7、誕生
一体、どれほどの時間戦い続けていただろうか。
とうに限界など超えていたが、俺は一心不乱にナイフを振るい、一体、また一体と魔物の息の根を止めた。
やはり身体能力が上がっている。68層の魔物にも俺の攻撃が通用する。
しかし、どれだけ身体能力が上がっていようと、数の暴力は残酷だった。手足はすでに無数の傷だらけになり……
(もう駄目だ……一歩も動けない)
腕に力が入らず、ナイフを持っているのもやっとな俺に、容赦なく、次の魔物が飛びかかる。
俺は気力を振り絞り、魔物に向けて牙ナイフを突き刺す。だが、限界を迎えている俺の一撃は浅かった。
「ぐ、ああ……っ!」
魔物の鋭い牙が、俺の肩口にガブリと深く突き刺さる。激痛と共に視界がかすんでいく。
(俺はここで死ぬ?……だけど、ボスの実は、ちゃんと守れたよな……?)
諦めかけた、その瞬間だった。
ボスの無数の触手が、俺の肩に噛みついていた魔物へとボコボコに突き刺さった。
「ボス……大丈夫なのか……?」
そっちにそんな余裕があるのか、と驚いて周囲を見渡すと、いつの間にかボスの周りには山のような魔物の死体が積み上がっていた。そして、通路の奥から新しく向かってくる魔物の気配は、もうない。
「終わったんだ……スタンピード」
安堵のあまり一気に気が抜けた瞬間、俺の意識は急速に失われ、暗く深い闇の中へと落ちていった。
どれくらいの時間、眠りこけていたのだろうか。
唇に、ひんやりとした冷たい感触を覚えて、俺はゆっくりと目を覚ました。
うっすらと目を開けると、心配そうにこちらを覗き込むボスの姿があった。ボスは器用に触手の先で水を汲み上げ、数滴ずつ、俺の乾いた口元へ優しく送り届けてくれていた。
「ん……ありがとう。ボス……」
体を起こそうとして、妙な違和感に気づく。
不思議なことに、あれほど傷だらけだったはずの俺の体の傷が、半分以上塞がっていた。痛みもほとんどない。
「これも、ボスの力なのか?」
俺が問いかけると、ボスは「キィ」と一回鳴いた。
「そうか、もしかして根から力を分けてくれたのか?大切なエネルギーを俺の為に……ありがとう」
ゆっくりと上体を起こすと、ボスの触手がすっと一つの方向を指し示した。
示された方へと視線を巡らせると、そこにあったのは、あの大きな実だった。
ボスの実が、今までよりも強く発光している。その緑色の輝きは、もはや神々しいとまで思えた。
そしてよく見ると、実の上部に小さな亀裂が入り始めていた。
ピキッ
「もしかして……実が開くのか!?」
ピキッ
ピキッ
少しずつ、少しずつ、亀裂が大きくなっていく。
「な、何が出てくるんだろう?もしかして小さいボスみたいなのが出てくるのかな?」
1/3ぐらい亀裂が入ると、その後はビリビリと大きな音を立てながら、一気に空は破られた。そして、
パキン――。
澄んだ音を立てて、殻が完全に開ききる。
種子の中から出てきたものを目にし、俺は言葉を失った。
現れたのは小さなボスではなかった。
うっすらと淡い緑色の肌をした、息をのむほど美しい、少女の姿をした生き物だった。
今まで一度も目にしたことがない、神秘的な存在。
絹糸のように細く伸びた長い髪は、ダンジョンの微光を浴びてキラキラと煌めいている。
緑の少女の大きな瞳が、俺のことをじっと見上げるように見つめる。
あまりの出来事にどうしていいか分からず、オロオロと戸惑っていると、その少女の姿をした生き物が、小さく口を開いた。
「キィ……」
それを聞いてすぐ理解した。
「ああ、間違いない。ボスの子供だ」
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