一番の笑顔を見せた。
「ありがとうございます」
これからは茨の道ではない、今の幸せを噛み締めてこれからの人生を生きていく。
何故なら隣には彼女がいてくれるのだから。
ハッピーエンドに出来たかな〜?