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一目惚れ  作者: 川木
8/12

絶望

 ちーちゃんがプレゼントしてくれたのはとても嬉しかった。でも、ん?と思ったのはまずここで、ちーちゃんは執拗に私とのお揃いを断った。

 それはまぁショックだったけれど、恥ずかしがってるのだろう、可愛いなぁで済む話だ。

 だけど頭を撫でた時、ちーちゃんは真っ赤になって走って帰ってしまった。


 私がデリカシーのないことを言った自覚はあるけれど、まさか怒って帰ってしまうとは思わなくて、うろたえてちーちゃんの後をつけてしまった。


 ちーちゃんはぐずぐずと鼻をすすって涙目でそわそわしながら家に帰り、それを見届けてから私も家に帰った。


 何がいけなかったのか。無遠慮なところはあったし、ちーちゃんにはもっとそっと優しく接するべきだったのだろうと推測する。ちーちゃんは私を嫌いと勘違いしているのだから、もう少しのんびり付き合ってあげるべきだった。反省。


 夜になり、ちーちゃんも落ち着いただろう頃にメールを送った。


『今日はごめんなさい』


 短いと我ながら思う。最初はもっと沢山言い訳を書いたけど、あまりに要領を得ないまわりくどくだらだらした文章になってしまい、推敲に推敲を重ねた結果短文になった。


 返事を今か今かと携帯電話に張り付くこと一時間、ようやく来た返事もまた短かった。


『やっぱり友達は無理』


 え?

 本当にえ?と声をだして、何度も読んで、当然文章はかわらない。下に動かそうとしても動かないから、改行してから本音を書くみたいなお茶目ールでもない。


「……え?」


 意味もなく携帯電話をひっくり返し、画面を180度回したり横にしたりして、もう一度読む。


『やっぱり友達は無理』


「……」


 かわらない。当然だ。うん…………なんで? え? 意味がわからない。だって、え?

 混乱。困惑。メダパニ。意味がわからない。


 今すぐに、メールを、いや電話をして聞きたかった。

 どういう意味なの? 私が悪かったわ。友達くらいならいいじゃない。


 ねぇ……私のこと、嫌い?


 そんなこと、聞けない。


 今までずっと、盲目的なまでに信じていた。信じられた。両想いなんだって、疑いもしなかった。

 だけどわからなくなった。急に不安になる。本当に本当は、私を嫌いだった? 全て勘違い? 私の一人相撲?

 嫌がるちーちゃんに無理矢理近づいて、無理させていた?


「っ…」


 聞きたい。でもちーちゃんに、そうだと肯定されたら? 今までは好きの裏返しだと信じていたから平気だった。でも、本気だったら?

 そんなの、堪えられない。


 私は頭をふって、考えを切り替える。

 考えすぎだ。いきなりネガティブになるにもほどがある。

 私を嫌いと勘違いの末の行動かも知れない。だって、あんな顔を私に向けるのだ。真っ赤で睨むみたいに強い眼差しを………怒りで赤く睨んでいる、と解釈することもできる。

 おもわせぶりな態度はただ優柔不断なだけ、ちーちゃんの挙動は悪く悪く考えればどちらともとれなくもない。何せ本人が嫌いと思うほどなのだから、当たり前といえば当たり前だ。

 だけどあれが恋と思ったのは私にあてはめれば当然そうだからで、ちーちゃんが全く同じ症状を怒りにより発症する可能性が皆無ではない。


「……」


 結局、私はちーちゃんに連絡できなかった。

 いくじなし、と自分を罵っても、脳内でちーちゃんボイスに変換して罵っても、勇気はでなかった。









 日曜を挟んで、月曜日。先週なら、ちーちゃんと会えるとわくわく気分だったのに、今週はサボりたい。ちーちゃんに会うのが怖い。学校に行きたくない。

 こんなにサボりたくなったのは、去年間違えて眉毛を全剃りしてしまって以来だ。ああ、最悪だ。


「おはよー」

「おはよう、隆美ちゃん」


 ちーちゃんの姿が目に入った。思わず人混みに紛れるように歩みを遅め、二人の様子を伺う。


「なんか元気なくない?」

「んー、まぁぼちぼち」

「意味フー」


 何をしてるんだ私は。早く声をかければいい。おはよ、なんて軽く言いながら隣を歩けば自然だ。


「……」


 どうしてか、ちーちゃんに近寄れない。それどころか、顔をあわせたくない。

 もし、ちーちゃんが私を見て嫌な顔をしたら? もしちーちゃんが私と距離をとったら?

