盆
三題噺もどき―きゅうひゃくじゅうなな。
視界の端でのれんがゆれる。
一階と階段を仕切るためののれんである。
扇風機を回しているので、そのせいだろう。
のれんは、母がどこかから買ってきたもので、草木のイラストが描かれている。
「……」
ソファに寝転がり、テレビを眺めている。
テレビでは、いつものようにお昼のニュース番組が流れている。
台風がまたできたらしい。8月だしそんなもんかと思いつつ、今は、地震の心配もあるから勘弁してほしいものだ。
テレビに写されたのは台風の現在地。なんか……面白い構図になっている。こんなことってあるんだろうか。
「……」
そうそう。
台風で思いだしたが。
お盆にこちらに来るとか言っていた祖母が来なくなったらしい。
台風の影響もあるし、あちらでもお盆の何かをしないといけなくなったらしい。私たちは関係ない。
「……」
母にそう言われたとき、声に嬉しさが滲むのを我慢するのが大変だった。
抑えるのに必死で、唇を噛むくらいだ。どうにかこうにか興味ありませんよ感をだしつつ、ふーんとだけ言った。
「……」
思わず、口からやったーとか言った矢先には母に嫌われかねない。母にはまだまだこれからお世話になるのだから、喧嘩なんてしてられない。
まぁ、その母もあの祖母の相手は大変そうだし、来なくてよかったとは思っている……だろうと勝手に推測している。いくら自分の母とは言え。
何せ初盆だ。知り合いがいくらか来てもおかしくなくて、その度にあの祖母が暴走するのを止めるのを考えれば、来ない方がいいに決まっている。
「……」
10月に来るって、と言われたけど。
それも来なくていいとは言えない。
来るなとしか思わないし、何をしに来るんだろうと言う感じなんだが。
だって、関係なくないか。
「……」
まぁまぁ。
今回は来ないし、10月も何か奇跡が起きてこないことを祈って。
今日も今日とてゴロゴロダラダラとしている。
「……」
今週は、お盆もあるので学校は休みだ。
夏休み中だから、こういうのもなんだかおかしい気もするんだけど。
夏休みなんだから、休みなのは当たり前だろう。
「……」
今までお盆って、なんだろう。関わったことがないと言うか、何かをしたことがないので……なんかしないといけないんだろうか。
でもこの時期になると、SNSに面白い形の精霊馬が流れてくる。馬と牛だったか。どうやったらキュウリであんなに作れるんだろうな。
「……」
母がいつの間にか、提灯は買っていたんだけど。
あまり大きくない、小さいやつだ。そのまま間接照明とかにつかえそうな……おしゃれなものがあるんだなと思った。
「……」
迎え火送り火とかするのかな。
そんなに本格的にすることもないと思うんだが……。
まぁその辺は母に任せているし、私は言われたことをするだけである。
「……、」
この家、和室はあるのだけど、そこで祖母が来たときに寝泊まりするからと。
仏壇はリビングにあったりする。だから、少しでも視線をずらせば写真と目があうし、視界の隅に常にいて。
いい気とか悪い気とかではなく。なんとなく。
「……」
そもそもここに置いている理由が、祖母関連なのがホントに嫌なんだ。
何のための和室だよとしか思わなくて。
食事中もこうしてダラダラしている時も、現実を見せつけられているようで。
「……」
「……」
「……」
―喉が渇いた。
体を起こし、足を床に落とす。
「―――った」
立ち上がろうと、床を踏みつけたとたん。
何かが足の裏に刺さった。
足を降ろした時に気づかないものかと自分でも不思議に思った。
「――」
何かと足を動かしてみれば。
そこには小さなピアスが落ちていた。
そういえば母がなくしたと言っていた気がする。
「……」
摘まみ上げ、机の上に置く。
勝手に片づけてもよかったけど、置いておいた方がいちいち見つかったと言わなくて済む。
「……」
とりあえず、水でも飲もう。
お題:噛む・ピアス・のれん




