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異世界腐教活動

作者: クローゼ

「あれ? ここは……」


目を開けると、豪華な天蓋付きベッドの上だった。柔らかな布団が身体を包み込んでいる。窓から差し込む光が部屋を金色に染めていた。


「お目覚めですか、アラン様」


そっとドアが開き、ルカが入ってきた。その青い髪が光を受けて宝石のように輝いている。彼は静かに近づいてきて、水の入ったグラスを差し出した。


「水をお持ちしました。無理せずどうぞ」


「ありがとうございます……あの、わたし……」


「突然意識を失われましたので、急遽客室にお連れしました。驚かれたことでしょう」


「すみません! お恥ずかしい……」顔が熱くなるのが分かった。「ちょっと過度の衝撃で……」


「過度の……?」ルカが不思議そうな表情をする。


「あっ、なんでもないです!」慌てて首を振ると、ドアの方から声がした。


「おい、ルカ。一人だけ入れるなんてずるいじゃないか」


現れたのは金髪のセシルだった。彼はいつもの陽気な笑顔を浮かべていたが、その瞳の奥に何か複雑なものを感じた。


「セシル、医務官の許可なく病人の部屋に入るのは控えたまえ」ルカの声が少し低くなった。


「病人って大袈裟だろ? ただの貧血か何かだろう」セシルは軽く肩をすくめて、アランの寝台に腰掛けた。「なぁアラン、お前は本当に"特別な力"を持ってるのか?」


「え?」アランは身を起こそうとしたが、ルカに止められた。


「まだ安静に」ルカが優しく諭す。


「いいんだよ」セシルは指でアランの額に触れた。「熱はないね」


距離感が近すぎる! 心臓が早鐘のように打ちはじめた。これは完全に"壁ドン"パターンではないか?


「それで、アラン」セシルが真剣な表情になった。「国王陛下がお待ちだ。お前のことを聞きたいらしい」


「国王陛下が……私に?」


「そうだ。召喚されたばかりなのに申し訳ないが、お前の力が必要なんだ」


「力とは?」アランは不安げに尋ねた。「私はただの普通の人間で……」


「それが違うんですよ」ルカが静かに言った。「アラン様、あなたは『渡り人』です。私たちの世界には存在しない特殊な能力を持ち、異なる次元から呼び寄せられる方々」


「え?」アランの頭の中でパズルが組み合わさっていく。「それじゃあ私は……異世界に召喚されたということですか?」


「その通り」ルカが頷いた。「古の予言によれば、危機に瀕した王国を救うため、『渡り人』が現れるとされています」


「危機……?」


セシルが立ち上がり、窓の外を見た。「魔物の侵略だ。各地で暴れ回っていて、我々聖騎士団でも手が足りなくなってきている」


アランは信じられない思いで二人を見上げた。これはまるでライトノベルのような展開。夢なのか現実なのか、まだ確信が持てなかった。


「でも、私のような子供に何ができるのでしょうか?」震える声で尋ねると、セシルが振り返った。


「そこが面白いところなんだ」彼の表情が一瞬曇った。「お前を見て気づいたことがある。普通の『渡り人』とは違うかもしれない」


「どういう意味ですか?」


ルカが横から説明を加えた。「通常、召喚されるのは成人の方が多いのです。しかも強い精神力を必要とする術式なので、年齢的に耐えられない場合も多く……」


「つまり俺達は賭けに出たんだ」セシルが厳しい表情で続けた。「誰か一人でも召喚できればと思っていたが、まさか子供が来るとは思わなかった。だけど、お前の顔を見て何か感じたんだ。これが答えだと」


アランは混乱していた。確かに自分の見た目は十歳ほどの子供だ。しかし中身はオタク活動歴十年を超える大人。このギャップをどう説明すれば……


「とにかく国王陛下にお会いいただけますか?」ルカが丁寧に言った。「説明の後で、正式に判断していただくつもりです」


「わかりました……」アランはベッドから降りようとした。


「ああ、無理するなよ」セシルが腕を伸ばし、支えてくれた。「王宮内は迷路みたいだから、案内するよ」


「僕も同行します」ルカが言った。「安全のために」


「わかった、わかった」セシルはわずかに眉をひそめた。「いつも監視してるみたいに言うなよ」


「任務ですから」ルカの声は平静だったが、アランには緊張感が伝わってきた。


ふたりの間の微妙な空気が漂う。これは……期待以上の展開なのでは? アランの頭の中では既に様々なカップリング案が渦巻いていた。ルカ×セシル派か、セシル×ルカ派か、いや第三の選択肢も……


「アラン? 聞こえてるか?」セシルの声で我に返った。


「あ、はい! 聞いています!」赤くなりながら答える。


二人に手を繋がれ挟まれるように廊下を歩きながら、アランは思った。どんなファンタジー小説よりも濃厚な展開が待っているに違いない。そして何より——この二人の関係がこれからどう発展していくのか、見守る立場になるのが楽しみだった。


