表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一目惚れ  作者: 川木
5/12

憂鬱

 りょうちゃんとお試しで友達になってから、一週間が過ぎる頃にはとりあえず、彼女と同じ空間にいることには慣れた。というか慣れざるを得ない。


「おはよう。一緒に行きましょうか」

「おはよう…」


 毎日一緒に登校した(同じバスだったらしい)。


「ちーちゃん、お昼食べましょ」

「…うん」


 毎日お昼を一緒した(何故か隆美ちゃんは別の友達のとこへ行っちゃう)。


「ちーちゃん、部活行きましょ」

「うん…」


 そして当然だけど、毎日部活で一緒。


 これで慣れなきゃ嘘だ。半径1m以内に近寄られても意識はするけど汗はかかなくなったし、会話中も5分に1度は顔を見てきょどらずにいられるようになった。

 まあ、まだ30cm以内だと汗出て体温あがるし、目があうと緊張できょどって喉が渇いちゃうんだけど。これでも私には大進歩だ。


「りょうちゃん、部活行くよ」

「ええ」


 にこにこと笑顔を浮かべるりょうちゃんから思わず目を逸らす。

 りょうちゃんは凄く綺麗な顔をしてるけど、笑うとなんだか可愛い系だ。そう素直に思うのに、何故か真っすぐりょうちゃんの顔を見れない。

 どうしてと疑問を浮かべる前に心臓がどきどきとうるさくなって、うまく考えられない。


 たまには、慣れたし、と思って初めて自分から声をかけたのだけど、失敗だ。

 声をかけたくらいでそんな笑顔にならないでよ。やめて。さっきまで平気だったのに、急にあなたから離れたくなってしまう。やけに体が熱い。

 彼女と近づく度に、体調が悪い。本当に慢性的風邪にでもかかってしまったんじゃないかと誤解してしまいそうだ。


 彼女に気づかれないように、何とか平静を装いながら私は彼女と並んで部室に向かう。

 横に並べば顔を見なくても自然で少しほっとする。ゆっくり気づかれないように息を深くして、なんとか落ち着いた。


 鍵を開けて部室に入るころには、私の鼓動も通常運転に戻った。


「……」

「……」


 特に言葉もなく、私は窓を開け、りょうちゃんはコーヒーをいれてくれ、それから向かいあって座る。

 コーヒーは二日目からいれてくれるようになった。


「…、」


 口に含んで飲み込む。私の好みのようにちゃんとミルクと砂糖がたっぷり入っていて美味しい。美味しいはずなのに、飲むたびに胸が少しだけ締め付けられる。

 きっと彼女のことを嫌いすぎて、彼女のやることなすこと文句をつけたくて体が拒否反応を起こしているのだろう。

 我がことなのに、自分でも推測しなきゃわからないなんて滑稽だ。彼女に関してだけは体が勝手に反応してしまって制御が効かない。


「……」


 今もそうだ。ようやく慣れたと言って、それはあくまで普通に会話できる、近づいても鳥肌がたたない、というレベルだ。

 今だに彼女からは凄まじい存在感、というか威圧感だろうか。わからない。とにかく彼女がそこにいると見ていなくてもそこに意識を集中させてしまう。意識せずにはいられない。

 彼女が入部してから、ろくに本を読みすすめられない。しかも最悪なことに、家に帰ってもそれは続く。

 夜になり、ご飯を食べてお風呂にも入って落ち着いて、暇つぶし本を読もうとすると、何故か急にりょうちゃんのことを思いだしてしまう。

 友達(仮)になった日につないだ手の感触や、彼女の瞳の美しさや、なんでもないはずの私への呼びかける声が頭の中を駆け巡る。するともう何も手につかなくて、ちょっとだけ胸が苦しくなって、気づけば寝る時間になっている。

 そんな時間が、実はさらに増えている。今も気をぬくとふいに、彼女の先程の笑みが頭にちらつく。

 なんなのだろう。もう本当にうっとおしいからやめてほしい。りょうちゃんが悪いわけじゃないのはわかってる。

 でも本を全然読めないまま返却期限が近いし、今日なんてりょうちゃんを見つめて授業中にまたぼんやりしてしまって、初めてノートに空白ができてしまった。終わってから隆美ちゃんに頼んで写させてもらったけれど、はっきり言って異常だ。


 りょうちゃんがいるだけで気になって他のことが手につかないならまだしも、側にいないのにまだ私の読書の邪魔をしたりするのは本当に勘弁してほしい。


「はぁ…」

「? あら、ため息なんてついてどうかした?」

「や、やぁ…何でもないよ」

「そう? もし悩みがあるなら遠慮なく言ってちょうだいよ? 私、ちーちゃんとはもっと仲良しになりたいもの」

「うん、ありがとう…」


 まただ。また、胸が苦しくなった。さらに動悸の激しさまで加わって、暑くなる。

 なんだろう。何故か彼女といると切なさで泣きたくなる。今まで切ないと感じたことがないから、本当にこれが切ないという感情なのか自信がないけど。どちらにせよ理由がわからない。


「……」


 微笑んでから、私が朝に勧めて貸した本にまた視線を落としたりょうちゃんをこっそり見つめる。

 りょうちゃんは私より背が高いのに、私と座高が変わらないのかちょっと俯き気味になるだけでつむじが見える。てっぺんのやや前の方に一つだ。


 ふいに、そのつむじが押したくなった。


 嫌いで仕方ないはずなのに、嫌いすぎて無視できなくて意識しすぎてしまうくらいなのに、私はあの日から彼女に時々触れたくなる。

 見つめたくて、触れたい、だなんて…自分でもどうかしてると思う。まるで恋のようだ。

 でも違う。私は彼女が嫌いなのだ。だって私が今までに触れたいと思った彼女の部位は、眼球、うなじ、手首、指先、鎖骨、つむじだ。

 眼球なんてあからさまなものから、つむじなんて地味なところまで攻撃する場所だ。つむじを押して下痢になるのが本当かは知らないが、私はそう思っているので無意識にそこを攻撃したがっているのだろう。