 そんなの堪えられない。そうなったらと考えるだけで、恐くて震えそうだ。


 ちーちゃん…。


「ね、予習やってるんでしょ? 今日当たる日だから答え写させて」

「えー? 写させるのは駄目っていつも言ってるでしょ」


 たわいない会話をするちーちゃんの声、後ろ姿、ちらと見える横顔。

 その全てが、私をときめかせる。


 こうしてただ見つめるだけで、じんわりと幸せな気持ちになる。だけど、ちーちゃんに近づけなくて、声もかけられなくて、恋しくて、切ない。

 ちーちゃんが、好きだ。こんなにも好きなのに、こんなに見つめているのに、どうしてちーちゃんは振り向いてくれないんだろう。

 さっきから見ているのに、ちーちゃんは気づいてもくれない。ちーちゃんは、酷い人だ。

 あんなに可愛くて、可憐で、信じられないくらい愛おしい。ちーちゃんが素敵すぎて、私の恋心は爆発寸前で、馬鹿みたいに私を惑わせて振り回す。


「そんなこと言っていいのかなぁ? 先週ノート写させてやった恩を返してくれるんじゃなかったの?」

「……今度奢るくらいの意味だったんだけど…はいはい。わかったよ」

「またいつでも写させてあげるからねー」

「もう頼まないよ。もう、大丈夫だから」


 ちーちゃん…こっち向いて。


 私は隠れて気づかれないようにしてるくせに、そんなことを願った。









 授業が始まって、いつもならちーちゃんの熱い視線を感じるのに今日は感じない。というか、今まで感じていた視線は全て妄想だった気がしてきた。

 うわああああああ…………はぁぁ。それが本当だったらマジ凹む。ありえないレベルで凹む。


 私はため息をついてから、憂鬱を振り払うため授業に集中することにした。


「ちーちゃん」


 休み時間になる度に、隆美さんがちーちゃんを呼ぶ声が聞こえた。いつものことだ。昼休みと放課後は二人にしてくれているけど、休み時間は普通に二人は話をしてる。

 多少嫉妬はするけど私としても友人と思っているので問題はない。

 問題は…ない、けど、うらやましい。

 今、私は話かけられないから、うらやましくて仕方ない。

 私も呼びたい。ねぇちーちゃん。ちーちゃん。ちーちゃん聞いて。ちーちゃん、私を見て。ちーちゃん、気づいて。

 ねぇちーちゃん、私のこと、どう思ってるの?


