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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

黒の三連星

悪魔の家

作者: 高田 勲武

この作品は私なりに深層心理を突いた、人の醜い部分を書いたものになっております。この作品を反面教師として、読んで頂いた方がどう思い、今後どうされるか、少しでも考えて頂ければ、私はこの作品を書いた意義があるのではないかと思っております。……と、いいつつも、私の文章力ではそこまで表現できていないかもしれませんが……

 周りは悪魔で溢れている。


 すれ違う人々――その中にどれだけ悪魔がいるのだろう。

 僕はそんなことを考えながら、とある一軒家の(そば)を通る。


 その家からは悲鳴が聞こえて来る。懸命(けんめい)に人の名前を呼ぶ声――周りが騒ぎ始める。


 その住人の死因は不明であった。

 何年も置かれたかのように干乾びて――まるで木乃伊(ミイラ)のような死体。数時間前まで生きていた人間が突然、それに姿を変える。


 悪魔に魂を採られ、死んだのだと集まる野次馬が口々に噂する。ドップラー効果のサイレンが近寄って来る。


 人を騙し、人を疑い、人を蹴落とす。人は欲望を満たし、見返りとして魂を捧げる。

 ――悪魔は日常として身の回りに存在するのだ。


 くすくすと声を少し押し殺した笑い声が聞こえて来る。


 僕は振り向いた。


 先程の家の二階――その窓辺に腰を下ろす一人の少女。幼さも少し残った……一般で言う美少女だ。薄いワンピースを身にまとい、少し大きな瞳を向けて……


 僕と目が合った。

 背筋に走る戦慄――僕は思わず走り出した。




 僕は一つの家の中へと駆け込んだ。――それは小さく、少々古いが一軒家。


 これは両親が残した家……と言っても、その両親は今も健在で、少し離れた町中にマンションの一部屋を借りて暮らしている。

 僕のためにこの家を明け渡してくれたのだ。庭もなく、駐車場……自転車一つ停めるところがないが、一人暮らしには贅沢なぐらい。




 ドンドン――しばらくして、玄関を叩く音がする。

 僕はドアの覗き穴から覗く。


 たまに来る勧誘やセールス。新聞を取ってくれだとか、愛を語る宗教とか……不用意に玄関を開けようとはしない。

 もうそれが習慣づいていた。


「はい」

 僕は声だけで答える。


「○×生命ですけど」


 保険の売り込みのようだ。


「今なら特典も付いて、お得です。どうです?お話だけでも……」


 しかし、保険の販売員にしては幼いとも感じた。


 興味のない話だ。


「結構です」

 僕は冷たく言った。


「そんな……まずは中で詳細な話を聞いて頂いたら……」

「結構です」

 僕は再び言い放つ。


 保険の販売員は諦めてその場を去っていく。――その時に不意にドアへ見せた顔。その時に気が付いたが……


 あの時の少女だ。悪魔に魂を採られたと噂された家の窓辺に佇んでいた少女。服装も販売員らしいスーツ姿だが――間違いない。


 背中に再び悪寒が走る。

 僕は漠然と認識した。――悪魔に目を付けられたのだと。




 僕は教会へ駆け込んだ。

 そこにいるのは神父か牧師かわからないが……黒い服を身にまとう神々しいと勝手に思う年配の男。


「悪魔に目を付けられました。助けて下さい」

 僕はその教会の人間に言った。


「それは貴方にやましいことがあるからです。懺悔(ざんげ)しなさい」

 少々高圧的に――見下すように男は言う。


 僕はクリスチャンではない。懺悔(ざんげ)やどうこうよりも……悪魔に対抗する宗教思想的なものではなく、もっと現実的な対応策が欲しいのだ。


悪魔祓師(エクソシスト)で悪魔を(はら)って下さい」

 僕は目の前の現実に対し、懇願(こんがん)した。


