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一目惚れ  作者: 川木
11/12

自覚

「おはよう…っ」


 いつものバスで見かけ、思い切って近寄りながら声をかけた。


「お、おはよう?」


 戸惑いつつも挨拶が返ってきたことにほっとしつつ、二日ぶりにかけられたりょうちゃんの声がじんわり胸にしみこんで、喜びが広がる。

 よかった。昨日も私を無視しようとしたわけじゃないんだ。ただ私がああ言ったから避けただけだ。


「……あの、ちーちゃん」


 りょうちゃんが私をちらっと見て私を呼ぶ。恐らく私の態度を問い詰めるつもりなのだろう。だけどどうしたのかと聞かれても、明確な答えはまだ出せない。


「ごめん」

「え?」


 だから先手をうって謝ることにした。


「土曜、ごめん」

「い、いいのよ、別に」


 とりあえず何とか許してもらえた。それにほっとして、だけど何となくりょうちゃんの視線を感じて恥ずかしくて、私はにやけそうな口元をぎゅっと引き締めた。

 りょうちゃんにニヤケ顔は見られたくないし、何より、そうしてなきゃ自制できそうにない。ドキドキしてむずむずして、足踏みしたいような、いっそ走りだしたいような、無性にりょうちゃんの名前を叫びたいような、そんな衝動にかられていて、私は我慢するので精一杯だった。


「……」


 りょうちゃんは何も言わない。私も何も言わない。

 だけど嫌ではない。ドキドキして少し苦しいのに、どこか甘い。苦しさが甘いって意味がわからないし、変態みたいだけど、なんだか悪くない。この苦しみが心地好いと、初めて思った。