「ねえ、お二人って……」


「ん? なんだ?」セシルが首を傾げる。


「いえ、なんでもありません」アランは微笑んだ。「ただ、とても素敵なコンビだと思っただけです」


一瞬、ふたりの足が止まったように見えた。


「変なことを言うなよ」セシルが照れたように笑う。「ただの同僚だ」


「そうですね」ルカも淡々と答えたが、その指先が微かに震えていたことにアランは気づいた。


これからの冒険だけでなく、目の前の二人の関係もしっかり追いかけていかなければならない。アランは固く決意しながら、煌びやかな王宮の廊下を進んでいった。


広々とした玉座の間で、アランは小さくなって立っていた。荘厳な装飾が施された空間には、国の重鎮たちが居並び、中央の高台には銀色の冠を戴いた壮年の男性—国王ラファエルが座していた。


「アラン・ヒダリヤマ……それが君の名か」


国王の低い声が響き渡る。圧倒されるような威厳に、アランは喉が乾いた。


「は、はい……」震える声で答える。


「ルカ、報告を」


ルカが前に出て一礼した。「はい。彼の肉体的年齢は十代初頭ですが、知性は成人以上と見受けられます。また、異世界における知識や思考形態が非常に特徴的で——」


「簡潔に」


「アラン様には独自の価値観があり、その特異性こそが彼の持つ力の本質であると考えております」


アランはポカンとしていた。価値観? 特異性? 自分がオタクだから?


「なるほど」国王は意味ありげに頷いた。「それで君に問おう、アラン。君は何を見る?」


「え?」思わず声が出た。


「この世の真実を。人の本質を。君の目に映るのは何か」


これは哲学的な質問か? アランは必死に考えを巡らせた。周りの貴族たちが注目しているのがわかる。失敗すれば失望されるかもしれない。


「私は……」深呼吸をして続けた。「私は人と人との関係性を見ます。互いを想う気持ちや、相手を大切にする心。ときには言葉にできない想いも……」


言い終わる前に、周囲がざわめいた。


「なんと抽象的な……」


「やはり幼すぎたのではないかな」


陰口が聞こえる中、国王だけは鋭い眼差しでアランを見つめていた。


「続けてくれ」


「はい」アランは勇気を出して続けた。「人は皆、見えないところで誰かと繋がっています。表面上は敵対していても、実は理解し合おうとしている。私にはそんな関係性が見えるんです」


ルカとセシルの方を見ると、二人とも驚いた表情をしていた。だがすぐにルカが一歩前に出た。


「陛下、私の提案があります」彼の声は揺るぎなかった。「彼の直感は鋭いものです。彼に側近として仕えさせ、魔物討伐における戦略立案に参加させてみてはどうでしょうか」


「お前、正気か?」別の側近が声を荒げた。「こんな子供に任せるなど……」


「試してみる価値はある」国王が手を挙げて制した。「アラン、君は明日から我々と一緒に行動することになる。今夜は休むといい」


こうしてアランの冒険が始まった。聖騎士ルカとセシルと共に魔物討伐に赴き、その過程で次第に彼の中に眠っていた真の力が目覚めていく……


しかし一番の楽しみは、日々目に見えるルカとセシルの微妙な距離感を観察することだった。時には火花を散らし、時にはお互いを庇い合う二人。アランは密かにメモ帳を取り出し、「今日の二人のやりとり」を記録し始めた。