「主は全てに愛を与えます。それはどんな者に対しても……分け(へだ)てなく」


 だから、主たる所以(ゆえん)なのだ。裏切り者である弟子のユダも、その寛大なる愛により許した。

 ――だから神なのだ。


「悪魔とは人の心……誰にしもある邪な心が具現化した姿。主の愛はそれを咎めることも差別することもございません」


 言っていることが良く理解できない。


「主は何者であっても拒絶することはございません。」

 結論は何なのか。僕は苛立ちと共にそれを指摘しようとするが……


「主は悪魔であっても拒みません。――主は悪魔祓いを禁じています」


 悪魔は思想の違う……神とは表裏の思想を持つ者というだけ。


 愛を絶対正義と(かか)げる神にとって、悪魔さえその対象なのだ。対立の立場として立ち向かうことでさえ、愛という思想から反してしまう。


 なら、どうすれば良いのか。こちらは命……魂がかかっているのだ。


懺悔(ざんげ)しなさい。そうすれば……」


 そんなことをしている間はない。時は一刻を争う。


「そんな悠長な……!」

 僕は男の肩を(つか)んで揺する。


「ま、待ちなさい」

 男は口走りながらも僕の手を払い除ける。


「主は家族……人と人とのつながり――愛を一番の正義とします。つまり、その集う場所……家にはその表裏にあたる悪魔が入ることができません」


 それが聞きたかった。――ようは家の中にいれば安全なのだ。偶然にも、あの少女の応対を家から出ずに行ったのは、結果として良かったと言える。


 僕は教会を立ち去ろうとする。


「待ちなさい」

 男はそんな僕を呼び止める。


「一度、悪魔を招き入れてしまえば、その悪魔は、その家に入ることができるようになります」

 男は僕が立ち止まり、振り返ると共にそう語りかけて来た。


「人と人とのつながり……家に招き入れられるということは、その者もそのつながりの一員になってしまうということです」

 男は補足する。


「だから悪魔は人を騙し、誘惑し、何とか家に招き入れてもらおうとします。――くれぐれも御用心を」




 僕は家に籠城(ろうじょう)するため、買い出しに出た。


 いつ、如何なる時に少女――あの悪魔から接触があるかわからない。一番安全だと思えわれる家にこもる……少々安易な策を取ることにしたのだ。

 変に練るよりも、単純明快な策の方が効果的であることは、今までの人生経験で培って来ている。何よりずる賢い悪魔を自分の頭で出し抜くなんて、できそうにない。


 家からあまり離れていないスーパーマーケット。さほど大きくはないが、日常品は一通り(そろ)う。

 買い物かごに入れるのは缶詰とか……可能な限り長持ちするもの。


 悪魔が、いつ諦めてくれるかどうかわからないのだから、可能な限り長期籠城(ろうじょう)できなければならない。そのためには必然的な選択だろう。――そう、これは我慢比べ。


 負ければ魂を採られてしまうのだ。僕にとっては死活問題だ。


 僕は両手いっぱいの買い物袋を持って、スーパーマーケットを出た。

 少し離れた道端で、うずくまる人影が見える。


「どうしました?」

 僕はその人へ声をかけた。人影――少女は顔を上げ……


「持病の(しゃく)が……」

 今にも消えそうな声で語りかけて来る。


「貴方の家はこの近くではないでしょうか。そこで少し休ませて……」


 僕はその後に続く言葉の全てを聞くことなく、走り出した。

 ――あの少女だ。


 間違いなく騙し、誘惑し……僕の家に招き入れられようとしている。――教会の男が言う通りだ。


 そもそも持病の(しゃく)……(しゃく)って何だ?


 僕は混乱気味に家に駆け込んだ。




 ちなみに(しゃく)とは現在で言う、原因不明の内臓疾患の総称。時代劇などで使われる(しゃく)はその当時ではわからなかった胸や腹に起こる痛みをそう呼んでいる。それが娘の持病ともなると……多くは生理痛ではないだろうか。




