雨の日
しとりしとりと小粒の水の大群がどこからともなく降り注ぐ。それはどこか静かでありながらざわざわと落ち着きがなく、騒がしくも常に音を立てずにはいられない。
こうもざわざわと音に囲まれると外と遮断された空間は一層物静かに感じられる。
彼女は時折外のざわめきに目をやるといかにも古めかしい分厚い本のページをめくる。
今朝から雨が降りやまないおかげで彼女は朝からああして本に目を通してばかりである。きっと彼女もこの雨にもほこりっぽい本にも飽きてきた頃合いだろう。
分厚く重い書物をパタリと閉じると傍らに置かれた羽ペンを手に取り、紙の上に文字を張り付けていく。
こういった鬱蒼と雨が降りしきる日は家の中に閉じこもり、書物に読みふけってはああして頭に浮かんであろう言葉を書き留めている。彼女が何を思って、何を書き留めているかは私の知るところではない。しかしそれが世を震撼させるほどのすごぶる貴重な文献になることは決してないだろう。所詮これが彼女の日常の一端にすぎず、ごく普通のことなのだ。彼女はその名を歴史に刻むとしたら、それは相当の物好きが彼女の奇妙な噂を誇張し、称えているエセ宗教者ぐらいだろう。
彼女はよく言われる。
空から落ちてきた。
そう、天使なのだと。