第2話
──夢を、見ていた。
目の前に、小さい頃の私がいた。夢の視点は小さな私の一歩後ろで、音は聞こえない。
小さな私は、ワイヤレスもついていない古い受話器を両手で持ち、誰かと話をしている。
──そういえば、あの受話器は私が引っ張り落として壊してしまったのだ。…懐かしい。
小さな私は電話をしながら、嬉しそうに笑っていた。たぶん、両親のどちらかがかけてきたのだろう。二人とも明るくて優しい両親だが、昔から父はしょっちゅう仕事で出張していたし、母も仕事で夜は遅かった。
だから、小さい頃はいつも家に1人で、正直寂しい思いをしていた。
成長した今は、そうでもないけれど。
そんな事を考えているうちに話は終わったらしい。
小さな私は背伸びをして受話器を置くと、そのまま駆け出して玄関に向かった。
どうやら、外で両親が帰るのを待つつもりらしい。
鍵を開けて外にでると、外では星が輝いていた。
小さい私は最初、おとなしく玄関の階段に座っていたが、どうにも待ちきれなくなったようで、走り出した。
その時、駆けだした私の視界を真っ白な光が、覆い尽くした──
『──ぃ…』
誰かの声が聞こえた気がする。
「おい」
今度は、はっきりと聞こえた。
私はうっすらと目を開け、意識がはっきりとしないまま、窓のほうを見た。
外は真っ暗で、星が出ている。
(夢の続きか)
そう思い、再び目を閉じようとしたとき…
「おい、そのまま寝たら風邪引くぞ」
と、声がした。私は眠い目を擦りながら体を起こした。ドアのほうを見るが、誰もいない。
ふと、窓のほうを見ると、外の闇以外の、他の影があった。
訝しんで目を凝らしていると、外で風に揺れる緑の音が聞こえ、雲に隠れていた月が顔を覗かせた。光が、部屋に差し込む。
──影が、浮かび上がる。
「!!」
私は大きく目を見開き、後ろに後ずさった。眠気は一気に吹き飛んでしまった。
「──な…なんで!? どうしてあなたがここにいるのよ!!」
月の光に浮かび上がった、影。
夜に溶け込むような黒髪、変わった格好、そして暗闇の中でも存在感を失うことのない、緑の瞳。
──あの、少年だった。
主人公達、まだ名前が出てきていませんがちゃんと用意してあります。もう少し話が進行したら名乗らせますので!