 そのままバス停についた。

 私もりょうちゃんも黙ったまま下りて、教室についたら別れた。


 りょうちゃんの背中は昨日と同じはずなのに、何故か見ているだけで落ち着いた。昨日のイライラが嘘みたいだ。


「−−」


 隣の子と何か話をしている。顔を寄せて話をしているからイマイチ聞こえない。

 せまい教室だから普通の会話ならちょっと注意を払えばだいたい聞こえるのに。何を話しているのだろう。

 少し……かなり、気になった。









 休み時間は話し掛けるのは憚られた。だって話題がない。りょうちゃんの近くに行くと、何を話していいのかわからなくなる。

 何もキッカケがないから我慢した。りょうちゃんから来てくれないかなとちょっと思ったけど、来てくれなかった。


 お昼休みになったから、お昼を一緒に食べるという理由ができた。りょうちゃんがまた他の子と食べてしまう前に誘いに行こう。


「りょうちゃん」

「え、あ…」

「いい?」


 顔をあげたりょうちゃんはまだ片付けを終えてなくて驚いていたけど、お弁当袋を持って尋ねると意味を察してくれたらしく頷いた。


 隣の子の席を借り、私とりょうちゃんは向かい合って座る。りょうちゃんが片付けた机にお弁当袋を置く。りょうちゃんもお弁当を出したのでタイミングを合わせて開ける。


「いただきます」

「い、いただきます」


 とりあえず食べだす。今日のお弁当のご飯にはたまごふりかけ。これ結構好き。口に含んでから、ちらっとりょうちゃんを見ると私を見てた。

 びっくりして気づいてないふりをしてまた視線を下にしたけど、意志に関係なく心臓は早くなり、顔が熱くなる。もしかしたら耳も赤いかも知れない。恥ずかしい。


「……」


 りょうちゃんは何も言ってこないから私も何も言わずに、食べてるとこ見られるのか、何だか恥ずかしくてちょっと急いで食べた。


「…ん、ごちそうさま」


 何とか食べ終わった。お弁当に蓋をし片付けてもまだりょうちゃんは私を見てる。手を膝に下ろして、俯いてしまう。だって、見られてると思うと恥ずかしくて震えるんだもん。

 でも頑張って目だけはりょうちゃんを見る。りょうちゃんはお箸が止まってる。


「食べないの?」

「た、食べます」


 また食べはじめた。りょうちゃんはまだ半分も減ってない。もしや私を見ていたんじゃなくぼーっとしていたんだろうか。だとしたら自意識過剰すぎ。恥ずかしい。


 それにしても、こうやってまじまじと見るとりょうちゃんは綺麗な食べ方をする。いつもとはいえ背筋が伸びているし、指が長いからお箸を持つのさえ様になっている。

 私はちょいちょい猫背になってしまうから、りょうちゃんの前では気をつけないとなぁ。


 もぐもぐ動くりょうちゃんの口元を注視してると、何だかその唇に触りたいと思ってしまった。だけどいきなりそんなことしたら変人確定だ。

 というか嫌いじゃないのに触りたいだなんて………やっぱり、そうなのだろうか?


 だとしたら、めちゃくちゃ恥ずかしい。だって好きなのに嫌いと勘違いするとかありえないし、嫌いと言ったとはいえりょうちゃんが気になって仕方ないとか本人に言ってしまったし。


 ああああ、ちょっと待って。考えたら私めちゃくちゃすごいこと言った気がする。



 …く、はぁぁ。うう恥ずかしい。

 もう余計なことは考えずに、りょうちゃん観察に没頭しよう。


 りょうちゃんは、俯き気味なので当社比120%で睫毛長く見える。私も睫毛が短いわけじゃないけど、りょうちゃんの睫毛はあんまりカールしてないけど外を向いていてクールな目がより凜としていて、目力が凄い。

 でも今は下を向いているから大丈夫……ん? もしかして、私が見返したから照れた? 特に真っ赤じゃないけど…んー、考えたら私、りょうちゃんは余裕げに微笑んでる顔しか見たことない。


「……」


 今は普通だ。微笑んでない。無表情…でもない? …困惑? 微妙に照れてないこともない?

 ……よくわかんない。とりあえず言えることは、相変わらず綺麗な顔ってくらいだ。

 本当に、綺麗。キスしたい。


 ………………………ん? あれ? 今なんて?

 ………うわぁ……、いや、何となく、好意だろうとそろそろ気づいていたけど…私、めちゃくちゃ恥ずかしい奴じゃん。キスしたくなって、ようやく好きって自覚するなんて、ほんとに遅すぎ。鈍すぎ。


「……」


 私は赤面がとまらなくて、ただ黙ってりょうちゃんを見つめ続けた。









 放課後、りょうちゃんを部活に誘うと普通に来てくれることになった。お昼も大丈夫だったけど、りょうちゃんは相変わらず無口だったからもしかしたら断られるかもと思わないでもなかったからほっとした。

 でもりょうちゃんが断らないとして、私を恋愛感情で好きとは限らない。以前言われた好きがそういう意味とは限らない。むしろ違う可能性の方が高い。

 気を引き締めて、りょうちゃんの気持ちを確かめようと心に決めた。


「座って、入れるから」


 部室についてすぐそう言って着席を促す。今日は私がいれたい気分だったのだ。


「りょうちゃん」

「なにかしら?」


 いつも通り向かいに座り、コーヒーを一口飲んでから、りょうちゃんを真っすぐ見る。りょうちゃんは珍しく顎をひいて上目遣いになっている。

 そんなりょうちゃんの珍しい表情にぞくぞくした。


「…ちょっと、隣いい?」

「え? 隣って?」

「だから、隣、座っていい?」

「へ……い、いい、けど?」


 ちょっと強引に隣に座った。椅子を寄せて寄り添うように座ると、りょうちゃんの体温を感じた。

 ドキドキする。でも好きだと自覚してしまえば、ドキドキが気持ちいいくらいに感じた。鳥肌も息苦しさも、好きという気持ちがあふれて体のコントロールが効かないのだと今はわかる。