 僕は長期休暇を取るため、会社へ電話をした。


「はい、○△×株式会社です」

 電話口から聞こえる女性の声。――僕には聞き覚えのない声。


 しかし、電話番号を間違えた訳ではなく……告げられた会社の名前も間違いない。会社の従業員を全て知る訳ではないので、こういうこともあるだろう。


「体調が悪く……医者にも仕事を止められてしまいまして……」

 僕は自分の所属と名前を告げ、特に気にも留めず、話を続ける。


 長期休暇の理由――正直に、悪魔に目を付けられたからだとは、とても言えない。


 信じてくれそうもない。

 思いつく言い訳としては……体調不良が都合良い。


「それは大変ですね。入院しなくても良いのですか?」

 電話口の女性の声は相槌をつく。


「はぁ」

 僕は返事をしながらも――不意に気が付いた。


「心配なので、お見舞いに伺いますね」

 電話口の女性の声は――薄笑いを含んでいる。それにこの声は……


 僕は慌てて電話を切った。


 この声はスーパーマーケットの(そば)で会った少女――悪魔の声。


 僕は悪魔へ、自分が家にいることを告げてしまった。




 ドンドン――ドアを叩く音がする。

 僕がそっと、ドアの覗き穴から覗くと……


 ドアの覗き穴へ接近させた、男の恐怖に引きつらせる顔が目に入る。僕は身を引く。


「た、助けて……助けてくれ!」

 その男は僕が覗いたことに気付いたのか、男は落ち着きなく悲鳴を上げる。


「悪魔に追われているんだ!こ、殺される!」


 僕と同じだ。

 同じ仲間……所謂(いわゆる)、同士だ。慌ててドアの鍵に指を掛けて……


 僕は思い留まる。


 もう一度、覗き穴を覗くと、男はドアに体をすり寄せ、顔は恐怖で強張らせているが……

 その目が少し微笑を含んでいるように見える。


「早くしてくれ!悪魔が、悪魔が……!」

 男は荒々しくドアを叩く。


 悪魔は人を騙すため、人間に化けると聞いたことがある。――あの少女の悪魔が、人間の男に化けないとは限らない。


 化ける可能性だってあるはずだ。


 僕は慌てて鍵を掛け直し、チェーンを掛ける。その音……


「お、おい!どういうことだ!どうしてだ!」

 勿論、外にも聞こえ、男はなおもドアを叩き、怒鳴り声を上げる。


「助けてくれ!殺される!魂が……」


 ――その後、言葉では表現できない断末魔。

 僕はドアに背を預け、その目を閉じ、耳を塞ぎ、その場に屈み込む。


 背中に伝わる荒々しい振動。何かバケツで水をかけるような音。


 ――しばらくすると、その振動と音がしなくなった。僕はゆっくりと立ち上がる。――膝が震えて止まらない。


 怖いもの見たさなのか。


 僕はそっとドアの覗き穴を覗く。そこで見えるのは真っ赤に染まった景色。――返り血がその覗き窓に付いたのだろう。

 赤のセロハンを張ったもので見るようなその光景は、動かなくなり、元の姿が認識できない程痛んだ物体――死体へ(むさぼ)る人影。


 人影は視線に気が付き、僕が見る覗き窓を見据えて口元を歪ませる。――僕は恐怖で(すく)む体を懸命(けんめい)に引きずりながら玄関から離れた。


 自分の末路を見たような気がした。

 自分も悪魔に騙されたら、こうなるのだ。悪魔を家に入れたら、こうなるのだ。


 僕は何を判断することもなく、自然に体が動き……窓という窓、全ての鍵を確認し、カーテンを閉める。




 窓でがさがさと物音がした。――僕はこっそりとカーテン越しに覗いてみる。


 窓辺にとまる小鳥。一瞬、心が緩むが――良く見ると、その頭の部分が人面。大きめの瞳をさらに見開き、僕を睨み付ける。


 あの少女の顔に見えた。


 僕は声にならない悲鳴を上げて勢い良く、再びカーテンを閉める。


 小鳥のさえずりが耳にまとわり付く。


 気が狂いそうだ。


 僕は布団に包まった。――恐ろしい程、肌寒く感じる。


 小鳥は鳴き声を残し、飛び立っていった。




 電話が鳴り響いた。――一瞬、心臓が止まる程の驚き。

 とても出る気にはなれない。


 僕は布団に包まったまま、しばらくやり過ごす。


 ――いつまでも鳴り止まない電話。

 僕は仕方なく……恐る恐る電話を取る。


「いるなら、早く電話に出ろ!」

 電話口では高圧的な怒鳴り声。――聞き覚えのある声。