「やっぱり推せる……最高だ……」

そしてその夜、アランの「推し活日記」の最初のページが、幸せな気持ちと共に綴られていった。


翌朝、アランは訓練用の小さな鎧を身につけ、ルカとセシルと共に城門を出た。彼らが向かうのは、最近になって頻繁に目撃されている「魔狼」の巣窟だ。


「本当に連れて行ってくださるんですね」馬に乗せられたアランは少し恐縮していた。


「当然だ」ルカが静かに答えた。「陛下のご命令もあるが、私自身も君の意見が役立つか確かめたい」


「それにさ」セシルが笑いながら言った。「昨日のお前の発言、なかなか面白かったぜ。人の関係性ってのを見てるなんて」


一行は森の奥深くへと分け入っていった。木々の間から差し込む光が徐々に少なくなり、空気が冷たく重くなっていく。


「あそこだ」ルカが静かに指差した。


岩場に囲まれた広場には、巨大な蜘蛛のような生き物が数匹徘徊していた。その体からは黒い靄が立ち昇っている。


「魔狼か……」セシルが剣を抜く。「数が多くて厄介だが、弱点は魔石だ

。それを破壊すれば—」


「ちょっと待ってください!」アランが遮った。「なんか……おかしくありませんか?」


「何がだ?」ルカが怪訝そうに振り返る。


「魔狼同士の距離が遠すぎる。まるで……お互いを避けているみたい」アランはじっと観察して続けた。「あれは仲間同士というより、同じ目的を持った別個体のような……」


「つまり?」セシルが眉をひそめる。


「操られてるんじゃないでしょうか」アランの声が小さくなった。「誰かが遠隔で指示してる。だから統率が取れていないのに目的に向かって動いている」


ルカとセシルは顔を見合わせた。


「その可能性はあるな」ルカが頷いた。「だが、それをどうやって確認する?」


アランはしばし考え込んだあと、馬から降りた。「試してみてもいいですか?」


「何をする気だ?」セシルが警戒する。


「私の世界の知識を使って」


アランは背負っていた鞄から紙束を取り出した。それは昨晩作った手製の小冊子—同人誌だった。表紙には「ルカ×セシル編」と書かれている。


「アラン……これは何だ?」ルカの声が硬い。


「説明は後です!」アランは本を高く掲げた。「魔法陣は簡単なものしか使えないけど……これが私の"推しパワー"です!」


彼が小さく呪文を唱えると、同人誌を中心に淡い光が広がり始めた。ページが風もないのにめくり上がり、中のイラストが浮かび上がる。


「ほら見てください!」アランが叫ぶ。「あの魔狼たち、明らかに戸惑ってます!」


三人がよく見ると、魔狼たちは互いに唸り合い、方向性を失っていた。明らかに混乱している様子だ。


「一体何が起きてる?」セシルが困惑した表情で尋ねる。


「おそらく」ルカが冷静に分析した。「君の創作物を通じて、何らかの影響を与えている。魔法陣の一種か?」


「詳しくは……後でお話します」アランは鼻息をあげながら。「今重要なのは、彼らの間に"葛藤"が生まれたことです。今は隙だらけ」


セシルがにやりと笑った。「チャンス到来だな」


三人は連携して魔狼たちを次々と倒していった。最後の一匹を倒した時、その体内から小さな結晶が飛び出し、粉々に砕けた。


「終わったな」セシルが汗を拭う。「でもアラン、あの本は何だったんだ?」


アランは少し照れくさそうに同人誌を抱え込んだ。「実は……私の趣味で作ってるんです。好き同士の物語を集めたもので……」


「好き同士……?」ルカが首を傾げる。「それは我々のことか?」


アランは慌てて首を振った。「いえいえ!架空のキャラクターです!二次創作というジャンルで……」


「なるほど」セシルが興味深そうに身を乗り出した。「つまり、想像上の人物を作り、その関係性を描いているわけか」


「そうです!」アランは目を輝かせた。「登場人物たちの絆や葛藤を通して、読者に感動を与えるんです」


ルカが真剣な表情で考え込んでいた。「君の創作活動が魔物に影響を与えるなら……」


「可能性としては」セシルが続けた。「魔物の多くは邪悪な感情から生まれるものだ。ならば純粋な友情や愛情の物語が浄化効果を持つかもしれない」


「それはすごい発見だ!」アランは興奮して飛び上がった。「つまり私の同人誌は……」


「新たな武器となり得る」ルカが頷いた。「だが、慎重に扱うべきだ。誤解されれば迫害の対象にもなりかねない」


「大丈夫ですよ!」アランは自信満々に胸を張った。「だって私の本は人々の心を温めるものだから」


夜になり、三人は王都に戻った。アランは自分の宿舎で早速新しい同人誌の構想を練り始めた。魔王軍の侵攻を止めるための計画も同時進行で考えている。


数日後、アランの最初の試みが始まった。小さな市場での同人誌即売会だ。はじめは不信感を持たれる人も多かったが、読み終えた人々の顔が次第に和らいでいくのをアランは見逃さなかった。


「素敵なお話でした」老婦人が涙ぐみながら言った。「久しく忘れていた友への想いを思い出しました」


「すごく面白かったです!」若い男の子が目を輝かせて言った。「こんな友情があるなんて!」


噂は瞬く間に広がり、次の週には行列ができていた。アランは売り子として忙しく動き回りながら、ルカとセシルが店の片隅で警備をしているのを見つけた。


「暇そうだな」セシルが欠伸を噛み殺している。

「油断するな」ルカが真面目に答える。





アランの同人誌は瞬く間に王都で流行し始めていた。初めは「男同士の恋愛なんて……」と眉をひそめていた人々も、一度読んでみるとその魅力に取り憑かれていく。


「ルカ様とセシル様の絆が美しすぎて泣けてきました」「次の新刊はいつですか!」「あの続きが気になる!」


市場では長蛇の列ができ、アランは忙しさに目を回していた。


「こんなに売れるとは思わなかった……」汗を拭いながら呟く。


「当然だ」隣で警護するルカが静かに言った。「君の作品には不思議な力がある。読んだ者の心に安らぎと希望を与える」


「単なる趣味なのに……」アランは照れ笑いを浮かべた。


「いや、立派な才能だよ」セシルが袋いっぱいの同人誌を受け取りながら言った。「毎日書くの大変じゃないか?」


「全然!むしろ楽しいです!」アランは目を輝かせた。「みんなが喜んでくれるのが嬉しいし、それに……」


「それに?」


「これで魔物が減るなら本望です!」


実際、同人誌を配布し始めてから、街の周辺での魔物出現率が明らかに低下していた。魔王軍の偵察隊からも「なぜかこちらの支配領域が縮小している」という報告があがっていた。