 胸が痛いくらい心臓がドキドキしていて、体中が熱い。


「りょうちゃん」


 赤い顔が恥ずかしくて俯いたまま声をかけた。りょうちゃんはだけど何も言わない。

 どんな顔をしているのだろう。今何を思っているのだろう。私のことどう思っているんだろう


「あの、さ…変なこと聞いていい?」

「も、ももちろん。何でも聞いて?」


 高い声でりょうちゃんは私を促した。もしかして、りょうちゃんも緊張しているのだろうか。

 顔をあげると、りょうちゃんも上気した赤みがかった顔をしていて、慌てたように目を見開いて口を僅かに開けている。

 私から何らかの雰囲気を感じているのか、それとも私と距離が近いからなのか。もし後者なら、とても可愛いなと思った。


「私のこと好き?」

「大好き……え?」


 まだ嫌いになってないか、という意味で聞いたのだけど、答えてからぽかんとした表情を浮かべたりょうちゃんがあんまりに可愛くて、嬉しくて頬が緩むのが押さえられない。


 りょうちゃんが好きだ。大好き。もう我慢できない。りょうちゃんの感情を確かめるなんてまどろっこしい。先に私の気持ちを伝えよう。


「んっ」


 好き、と言おうとしたんだけど、気づいたらキスをしていた。

 腰を浮かして、りょうちゃんの肩に手を置いてりょうちゃんの唇に自分の唇を押し付けていた。

 唇は柔らかくて、気持ち良くてもう他に何も考えられなかった。

 こんなに素晴らしいものが世にあるとは思わなかった。気持ちいい。

 心臓はこれ以上ないくらいドキドキしていたし、全身が緊張で僅かに震え、目眩がしそうなくらいりょうちゃんの姿が輝いて見えたけど、嫌いだとはもはや間違いようがない。

 だってキスをする今、めちゃくちゃ気持ち良くて、幸せを感じているんだもん。


「は…ち、ちちちちーちゃん!?」


 唇を離すと混乱したように真っ赤になったりょうちゃんが目を白黒させた。


「ちー、っ」


 急にごめんね、好きなの。と言おうとしたのにまたキスしていた。


「…な、なんなのよぅ」


 キスをやめると、ちーちゃんは真っ赤な顔で涙ぐんでいた。それが可愛くてドキドキした。


「キス…したくなったの。嫌?」


 ストレートに言ってみた。なんとなく、りょうちゃんにはこの方がいい気がした。


「い…いやじゃ、ないけど…でもあの、こう、順番ってあるじゃない?」

「りょうちゃん、私…これからもずっと、りょうちゃんとキスしたい。たくさんキスしたい」

「……」


 耳まで真っ赤になったりょうちゃんは言葉を失ったように、口をニ、三度開けたり閉めたりしている。


「ねえ、キスしていい?」

「……」


 りょうちゃんは黙ったまま頷いた。


 そっとキスをした。三度目でも、幸福感は全く衰えない。


「ね、ねぇちーちゃん」

「なに?」

「その…私はちーちゃんが好きよ。ちーちゃんも、言って?」


 キスした。四回目。


「わからない?」

「わかるけど……そうじゃなくて」


 キスした。五回目。

 本当は、好きって言おうしてる。してるんだけど、言葉を発音する前に体が動いてキスしてしまう。

 好き、と言おうと口を開くと気持ちが溢れてキスせずにはいられない。


「ん、ち、ちーちゃぁん」

「りょうちゃん、可愛い」

「……ばか。こんなに強引な子だと思わなかったわ」

「嫌いになった?」

「…好き。ねぇ、ちゃんと口で言って?」

『大好き』


 六回目。

 気持ちをこめてキスをしてから、私はぎゅっとりょうちゃんを抱きしめた。


「…ずるいわ」


 ごめん。でもちょっと待って。気持ちが落ち着いたら、今度こそキスより先に言葉にするから。


 謝罪の気持ちもこめて見つめると、りょうちゃんは目を閉じた。七回目。











最初はこの話で終わりにしようと思いましたが、視点数的に偏るのであと一話続きます。

蛇足的で短くなるかも知れません。


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