 会社の上司の声だ。


「す、すみません」

 僕は謝りつつも、ほっと安堵の息を吐く。


 ようやく知った声を聞くことができた。


「何を呑気(のんき)な声を出している!いつまでも無断欠勤が続くと……」


 無断欠勤になっている。

 やはりあの時――会社へ電話した際に出た者は悪魔だったのだ。


「これ以上、無断欠勤をすると首にするぞ!」

「すみません」

 僕は再度謝る


「実は体調が……」

「ん?体を壊したのか?」

 上司の声が優しくなる。


 僕は急に不安になった。


 悪魔――少女は男にも化けたのだ。……いや、人間おろか小鳥にだって――僕の知人に化けることだって、お手のもののはず。


「今から家に行くから……」


 やはりそうか。騙されるな。


 僕は素早く電話を切り……電話から電話線を引き抜いた。




 ドンドン――ドアを叩く音がする。


「警察です」

 ドアの外でそう呼びかける声が聞こえる。


 助けが来たのか。


「ここで殺人事件があったと通報がありまして……死体はありませんが、ここの多量の血痕――事情を伺いたいので、ドアを開けて……」


 そう、ドアにはあの時の多量の血痕がこびり付いている。何事かと……殺人事件だと警察も来るだろう。

 ――死体がないだと。


 ドアにかかる血飛沫(ちしぶき)と乱暴な程の振動……悲鳴――一瞬にしてあの時の出来事が脳裏に(よみがえ)る。


 包む布団へ力が入る。


 騙されるな。これも悪魔の仕業だ。


 あの少女は何にだって化けることができる。助けに来たと思わせるために、警察官にだって化けることができるはずだ。


「あら?ここの人……しばらく見ませんけど……」

 警察官とは別の声が聞こえる。――近所の人だろうか。

 僕には聞き覚えがない。


「留守ではないでしょうか?」

 その声の後……

 ドンドン――再びドアを叩く音がする。


「しかし、ガスや電気のメーターが……」

 警察官が言っている。


 聞いたことがある。――居留守を使っているかどうかの見分け方はガスと電気のメーターを確認すれば良いと。


 僕は顔を上げた。


 しまった。


 電気のコンセント……おろか、ガスの元栓も閉じていない。今、動く訳にはいかないが……


「また、伺います」

 警察官は言い放ち、人の気配が消えていく。


 僕は息の殺しながら起き上がると、ガスの元栓を閉じ、電気コンセントを全て抜いて回った。




 ドンドン――ドアを叩く音がする。その音と共に僕の名前を呼ぶ声。


「いるのでしょ?」

 その声は母親の声だ。


 僕は飛び起きた。やっと助けが来たのだ。


「生きているの?」

「とりあえず、このドアを開けなさい!」

 二人の声――母親のみならず、父親……両親が来ているようだ。


 その後、強引に開けようとするかのようにドアを揺らす音。


 僕は玄関口の所で足を止めた。

 何度もドアをがたがたと鳴らし、ドアノブががちゃがちゃと回される。


「良いから、開けなさい!」

 少々焦りをも察知できる声。


 誰にでも化けることができるとしても……まさか、両親にまで化けるとは。――騙される訳がないだろう。


 お前は悪魔だ。


 僕は部屋に戻り、布団を被る。


 誰も信用できない。やはり自分の命を守るのは、自分自身なのだ。――負けてたまるか。

 俺は悪魔が諦めるまで、耐え切ってみせる。


 しばらく騒いでいた玄関も……いつの間にか、静まり返っていた。




 夜になっても電気を点けない。


 買い溜めした缶詰を……一日一個、開けてむしゃぶり付く。――水も極力使わない。


 最初に止まったのは電気だった。

 コンセントも繋がず、電気を全く使わないので、気付いたのは次にガスが止まった時――それを確認して、ようやく気が付いたのだが……


 やはり、最後に止まったのが水道。

 郵便で届いているのだろうが、以降、僕は一度も郵便を確認していない。そんなことをする気にもなれなかった。


 それでも僕は止める訳にはいかない。


 死にたくない。――どんなことをしてでも。


 物音に敏感になってしまった。風の音、雨の音……小鳥のさえずり。


 ――ついに誰もこの家に寄りつかなくなった。




 ドンドン――ドアを叩く音がする。

 久しぶりの来客。――僕は恐る恐る……ドアの覗き穴を覗くことにした。