---



しかし平穏は長く続かなかった。ある夜、アランの工房に忍び寄る影があった。


「なるほど……これが例の魔除けの本か」


漆黒のローブをまとった男が棚に置かれた同人誌を手に取る。その目は紫色に光っていた。


「愚かな……男同士の痴情のもつれが魔物退治になるとでも思っているのか」


男は本を読み始め、しばらくして激昂した。


「なんという汚らわしい!このような醜悪な妄想が我ら魔王軍の妨げとなるとは!」


男は炎の魔法を放ち、同人誌を焼き払おうとした瞬間—


「待て!」


扉が勢いよく開き、ルカとセシルが駆け込んできた。


「貴様……ダークロードだな!」セシルが剣を抜く。


ダークロードと呼ばれた男は冷笑した。「我が名を知っているとは。だがもう遅い。この汚らわしい本のせいで、多くの同志が消滅している」


「同志?」ルカが眉をひそめる。


「我々は人の負の感情から生まれた存在。嫉妬、憎悪、劣等感……そうしたものがあればあるほど強くなる。だが君たちの……」ダークロードは焼け焦げた本の端を見た。「この奇妙な感情表現は我々の源を浄化してしまうのだ」


「なるほど」セシルが理解した。「だから焦って潰しに来たわけか」


「その通り。だが今日は挨拶程度だ」ダークロードは指を鳴らすと、部屋中に黒い霧が広がった。「次は本格的な掃討を行う。準備しておくがいい」


闇の中に消えるダークロード。残された三人は呆然と立ち尽くしていた。


「アイツ、俺たちの本を……」アランは怒りに震えていた。「聖域を汚すなんて!」


「聖域?」ルカが首を傾げる。


「あっ、それは……オタクのことなんですけど……まあいいや!」アランは拳を握りしめた。「本を燃やすなんて許せない!もっと沢山書いてやる!」


「待てアラン」セシルが肩に手を置いた。「アイツの言ってることが本当なら、これは重要な戦略かもしれない」


「どういうこと?」


「君の作品は効果があるんだ。ダークロードが恐れているくらいに」ルカが静かに言った。「だったら、もっと多くの人に読んでもらえば……」


「そうだ!大規模なイベントを開催しよう!」アランの目が輝いた。「大きなホールを借りて、一日中ブースを設けて、同人誌を配るんだ!」


「それは良い考えだ」ルカが同意する。「ただし防衛策は万全にしておくべきだが」


「もちろん!アイツが来たら追い返してやる!」


こうして三人は協力して、王都最大のホールでの大型イベント計画を立て始めた。アランは大量の新作原稿に取りかかり、ルカとセシルは会場警備と宣伝活動に奔走した。


---



当日、ホールは想定を遥かに超える人々で埋め尽くされていた。子供から老人まで、あらゆる世代がアランの同人誌を求め集まっていた。


「みなさん、ようこそ!」アランは臨時の舞台に立ち、マイクを握った。「今日は特別な日です。僕の創作活動が皆さんの心を癒し、そして……」


突然、建物全体が大きく揺れた。外から悲鳴が聞こえる。


「来たか!」セシルが窓を開けると、空には黒い雲が渦巻き、魔物の大群が押し寄せていた。


「アラン、大丈夫か?」ルカが傍に立つ。


「うん……でもこの状況……」アランは唇を噛んだ。「せっかくみんなが楽しんでくれてるのに……」


「気にするな」セシルが笑った。「むしろ好都合だ。奴らに見せつけてやろうぜ、俺たちの……」


「力の証明を」ルカが引き継いだ。


三人は同時に頷き、アランは全ての同人誌に魔法陣を描き始めた。光が広がり、会場全体が温かい金色の輝きに包まれる。


「みんな、手を上げて!」アランが叫ぶ。「好きな人と、大切な人と、一緒に!」


聴衆が戸惑いながらも手を繋ぎ始める。親子、恋人、友人、それぞれが触れ合い、つながり合う瞬間。


その時、アランの同人誌から無数の光の粒子が飛び出し、空中で渦を巻いた。やがてそれは巨大な絵画のように具現化し、ルカとセシルを中心とした美しい場面が描かれていた。


「なっ……これは……」ダークロードが慌てふためく。「我が軍が……消えていく……」


光の粒子が魔物に触れるたびに、その姿が溶け、塵となって消えていった。会場に満ちる人々の感情—喜び、共感、愛情—が光となり、魔王軍の存在を根本から否定していく。


「素晴らしい……」ルカが静かに呟く。


「あぁ」セシルが同意する。「これが……愛の力なのか」


アランは涙を流しながら二人を見つめていた。「僕の創作が、皆の絆が、こんな奇跡を起こすなんて……」


やがて全ての魔物が消え去り、空から晴れ間が覗いた。ダークロードの姿もなく、ただ平穏だけが残された。


---


イベントはそのまま盛大な祝祭へと変わり、人々は踊り歌い、喜び合った。その中心にはアラン、ルカ、セシルの三人がいた。


「これからも書き続けるよ」アランが誓う。「もっとたくさんの絆を紡いでいきたい」


「もちろんだ」セシルが肩を叩く。「その時は俺たちのことも書いてくれよな」


「セシル……!」ルカの顔が赤くなる。


アランはニヤリと笑った。「もちろん!ルカ様×セシル様特集号は既に企画中です!」


三人の笑い声がホールに響き渡る。それからというもの、王国中には絆の絵本が溢れ、人々の心を明るく照らし続けた。そして時折、どこからか現れる謎の少年作家の話が語り継がれていくのであった。


「さて、次はどんな話を書こうかな」

アランの筆は止まらない。愛と友情を紡ぐ物語は、今日も新しいページを刻んでいく


イベント会場での勝利から三ヶ月が経過した。王都は空前の創作ブームに沸き立ち、至る所で自費出版の印刷所が稼働していた。特にアランの「絆シリーズ」は伝説となり、王室図書館に永久保存されることになった。


