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守るもの

「……以上が、4年前の開戦初期における、西連合の防衛線戦術である。今日の講義はここまで!」


教壇の電子黒板がパッと消え、防衛学校の教室に放課後を告げるチャイムが鳴り響いた。ノートをカバンに詰め込んでいる俺の背中を、クラスメイトたちがガシガシ叩いてくる。


「おいクローバー! 授業終わったぞ! 今日はもう速攻で帰れよな!」

「え? ああ、うん。でも放課後の予習が——」

「バカ言え、今日は記念すべきお前の16歳の誕生日だろ! 年の離れた可愛い弟さんが、首を長くしてお前を待ってるはずだぞ。ほら、早く帰った帰った!」

「分かったよ。ありがとう、じゃあお言葉に甘えて先に出るよ!」


友人たちに笑顔で送り出され、カバンを掴んで教室を飛び出す。後ろから聞こえる「おめでとう!」「美味いケーキ食えよ!」という仲間たちの声を背に、俺は夕焼けに染まる道を急いだ。


「お兄ちゃん! 誕生日おめでとう!」


玄関のドアを開けた瞬間、背中に飛びついてきた小さな質量に、俺は思わず顔を綻ばせた。


「うおっ、危ないな。ありがとう、アル」


7歳になる弟のアルが差し出してきたのは、折り紙とセロハンテープで不器用に作られた、カブトムシだった。俺はアルの柔らかい髪を撫でる。


「アル、お兄ちゃんをあんまり困らせるんじゃないよ。クローバー、16歳の誕生日おめでとう。学校の勉強も大変だけど、体だけは壊さないでね」


母さんが優しい手つきで、食卓の中央に手作りのイチゴケーキを置いた。父さんも新聞から目を離し、不器用な笑みを浮かべて俺の肩を叩く。


この温かい部屋にいると、戦争なんてどこか遠い世界の出来事のようだった。今日ばかりは、俺はただの「16歳の少年」として、家族の愛を全身で受け止めていた。


「さあ、ろうそくに火を灯すよ。クローバー、願い事をしながら吹き消しなさい」


母さんがマッチを擦った、その瞬間だった。


———————ドンッ!!!!


世界が底からひっくり返るような、大質量の地鳴りが響いた。食卓が激しく揺れ、せっかくの誕生日ケーキが床へと滑り落ちてぐちゃぐちゃに潰れる。ガシャガシャとガラスの割れる不快な音が家中に響き渡った。


「うわああああん!」


怯えたアルが俺の腰にしがみつく。


「あなた!? 何事ですか!?」


「静かにしろ! ……おい、嘘だろ……」


父さんが窓のカーテンを開けた。その顔から、一瞬で血の気が引いていくのが分かった。俺も窓の外に目を向けた。俺が夢見た平穏な未来は、そこにはなかった。


ウゥゥゥゥ———————ン

ウゥゥゥゥ———————ン


島中に鳴り響く、聞いたこともないサイレンの音。アルカディアの領空で火花を散らしていたのは、ディストピアに向かっていた西連合の筆頭ゴライアス帝国の戦艦だった。


「逃げなさい!!」


母さんが叫ぶように言う。外に出ると街はディストピアの砲撃によって自分の知っている街並ではなかった。


「もう時期ここは激戦区になります!!島民の皆様はアルカディア防衛学校の地下シェルターに避難してください!」


「父さんはこの国を守る。だからお前は母さんとアルを頼むぞ」


「生きて帰ってきて。大好きだよ父さん」


父の背中は心なしかいつもより大きく見えた気がした。

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