第11章 暴かれた帝国
翌朝、東京湾沿いの倉庫街。
灰色の空の下、冷たい海風が吹き抜けていた。
前夜の潜入で入手したデータを、沙耶は膝上のノートPCで開く。
そこに映し出されたのは――
政治家の裏献金リスト。
法曹関係者とタレントとの「接待記録」。
さらに、RAYS社長・神谷蓮が関与していたと見られる金融ルートの全貌。
藤堂が画面を覗き込む。
「これが、あの帝国の支柱か……。見事に腐ってるな」
「この情報をどう使うかで、命の値段が決まる」
沙耶の声は震えていなかった。ただ静かに、冷たく響いた。
■ 情報と報道の綱引き
藤堂はすぐに動いた。
古くから関係のあった週刊誌の記者に匿名で接触。
だが、数時間後――返ってきたのは一通の短いメッセージだった。
『申し訳ないが、これ以上は扱えない。社の上層が止めている』
情報は完全に封じられていた。
メディアは、RAYSが抱える政治・警察・司法の裏ネットワークによって支配されている。
「これが現実か……真実を握っても、口を塞がれる」
藤堂が苦笑する。
沙耶は無言でUSBをポケットにしまい込む。
「だったら、他のルートを探す」
■ 潜む影
その夜。
沙耶が帰宅途中、背後に気配を感じた。
人混みの中で、黒いコートの男が距離を取ってつけてくる。
街の喧騒の中に溶け込むような追跡。訓練された動き。
エレベーターを降り、自室のドアを閉めた瞬間――
郵便受けに封筒が投げ込まれていた。
中には、一枚の写真。
蓮の横に立つ沙耶の姿。
その裏には赤いマーカーで「次はお前だ」と書かれていた。
沙耶はしばらく無言で写真を見つめた。
表情は変わらない。ただ、背中に汗が伝う。
■ 裏組織の反撃
翌日、藤堂のオフィスが荒らされていた。
パソコンは破壊され、金庫はこじ開けられ、
机の上には「話をやめろ」と書かれた紙切れが置かれていた。
藤堂は警察に通報することを一瞬考えたが、すぐにやめた。
彼らもRAYSと繋がっている。
形式上の捜査をしても、すべて闇に葬られる。
「奴らは、どこまで人を消せるんだ?」
藤堂の問いに、沙耶は静かに答えた。
「権力のあるところまで。けれど、それを恐れたら負けよ」
■ 裏社会の連鎖
その夜、沙耶はネット上の裏フォーラムにアクセスした。
ハンドルネーム「SAYA-13」。
彼女は、RAYSの内部データの一部を匿名で投稿した。
政治家とタレントの接待記録、資金洗浄のルート、そして名前の一部を伏せた顧客リスト。
投稿は瞬く間に拡散した。
だが、それは同時に、彼女自身の居場所を晒すことにもなる。
数時間後、RAYSの広報が公式声明を出した。
「当社および関連事業における不正行為の事実は一切ございません」
「虚偽の情報拡散に対しては法的措置を検討いたします」
そして、裏社会では新たな命令が下された。
「SAYA-13――排除対象。」
■ 最後の会話
夜明け前、藤堂が沙耶に電話をかけた。
「……奴ら、動いた。お前の居場所も割れてる」
「分かってる。でも、もう止められない」
「逃げろ。俺が時間を稼ぐ」
通話の向こうで、短い銃声のような音が響いた。
沈黙。
沙耶は受話器を握りしめたまま、
初めて恐怖ではなく、怒りで全身が震えるのを感じた。
「――もう、終わらせる」