 眼球の時点で妙だと思って自己分析したが、まさかいくら嫌いとは言え無意識にりょうちゃんへ攻撃する場所を見極めているとは。

 いったいなにがそんなにりょうちゃんへの憎悪になっているのか不思議でたまらない、と他人事のように考える。


 りょうちゃんは美人で可愛くて絵がうまくて、めちゃくちゃ頭がよくてでもけして鼻にかけなくて、性格もフレンドリーで親切だ。普通なら好きになると思う。

 なのに私の体は、彼女が近づくだけで息すらできなくなる。さらに近づくと、思考さえできないくらい苦しくなる。


 なんなんだろう。前世で殺されたとか? …馬鹿馬鹿しい。でも、そう思ってしまうくらい、私の彼女への反応は異常だ。


「ちーちゃん、どうかした?」

「あ、や…ごめん、なんでもない」


 ふいに顔をあげたりょうちゃんとばっちり目があってしまった。微笑みながら尋ねてくるりょうちゃんに、私はバツが悪いと思いながらも何故か猛烈に恥ずかしくて顔が熱くなってしまって俯きながら否定する。


「そう? てっきり私に見とれてたのかと思ったわ」

「りょうちゃんってば、ナルシスト? そりゃあ、りょうちゃん美人さんだけど、あんまりそういうこと自分で言わないほうがいいよ」


 りょうちゃんの軽口は当たらずとも遠からずだったので、一瞬どきっとしたけれど平静を装い軽口を返す。

 視線を戻すと柔らかい彼女の眼差しとぶつかり、動かせなくなる。やっぱり彼女の瞳は美しい。とても綺麗。


「あら、美人と思ってくれてるのね、ありがとう」

「もう。りょうちゃんは口が減らないなぁ」

「一個しかないもの」

「あのね…まぁいいわ。りょうちゃん、面白い?」

「ん、ああ。まだ途中だけど、面白いわ。さすがちーちゃんのオススメね」

「その本シリーズ私全部集めてるの。長いからいっぱいあるけど、そのうちそこの本棚に並べるから、好きに読んでね」

「あら、大変じゃない?」

「私、本は重く感じないの。それに何回かにわけて運ぶから大丈夫。勧めても素直に読んでくれる人って身近にいないから、りょうちゃんが入ってきてくれて嬉しいわ」


 嘘だ。彼女に言ったことは全部本当で、隆美ちゃん繋がりの体育会系の知り合いばかりで、オススメを褒められたのも嬉しい。だけど、入ってきてほしくなんかなかった。

 私だけが本を読む空間で良かったのに。彼女でなければ、ただ本を読む仲間なら歓迎したかも知れない。だけど入ってきたのはりょうちゃんで、私の読書の邪魔になる人だ。


 りょうちゃんに何とか慣れてきて会話をできるようになったのはいいけど、やはり緊張してるのか色々と口を滑らせてしまう。

 リップサービスをするつもりはなくて、むしろりょうちゃんも私を嫌ってくれれば都合がよいのに、どうして私は彼女を歓迎するようなことを言ってるのだ。


「んー、じゃあこうしましょ。明日休みでしょ?」

「そりゃあ、今日は金曜日だからね」

「明日取りに行くわ。それで一緒に学校に運びましょう」

「え…」

「都合が悪い? それとも休みの日に学校に行くなんて論外、というタイプ?」

「それは…大丈夫だけど」

「なら決まりね。ついでに遊びましょ」


 何故に休日まで彼女と会って疲れなきゃいけないのか。平日にちょっとずつ運ぶとでも言えばいくらでも断れるだろう。今すぐ断れ。

 そんな風に自分に命令したのに、何故か私は頷いていた。


「何かしたいことはある?」

「…りょうちゃんに合わせるよ」


 りょうちゃんの瞳は綺麗で、綺麗すぎて、捕まってしまえばやすやすとは視線を外せない。

 だから私は、彼女の言うことには頷くしかできない。

 嫌いだと言うのは大袈裟だけど、体だけじゃなく気持ち的にもやはり、好きにはなれない。

 私の自由を奪ってしまう。りょうちゃんだけが、私を簡単に不自由にさせる。苦手で、やっぱり…嫌いだ。


 早く諦めて、部活もやめて、私の前からいなくなればいい。そうすれば清々する。絶対にその方がいい。

 なのにそう言えない。消えてなんて言えない。友達(仮)になると言ったけど、どうしてか他の、隆美ちゃんのようには思えない。そんな風に自然に接したりできない。

 蛇に睨まれた蛙って、多分こんな気持ちだ。


 私は見つめあって徐々にあがる体温と鼓動を自覚しながらも、とめられない自分がふがいなく、明日を思って憂鬱になった。


「じゃあとっておきに連れて行ってあげる」

「わぁ、なにそれ」

「内緒よ。明日のお楽しみにしてね」

「うん…楽しみにするね」


 口だけが、私の意思を無視して弧を描いた。











感想にて続きを望まれたので再開。

無駄にごちゃごちゃ回りくどい文章ですぐ語彙がつきてしまうので、微妙に同じこと言ってるかも。

てか書いてから少し時間がたったのでどんな表現したか忘れたからちょっと悩んだ。


多少書き方変えるかも知れんが、とりあえず完結まで持ってくつもり。中編予定で。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