しかし喜びも束の間、新たな脅威が迫っていた。


「アラン様!西の森がまた魔物に占拠されました」

朝早くからの使者に起こされたアランは眠い目を擦りながらベッドから飛び起きた。


「またかい!今月何度目だよ……」

窓の外を見ると、紫がかった雲が西の空を覆っている。


「ダークロードが本格的に攻勢に出ています」ルカが冷静に報告する。「以前より魔物の統制が取れているようです」


「アイツ、俺たちの作品をコピーしてるんじゃないか?」セシルが冗談ぽく言ったが、その目は真剣だった。


アランは机の上の未完成のネームを見つめた。新作「絆:永遠の契り」は二人の聖騎士と一人の召喚者の絆を描く作品。まさに現在の自分たちの姿を反映したものだった。


「決めた」アランが立ち上がる。「今度はこちらから攻め込むんだ」


「どういう意味だ?」ルカが眉をひそめる。


「直接ダークロードを狙うってことさ!」アランは筆ペンを掲げた。「奴を漫画にしてやる!」


三人は準備を整え、馬を飛ばして西の森へ向かった。道中、アランは馬上で新しいアイデアをメモ帳に書き殴る。


「しかし危険すぎる」ルカが心配そうに言った。「魔王城は禁忌の領域だ。生きて帰れないかもしれない」


「心配するなって」セシルが笑った。「俺たちがいれば大丈夫だろ?な、アラン」


「うん!」アランは頷きながらも不安を隠せなかった。ダークロードの力は未知数だ。創作という力がどこまで通用するかも分からない。


---


森の最深部に辿り着いた時、空気が一変した。重苦しい瘴気が漂い、木々は歪な形にねじ曲がっている。


「ここだな」セシルが剣を構える。


前方の巨大な洞窟の入り口には、漆黒の鎧を纏った兵士たちが並んでいた。彼らは無言で道を開けた。


「罠かもしれない」ルカが警告する。


「行こう」アランは決意を固めていた。「今のうちにダークロードの顔を見てやる!」


---


洞窟内部は意外にも整然としていた。壁面には無数の絵画が飾られている—それはどれも男女の親密な姿を描いたものだった。しかし、よく見るとどこか歪んでいる。


「これは……」アランが一枚に近づく。「僕の作品を模写したもの?でも……違う」


「何が違う?」セシルが首を傾げる。


「愛情表現が一方的すぎる。こんなのは認めない!」アランが拳を握りしめる。


突然、天井から声が響いた。「そうか。原作者は気に入らないと」


紫色の光が床に渦巻き、中央にダークロードが現れた。彼は以前とは異なり、豪奢な衣装を纏い、両手にはアランの同人誌を持っていた。


「私の研究結果は完璧だと思ったが……」ダークロードが本を閉じる。「オリジナルには及ばぬか」


「当然だ!」アランが怒りを露わにする。「創造の魂が込められていない!」


「ほう?」ダークロードが薄笑いを浮かべる。「ならば教えてもらおうか。貴様の本に潜む力の源泉を」


沈黙が流れる。アランはルカとセシルを交互に見つめ、ゆっくりと言葉を選んだ。


「愛です。純粋な愛の力が—」


「嘘をつけ!」ダークロードが突然激昂した。「愛など幻想に過ぎぬ!私が証明してやる!」


彼は右手を突き出し、眩い光がルカを貫いた。騎士の身体が宙に浮き上がり、ダークロードの前に引き寄せられる。


「ルカ!」セシルが叫ぶ。


「貴様には分からぬだろう?」ダークロードがルカの顎を掴む。「この聖騎士の内に秘めた欲望を!」


ルカの瞳が虚ろになり、不自然な笑みを浮かべた。「セシル……」彼の声は甘く歪んでいた。「ずっと……我慢してきたんだ」


「何をするつもりだ!」アランが震えながら叫ぶ。


ダークロードがアランを嘲笑う。「見ていろ。貴様の理想とする"愛"が如何に脆いものか」


---


セシルは怒りに震えながら剣を握りしめた。「やめろ!ルカに何をした!」


「何もしていない。ただ真実を見せただけさ」ダークロードは優雅に指を弾いた。「ルカの本音を」


「本音?」アランは混乱していた。「どういう意味?」


ルカの表情が次第に崩れていき、涙が零れ落ちる。「セシル……君を……傷つけたくないのに……」彼の声は震えていた。「でも止められない……この衝動が……」


「何が起きている?」セシルが困惑する。


ダークロードは満足げに頷いた。「この聖騎士は常に抑圧していたのだ。主君への忠誠、使命への責任……そして貴様への想いをな!」


ルカの頬が赤く染まり、潤んだ瞳でセシルを見つめる。「怖がらないでくれ……」彼の手がセシルの方へ伸びる。「ただ……触れてほしい」


「おいおい……」セシルが一歩下がる。「急にどうした?お前らしくもない」


「だから言っただろう?」ダークロードが勝ち誇ったように告げる。「愛など幻想!所詮は本能的な欲求に過ぎぬ!」


アランはその様子を見ながら筆ペンを握り締めた。ルカの苦悩とセシルの戸惑い。そこに流れる複雑な感情の糸を目の当たりにし、彼の中で閃きが走った。