「いい加減、開けてくれないかしら?」

 溜め息混じりに言う――あの少女。

 今回は誰にも化けていない。

 初めて出会った時の薄いワンピースを着て、ついに直接話しかけて来た。――包み隠し一つなく。


「ドアを開けても、私は人間の家には入れないのだから」

 少女は覗き穴を恨めしそうに見つめながら言い放つ。


 騙されるか。


「見ているのでしょ?答えるぐらいは良いでしょ?」

 少女は執拗に語りかけて来る。


 僕は慌てて部屋に戻り、布団を被る。


「そうやって全てから耳を塞ぎ……全てに疑心の目を向けたのね」

 それでも声が聞こえて来る。


 そんな馬鹿な。

 必死に耳を塞いで……


「今まで貴方の身の周りで起こった全て……私が全てを関与した訳ではないわ」

 それでも聞こえて来る。


 既に少女――悪魔に心を(つか)まれてしまったのか。


「貴方は勝手に疑い、勝手に恐怖を感じ……誰も信じられなくなったのよ」


 ――僕は我に返ったような衝撃を覚えた。


 今までどれまでが少女が関与し、どこからが関与していないのか……わからなくなってきた。

 もしかしたら本当に、どこかで純粋に助けの手が差し伸べられていたのかもしれない。


 これも一種の操心術か。――もう遅い。


「貴方の……今の自分の顔、鏡で見たことある?騙されたと思って、一度見てみれば?」


 僕はまるで操られるかのように洗面台に向かった。

 カーテン越しの日射し。それでその鏡が見えないことはない。


 鏡に映る自分の顔。

 痩せこけ、目元には深いクマ。――見たことのない人の顔。鬼気迫るそれは……


 まるで悪魔。


 本当に自分の顔なのかとそっと指で触れるが、その感触……鏡にその顔と共に映る指――間違いなく、そこにある自分の顔だ。


「わかったら、ドアを開けて」


 僕は玄関に舞い戻り、チェーンを外し、鍵を開け……

 ゆっくりとドアノブを回す。


「ようこそ。私の新しい相棒」

 少女はそう告げて、にこやかな笑顔を見せる。そして、僕を押し退けるように家の中へと入って来た。


「あれ?貴方、まだ人間でいるつもりだったの?」

 招かれるまでもなく家へ入る姿に困惑を示す僕に気付き、少女は不意に話しかける。


「自分の顔を見たでしょ?貴方はもう、人間ではないわ」

 少女は僕に顔を近付けて言った。


 少し瞳が大きく、幼さも残っているが整ったその少女の顔……表情――不覚にも可愛いと思ってしまった。


「自分のためだけに、貴方は人を見殺しにもしたのだから、もう立派な悪魔よ。人間でいられるとでも思ったの?」


 僕はその問いかけに答えることができなかった。

 どこからが人間でどこからが悪魔なのか……その分別はどこで図られるのか。


 僕は大切な何かを失ったみたいだ。


「悪魔が悪魔の家へ入るのに、何も問題はないはずよ」

 少女はそう言って、僕をそっと抱き締める。


「私の見込み通りだったわ」

 少女は僕の耳元で続ける。


「貴方なら私の仲間になってくれる……そう思っていたわ」

 その後、少女は顔を上げ、僕の顔に触れながら、

「仲間になってくれた証に……これから、私と楽しんでみない?」

 と、甘く呟く。


 ――それも悪くない。

 僕はそう思うようになっていた。


「これから仲間を増やしましょう。それとも……人間の魂を(むさぼ)るのも悪くないわね」


 それはこれから対象とする人間の性格によるだろう。だが……


 僕は少女を独り占めしたかった。


夢のある物語をモットーとしておりましたが、書き終えてみると、このような作品も面白いのだなと自分自身の新発見にもなりました。新たな自分を見つけたく、こういった作品を手がけましたが……如何だったでしょうか?

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― 新着の感想 ―
[良い点] 自分可愛さに、自分を守るために…という、人の汚い部分が隠すことなく現れていました。漢字等のフリガナもふってあって、とても読む人に親切だな、と思いました。 [一言] 面白かったです。
2013/07/20 21:45 退会済み
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