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ルーズベルトの苦悩

 戦争が始まらないどころか、対米開戦論者だった東条英機がいきなり対米戦回避を


唱え、経済回復を第一に掲げ始めたことに、議会だけでなく国民まで驚いた。


 それに、東郷外相が退陣し、新たに吉田茂が就任すると、さらに驚いた。


 しかも、吉田は就任会見で米国が提示したハル・ノートの内容を明らかにした。


吉田「もちろん、これはあくまでも米国からの『提案』であり、すべてを受け入れる

   つもりはない。しかし、太平洋の平和を維持するためには我が国も多少の犠牲を

   払う必要がある。このことを米国は真摯に受け止め、直ちに外交交渉を再開

   することを要求する」


 この記者会見と、直後に配布されたハル・ノートの要約文が新聞に掲載されると、


国内外に大きな反響を巻き起こしたのは言うまでもない。


 しかも、翌日に国民党政府が記者会見で発表した内容が、この衝撃を一層大きくした。


 なんと、蒋介石は日本帝国政府の休戦提案を受け入れ、吉田の来訪を歓迎するというのだ。


 これに、一番驚いたのは、この問題を仕掛けた本人、つまり米国大統領ルーズベルトであった。


 ホワイトハウスの執務室に慌ててやってきた、現国務長官ハルに怒鳴った。


ルーズベルト「どうなっているんだ、ジャップは我々の予想と違うことを始めたぞ」


 実際、ハルの予想では日本はすぐさまハル・ノートを突き返して戦争準備を始めるはずだった。


そして、早ければ年明けには宣戦布告してくるはずだった。


 むろんそうなれば、ルーズベルトにとってうれしいことが次々と起こる。


まず、対日宣戦布告すると、米国は日本の同盟国であるドイツとイタリアにも、宣戦布告できる。


それに、戦争が始まれば国民も経済統制や配給制を渋々ながら受け入れるしかない。


そうすれば、自由経済体制を一時的に戦時体制下に置くことによって、ニューディール政策の


失敗を覆い隠すことができる。


 つまり、戦争が始まることによって、ルーズベルトにとって嬉しいことばかりが起こるはずだった。


 しかし、日本は土壇場になってハル・ノートの受け入れを発表した。


 それだけでなく、日本は蒋介石との間で、極秘裏に和平交渉を進めていた。


腹が立つことに、交渉場所は香港であり、その宗主国の英国から情報が入ってこなかったことである。


 英国首相チェンバレンは、親独派である日本と中国に恩を売り、英国側に引き込もうとしていた。


しかも、日中の講和は親独派を減らすことになったので、表立って批判することができない。


 さらに、チェンバレンは日米が開戦すれば戦火が東南アジアにまで広がると予想していた。


それを回避したのだから、これまた非難することができない。


 実際に、日本は仏印からの撤兵を始めていた。


そこで、英国は蘭印植民地政府を説得し、対日石油輸出を再開させている。


 むろん、英国も抜かりなく一時は破棄した日英通商条約を、復活させている。


 この状況を、タイムズ紙は「米国は対日禁輸とハル・ノートという北風で日本に迫ったが、


英国は中国との休戦講和をセッティングする太陽外交で日本の鎧を脱がした。これこそ、


まさに英国外交の神髄である」と評した。


それはまさに、ルーズベルトの外交が、破綻したことを示した。

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