「違う……これは……"萌え"だ!」


「何だと?」ダークロードが眉をひそめる。


アランは素早くスケッチブックを開き、高速で絵を描き始めた。ペン先から放たれる光が舞い、ルカとセシルの周りに描かれたイメージが具現化していく。


「何を描いている?」ダークロードが苛立つ。


「リアルと理想的の中間点です!」アランの目は輝いていた。「あなたの方法論は間違いだ。ルカ様の苦悩こそが魅力的なんです!」


ページが完成すると同時に、光の渦が広がり、二人を取り囲んだ。セシルは呆然と立ち尽くし、ルカは恥ずかしさで顔を背ける。


「くそっ!何をするつもりだ!」ダークロードが杖を構える。


「教えてあげますよ!」アランが叫んだ。「これが"BL"の本質なんです!」


---


アランのスケッチブックから飛び出したのは、ダークロードさえ予期しなかった光景だった。それはルカの内面を映し出す場面—自己嫌悪と憧れの狭間で苦しむ青年の姿。


「これは……」ダークロードが言葉を失う。


ルカの瞳に理性が戻り始める。「私は……何を……」


「魅了されてたんだ」セシルがそっと彼の肩に手を置く。「でも大丈夫だ」


アランは次々とページを繰り、新たな情景を描き加えていく。ダークロードの表情が徐々に変わってきた—混乱から興味へ。


「貴様は……私の術を超えたと言うのか?」ダークロードの声には戸惑いが混じっていた。


「超えるも何も」アランがスケッチブックを閉じる。「あなたは創作の本質を理解していません。人間の複雑な感情こそが物語を作るのです」


ダークロードは突然哄笑した。「面白い!では貴様に一つ提案だ」


「提案?」


「私を主題にした作品を作ってみせろ。もしそれが私の期待を超えるなら……負けを認めてやろう」


ルカとセシルは驚愕した。「正気か?」ルカが疑う視線を送る。


「もちろん」ダークロードが微笑む。「私を主役に据えて描くのだ。それも—」


「受けの立場で、ですね?」アランが即座に理解した。


ダークロードは目を丸くした後、再び笑い始めた。「貴様……見どころがあるぞ」


---


その夜、アランの工房には不思議な光景が広がっていた。テーブルを囲む四人—アラン、ルカ、セシル、そしてダークロード。


「キャラ設定はこうしましょう」アランが紙を広げる。「ダークロードは高慢な性格だけど実は寂しがり屋。孤独を紛らわすために支配を広げていた……」


「おい!」ダークロードが抗議する。「私のイメージを損なうな!」


「でも事実でしょう?」アランが切り返す。「でなければこんな賭けを持ちかけませんよね」


「むぅ……」ダークロードが言葉に詰まる。


セシルが咳払いをして会話に入った。「で、ヒーロー役は俺たちか?」


「まさか」アランが首を振る。「ダークロードには新しい相手が必要です」


「誰だ?」ルカが興味を示す。


「それは……」アランがニヤリと笑う。「魔王本人!」


沈黙が訪れた。ダークロードの顔が蒼白になる。「貴様……何を考えてる?」


「あなたのことをもっと知りたいんです」アランが真摯な眼差しで言う。「そのためには裏側まで掘り下げないと」


「馬鹿な……」ダークロードが呟く。「だが約束は約束だ。期限は一ヶ月。それを過ぎたら—」


「承知しています」アランが確信を持って答えた。


---

一ヶ月間、アランの創作は鬼気迫るものだった。徹夜が続き、時にはルカとセシルが食事を運ぶほどだった。ダークロードは時々工房を訪れ、アランの進捗を監視していた。


「まだだ……まだ足りない……」アランが呟く。


「何が足りないというのだ?」ダークロードが尋ねる。


「感情の深さです」アランが疲れ切った顔を上げる。「あなたは本当の孤独を感じたことがありますか?」


ダークロードの表情が曇る。「愚問だ」


「では分かりません」アランが目を細める。「本当の孤独を知らない者が、他者の孤独を理解できるはずがない」


ダークロードは黙って部屋を出て行った。その後姿に一抹の哀愁が漂っていたことに、アランは気づいた。


---

### 7. 運命の日

満月の夜、城の中央庭園に全員が集まった。大理石の円卓の上に置かれた一冊の本—「暗闇の光」。タイトルの文字は金で縁取られていた。


「これが……答えか?」ダークロードが緊張した面持ちで尋ねる。


「はい」アランが深呼吸をする。「あなたの根源と、それを変えうる可能性を描きました」


ダークロードが震える手で本を開く。ページを繰るにつれ、その表情が変わっていく—驚きから畏敬へ、そして最終的には感動へ。


物語は魔王とダークロードの出会いから始まる。かつて二人は深い絆で結ばれていた。しかし魔王の死によりダークロードは道を誤り、愛を憎しみに転嫁することで心の空白を埋めようとした。しかしアランの作品を通して初めて、彼は本当の孤独と向き合うことができた。