 昼休みになった。いつもなら、ご飯食べよって言って、ちーちゃんの隣に座ってる。

 だけどやっぱり、拒否されるのが恐くて、そんなことはできない。


 でも、今日は一日ちーちゃんを避ける、と言う訳にもいかない。

 昨日借りた制服、洗ってアイロンをかけてちゃんとして持ってきた。返さなきゃ。

 もしちーちゃんが私を拒否るなら、これが声をかけられる最後のチャンスかも知れない。他に用事がタイミングよくできるとは思えない。

 そう思うと、なかなか踏ん切りがつかない。挨拶すら躊躇った私が、そんな簡単に勇気が出せるはずなくて、昼休みは隣の席の子たちとご飯を食べて終わった。









 放課後になった。

 今しかない。振り向いて、ちーちゃんの席へ行かなきゃ。部活へ行ってしまったら、余計ハードルが高くなってしまう。


 振り向く、振り向く。立って、荷物持って、振り向く。


「涼子さん」

「あ…た、隆美さん。何か?」

「何か、じゃない。ちーちゃん行っちゃったよ? てかお昼もちーちゃん誘わないし。喧嘩でもした?」

「あ、あー…まぁ、そんなところよ」

「何したか知らないけど、謝ったら許してくれるわよ、多分」

「…何で私が悪いこと前提なのか、聞いてもいいかしら?」

「え? 何となく」

「……」

「とりあえず部活行ったら?」

「…わかってるわよ」


 私は立ち上がり、荷物を持って教室を出た。

 足が重い。さっきも結局、勇気が出なかった。


 つい先週なら、私は何も考えずに声をかけられた。当たり前みたいに近づいて、ちーちゃんを見つめられた。

 なのに今は、ちーちゃんを見ることも、ちーちゃんの視界に入ることすら恐ろしい。


 こんなに自分が弱いなんて知らなかった。好きな人に臆病でびびって、声もかけられないなんて、自分のことなのに信じられなくて驚いてしまう。


 意味もなく足音も立てないよう、気づかれないよう歩いて、私は部室の前までたどり着いた。

 中にはちーちゃんがいる。ドアを開けて、まずなんて言う? 朝から挨拶もしてないから挨拶から? こんにちわ?

 ちーちゃんが、嫌な顔したらどうしよう。

 がっと勢いよく開けて、驚いてる隙に置いてお礼だけ言って帰ろうか? いや、メールの意味についてちゃんと話さなきゃ。全然納得できない。これが最後のチャンスなんだから、ちゃんと、話さなきゃ。


 何を言おうかはまだ決めあぐねていたけれど、とりあえず ドアノブに手を伸ばした。

 アドリブで大丈夫だ。口先には自信があるし、今までだって私は本番に強かった。

 そう自分を鼓舞したけど手は震えていて、ドアノブに触れる前で止めてしまった。


「……」


 どうしても、ちーちゃんの嫌そうな顔しか想像できない。

 いやそもそも、ちーちゃんは私に眉をよせた嫌そうな顔や困った顔ばかり向けていなかったか。全て無理矢理な過大解釈でいいように思っていただけで、ついに我慢の限界がきたんじゃないか。

 私を嫌いで嫌いで仕方ないんじゃないか。


 一度そう考えてしまえば、もう私はいいように解釈できない。

 ドアを開ける? ちーちゃんと会う? そんなの、無理に決まっている。


 私は制服の入った袋をドアの前に置いて、そっと踵を返した。

 度胸のないヘタレな自分が嫌になる。


 何だか泣けてきて、私は適当な空き教室に入って一人泣いた。

 そしてしばらく泣いてから、馬鹿らしくなってやめた。だってあまりにあまりに、私らしくないだろう。


 自分のふがいなさも無力さも、自分でなんとかするべきことだ。泣いてうじうじして解決されることではない。

 まだ、今すぐちーちゃんを尋ねるほどには勇気はでないけど、明日は頑張ろうと思った。


 なんだ、泣いたことにも少しは意味があったのか。こんなことなら、これからは泣きたい時には素直に泣くのも悪くない。


 私は自分に苦笑しながら、ふと窓の外を見た。


 するとおかしなことにちーちゃんが校舎から出ていくのが見えた。何か用事でもできたのだろうか。


 ふと、振り向かないかな、と思った。

 振り向いたら、今すぐ追い掛けよう。そして想いを伝えて確かめる。

 振り向いて。

 振り向いて。

 振り向いて振り向いて振り向いて。

 振り向けっ!


「……振り向くわけないか」


 運頼みにするのはやめよう。


「明日から頑張ろう」


 呟きながら立ち上がり、そういえばと思い出す。

 明日から頑張ろう、なんてことを言ったのは初めてだ。明日やるべきことは明日やろう。となるけれど、後回しにしたのは初めてだ。


 ちーちゃんは簡単に私の初めてを奪っていく。ちーちゃんには本当敵わないな、と思ってから、初めてを奪うだなんてなんだかエッチだと思ってしまって一人にやけながら帰路についた。











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