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第9章 暗躍の影(藤堂と沙耶の心理戦)



東京・西新宿――夜の街は、雨で濡れたアスファルトにネオンが反射していた。

高層ビル群の谷間、誰もいない路地で二人は向かい合う。


「……やはり、君は動くか」

藤堂は低い声で呟き、雨粒を肩に受け止めた。


沙耶は冷たく視線を返す。

「藤堂、もう隠し事は無駄よ。

 RAYSの“もうひとつの組織”の情報、あなたは知っているでしょう?」


藤堂は少し顔を曇らせ、拳を握りしめた。

「……知っている。だが、どう動くかは別だ」


二人の間には、ただならぬ緊張が漂う。

ここ数週間、RAYSの内部抗争は表面化していないが、裏で火種は膨らんでいた。

整形事故やタレントの失踪、金の流れの不自然さ――

沙耶は一つひとつの情報を組み合わせ、真相に迫っていた。


■ 元タレント失踪事件の真相


沙耶の手元には、数年前に姿を消した元タレント・宮崎葵の情報がある。

整形手術の失敗で顔が変形し、RAYSの顧客に見せられなくなった彼女は、

海外の売春宿に“移送”されていた。


沙耶は書類の束をめくり、ひとり呟く。

「……あのまま放置すれば、死ぬしかなかった」


藤堂が視線を送る。

「君が動けば、RAYSの暗部が露わになる。

 だが、それは同時に危険も増える」


沙耶は目を細めた。

「危険? そうね。でも黙って見過ごすよりはまし」


情報によれば、葵は送られた海外先で耐えられず、抵抗した結果、

最終的には殺害されていたという。

残酷な現実。しかし、沙耶にとってこれは、RAYSを内部から掌握する鍵だった。


■ 「もうひとつの組織」の存在


RAYSの内部には、表向きの芸能事務所と完全に切り離された組織が存在した。

顧客情報、政治家・ヤクザ・海外の要人のスキャンダル、隠しカメラ映像――

それを独占する「データ統括部」が、事務所内のさらに地下に潜んでいる。


藤堂が言った。

「沙耶、あの組織は表向きの社長の指示に従って動いていない。

 裏で独自に利益を確保している。

 しかも、海外ルートまで握っている」


沙耶は頷く。

「つまり、社長の死後も、RAYSはこのまま闇の力を維持できる……」


「そうだ。だから君が踏み込むなら、

 準備を整えてからでなければ、生きて戻れない」


雨が強くなり、二人の息が白く漂う。

街のネオンの下、現実世界のリスクが肌に突き刺さるようだった。


■ 蓮と藤堂の心理戦


沙耶は問いかける。

「あなたは私を止めるつもり?」


藤堂は少し間を置き、答えた。

「止めたい気持ちはある。だが、君自身の意志を尊重する」


沙耶は苦笑した。

「結局、あなたもRAYSの力の中で育った人間。

 私を止められるわけがない」


藤堂は目を細め、声を落とす。

「いや……止められる。

 だがそれは、君を傷つけることになる」


二人の心理戦は、互いの信頼と疑念を露わにする。

裏社会で培った駆け引きと、情報の非対称性。

この闇の中で、誰もが生き残るために嘘をつき、情報を握る。



沙耶は藤堂に向かって一歩踏み出した。

「わかった……協力する。

 でも、私のやり方で動かせてもらう」


藤堂は短く息を吐く。

「……わかった。だが、俺は必ず後ろから守る」


二人の間に、一瞬だけ静寂が訪れる。

雨が止み、路地に街灯の光が差し込む。

その光の中で、RAYSの闇と現実が交錯していた。


沙耶は決意を固める。

「葵のことも、もう二度と繰り返させない」


藤堂も同じ決意を胸に、うなずいた。

「そして、裏で動く“もうひとつの組織”も潰す」


雨に濡れたアスファルトの上、

二人の影が長く伸びる――

現実世界の暗闇の中、これから始まる戦いの序章だった。

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