「これが……私か?」ダークロードが最後のページを閉じる。


「あなたの本質です」アランが静かに答える。「そしてこれが、あなたの新しいスタートになる」


ダークロードの体から黒い煙が立ち上り始めた。彼は苦しみながらも、その目に涙が浮かぶ。


「見事だ……アラン……」彼の声は震えていた。「私の負けだ……」


煙は次第に晴れていき、そこに残ったのは若い男だった。漆黒の髪と瞳を持つ彼は、以前の威厳ある姿とは異なり、どこか儚げな雰囲気を漂わせていた。


「名前は……?」ルカが尋ねる。


「クラウス」若者は柔らかな微笑みを浮かべた。「もう二度と、ダークロードとは呼ばれまい」


---


魔王軍は瓦解した。指導者を失った魔物たちは迷い、次第に自然界へと還っていった。王都では歓声が上がり、アランの功績は国中に広まった。


しかしアランは満足していなかった。彼の机の上には新しいネームが並んでいる。


「次は何を書くんだ?」セシルが覗き込む。


「クラウスと魔王の物語の続きを」アランが頷く。「そして—」


「そして?」


「魔王の生まれ変わりを探すんだ」アランの目が輝いた。「彼らの物語は終わってない」


クラウスが静かに工房に入ってきた。「私も手伝おう。今度は本当の愛の物語を」


ルカが窓際に立ち、遠くを見つめる。「世界は変わった……」彼の声は感慨深かった。


「まだ変わり続けます」アランが微笑む。「私たちの物語と共に」

夕陽に照らされる工房で、四人の影が長く伸びていく。創作は終わりなく続く—愛と絆の物語を紡ぎながら。そして彼らの足元には、新たな伝説が刻まれつつあった。



「……鞭?」


クラウスが小さく呟いた瞬間、室内の温度が3℃下がった気がした。アランがペンを落とし、ルカは騎士服の襟元を直し始め、セシルに至っては机に頭を伏せる寸前だった。


「いやいやいや!」アランが慌てて修正を入れる。「そういう意味じゃなくて……創作の参考になればと思って……」


「ほう」クラウスが椅子から立ち上がり、長い髪をかき上げながら微笑む。「つまり君は、私にサディスティックな嗜虐心があると?」


「いや全然!」アランが首を横に振る。「むしろ逆で!」


「逆?」ルカが眉間にしわを寄せる。


「うん……クラウスさんって実は……」アランが言い淀む。「Sっぽい見た目だけど実はMなんじゃ……」


「M!?」セシルが思わず噴き出す。


クラウスの頬が微かに赤く染まった。「なるほど……興味深い分析だ」


---


翌日、王都郊外の古い訓練場に一行が集まった。石畳の中心でクラウスが悠然と立ち、その前にアランが膝をついている。


「さあ……始めようか」クラウスが低い声で囁く。「私の新たな一面を探求する旅を」


「あの……本当にやるの?」アランが恐る恐る尋ねる。


「もちろんだ」クラウスが紫色の鞭をくるりと回す。「君の作品のために犠牲になってもいい」


「犠牲って言い方やめて!」セシルが額を押さえる。「なんだこの展開」


ルカは黙って壁際で見守っていたが、その眼差しには明らかな好奇心が滲んでいた。


「じゃあ……行くよ」アランが震える手で小さな棒を取り出す。「痛くしないから……多分」


バチン!


