第8章 裏切りの影
深夜の六本木。
雨上がりの街は静かで、ネオンの光が濡れた路面に揺れていた。
神谷蓮はペントハウスの大きな窓の前に立ち、夜景を眺めていた。
酒のグラスを片手に、思考を巡らせる。
だが、胸の奥には微かな不安が芽生えていた――藤堂の動きが読めなくなったのだ。
一方、別のビルの一室。
黒いスーツの男たちがモニターを囲む。
画面に映るのは蓮の帝国全体。
その中心に、右腕の藤堂が映し出される。
「……このままでは、帝国は蓮一人の掌中に収まらない」
藤堂の声は低く、冷たく響く。
「情報も資金も、全て俺が握れば、表も裏も動かせる」
彼は蓮に忠誠を誓っているように見えたが、内心では権力の奪取を企てていた。
タレント情報、VIP接待スケジュール、海外送金ルート――
すべてを把握した今、行動のタイミングを計っていた。
同じころ、沙耶と星野あかりは倉庫街の“特別部門”に潜入していた。
星野あかりは端末を操作し、情報網の中枢にアクセスする。
「沙耶……藤堂が動いている。蓮の裏で、何かを仕掛けている」
沙耶はタブレットの画面を睨む。
「やはり……情報の流れに不自然な変化がある」
二人は静かに顔を見合わせる。
「ここで止めなければ、帝国は完全に彼の手に落ちる」
星野あかりの指が、端末のキーボードに触れる。
倉庫内のモニターには、タレントやVIP客の動き、蓮の計画、資金ルートが次々に映し出される。
藤堂はこの情報を抜き取り、蓮に知られることなく自らのネットワークを構築していた。
沙耶は息を詰め、端末を操作しながら小声で言った。
「星野さん、あなたの力で、藤堂の計画を逆手に取れるかもしれない」
星野あかりは冷静に頷く。
「自由になるためなら、手段は選ばない」
六本木のペントハウス。
蓮は背後に違和感を覚え、振り返る。
モニターには、藤堂が帝国内部の情報を操作している映像が一瞬映った。
「……藤堂か」
目に光が宿る。怒りでも、驚きでもない――計算された冷静な表情だ。
同時に、沙耶と星野あかりの手によって、藤堂の裏の動きがモニターに反映される。
情報の行き先を制御され、藤堂の計画は徐々に露見していく。
「……面白くなってきた」
蓮の声は低く、微かに笑みが漏れた。
帝国内部の権力闘争が、いよいよ顕在化し始めた瞬間だった。
倉庫街、六本木、情報端末の世界――
三つの舞台で、帝国内部の権力は揺らぎ、裏切りの影が濃く落ちる。
沙耶と星野あかりの連携、蓮の冷静さ、そして藤堂の野心。
三者三様の思惑が、交錯し、帝国の運命を決める第一の戦いが始まった。