乾いた音が訓練場に響き渡る。クラウスが腰を屈め、「ぐっ」と呻いた。


「ああっ!ごめんなさい!」アランが慌てて駆け寄る。


「問題ない……」クラウスが息を吐く。「むしろ……いい感じだ」


「いい感じ!?」セシルが再び吹き出す。


さらに数回の接触の後、クラウスの頬に朱が差し始める。「これだ……この痛みの中にこそ真実が……」


「真実!?」ルカが思わず声を漏らす。「いやちょっと待て、これ創作の参考になるのか?」


「なると思うよ!」アランが目を輝かせる。「新しいジャンルが開拓できそう!」


---


訓練場の隅では、セシルが呆れた表情で見学を続けていた。「おいおい……あの王子様みたいな魔王様がまさか……」


「意外だったな」ルカが頷く。「だが面白い展開だ」


「面白いってレベルか?」セシルが顔をしかめる。「あの子供に鞭打たれて恍惚としてる魔王様って……なんかヤバくね?」


「いや」ルカが真剣な顔で言う。「これは愛の一種かもしれん」


「マジで!?」


「痛みを通じて信頼関係を築く……そんなテーマもあり得る」


「お前の思考回路が一番ヤバいわ」


---


一方、メインステージではアランとクラウスの交流が続いていた。小さな体から繰り出される鞭が、クラウスの優雅な身のこなしに見事に対応されている。


「君の腕前は見事だ」クラウスが称賛する。「痛みと快楽の境界線を見極める技量……素晴らしい」


「ありがとう……ございます」アランが汗を拭う。「でも何か恥ずかしい気持ちもあるんだけど……」


「恥じることはない」クラウスが微笑む。「これは芸術の一形態なのだから」


「芸術……なのか?」アランが首を傾げる。


---


夕暮れ時、訓練を終えた一行が帰路についていた。クラウスは上機嫌で、アランの肩に手を置いている。


「素晴らしい体験だった」クラウスが言う。「明日は別のバリエーションを試したい」


「バリエーション!?」セシルが目を剥く。


「例えば」クラウスが真面目な顔で説明する。「拘束具を使った試みとか」


「拘束具!?」ルカが思わず立ち止まる。


「そう」クラウスが頷く。「限られた自由の中でこそ湧き上がる情熱がある」


「哲学みたいに言わないで!」セシルが叫ぶ。


アランは疲れた顔ながらも、手帳に熱心にメモを取っていた。「新しいインスピレーションが……」


「おいアラン」ルカが声をかける。「このまま進めば本当に新しいジャンルを作ってしまうぞ」


「わかってる」アランが笑う。「でも創作の神様が降りてきたんだ」


「降りすぎだろ」セシルが突っ込む。「あの神様相当クレイジーだぞ」


---


夜、工房に戻ったアランは早速新しいネームを描き始めていた。その隣でクラウスが紅茶を淹れている。


「素晴らしい」クラウスが絵を覗き込みながら言う。「君の才能は底知れない」


「ありがとうございます」アランが照れながらも真剣な顔で続ける。「でもクラウスさん……一つ質問してもいいですか?」


「なんだね?」


「どうして突然……その……M属性を開花させたんですか?」


クラウスの手が止まる。しばし沈黙の後、彼は静かに語り始めた。


「長年、私は恐怖を与え支配することに価値を見出してきた。だが今は違う」彼の目が遠くを見る。「痛みの中にこそ、本当の繋がりが生まれるのではないかと考えるようになったのだ」


「繋がり……」


「そう」クラウスが微笑む。「君との出会いが、私に新しい視点を与えてくれた」


アランは何かを考えるように黙り込んだ後、「わかりました」と頷いた。「そういう背景を踏まえて描けば、きっと深い物語になりますね」


「期待している」クラウスが満足げに頷く。


---


翌朝、王城では大騒動が起きていた。昨夜遅くまで書き続けたアランの新作小説が、一部の王族に誤って流出していたのだ。


「これは一体どういうことだ!?」国王が赤面しながら原稿を投げる。「少年が大人に鞭を打つ……しかも受けてるのが魔王だぞ!」


「陛下」宰相が必死に弁護する。「これは一種の心理療法とも言える内容で……」


「心理療法!?」王妃が顔を覆う。「私の耳に届かないところでこんなものが書かれているなんて……」


アランは凍りついた表情で玉座の間の隅に立っていた。隣ではクラウスが「なるほど、こうなるわけか」と興味深そうに周囲を観察している。


「クラウスさん……」アランが小声で訴える。「これってまずいですよね?」


「さあ?」クラウスが肩をすくめる。「人々の反応を観察するのも創作の糧となるだろう」


「もう!」アランが頭を抱える。


その時、セシルとルカが急いで玉座の間に駆け込んできた。


「陛下!」セシルが跪く。「この件について申し上げます!」


「言わずともよい!」国王が手を上げる。「このような破廉恥な書物が市中に広まったらと思うと国民が墜ちる!」


「しかし陛下」ルカが落ち着いた声で話し始める。「アラン殿の創作には深い意味があります」


「深い意味だと?」


「はい」ルカが真っ直ぐに国王を見つめる。「この物語は権力と弱者の関係性を問い直す試みです。表層的な快楽追求ではなく、互いを理解しようとする姿勢に焦点が当てられています」


「む……」国王が一瞬言葉に詰まる。


「それに」セシルが付け加える。「クラウス様ご自身の精神的成長の記録でもあります」


「そうそう」クラウスが突然割って入る。「私も人間として更なる高みを目指している途中なのです」


「黙れ!」国王が怒鳴る。「貴様が一番の原因ではないか!」


---


騒動の末、アランの新作は「成人限定」として限定公開されることになった。一部の好事家からは高い評価を受けたものの、大多数からは「風紀紊乱」と非難される結果となった。


「やっぱり失敗でしたかね……」アランが工房で肩を落とす。


「いや」クラウスがコーヒーを差し出す。「第一歩としては十分だ」


「第一歩?」


「そうだ」クラウスが頷く。「人は衝撃的な真実を前にすると拒絶する。だが時間が経てば、必ず誰かが理解してくれる」


「でも……」


「焦る必要はない」クラウスが優しく言う。「私たちの物語はまだ始まったばかりなのだから」


アランは顔を上げた。窓の外ではセシルとルカが鍛錬をしている。その姿を見て、彼は不思議と勇気づけられた。


「そうですね……まだまだ描き足りないことばかりです」


「では」クラウスが微笑む。「次の章はどうする?」


アランはペンを手に取り、新たなネームを描き始めた。「もちろん……セシルとルカの番ですよ」


「ほう?」クラウスの目が輝く。「彼らにこの趣向を試させるつもりか?」


「違いますよ!」アランが慌てる。「もっと普通の……いえ、特別な絆の物語を」


「ふふ」クラウスが愉快そうに笑う。「君の『普通』は時に常識外れだな」


外からセシルの大きな笑い声が聞こえてきた。どうやら彼は今日も元気にルカをからかっているらしい。アランは微笑みながらペンを走らせる。彼の創作の冒険は、まだまだ続くのだ。



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