表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幻波界  作者: 石野颯希
4/6

第四話:静謐の灯台

塔へ足を踏み入れた瞬間、強烈な光が視界を染めた。

白く、鋭く、すべてを覆い隠すような閃光。

思わず、目を細める。


築かれてから、半世紀は優に超えているのだろう。

石造りの床と壁には深くひびが入り、苔が静かにその隙間を侵食していた。

ところどころ、草木が石を押しのけるように芽吹いている。


塔の中央──

円形のホールの中心には、異形のオブジェが鎮座していた。

巨大な苔テラリウムを思わせるその塊からは、緑色の稲妻のような光が、

天井付近に浮かぶガラス質の球体へと流れ込んでいる。


球体から立ち昇る一本の光の柱は、天を貫き、天空へと届いていた。

やがて上空で淡く広がり、まるで空気そのものに色と振動を与えるようにして、

あの虹膜のような結界を形作っているようだった。



挿絵(By みてみん)



いったい──

いつ、誰が、何のために。

そして、どんな技術でこれが造られたのか。


そんな疑問がよぎった、その時──


「…ねえ」


背後から声がした。

が、振り返っても人の姿らしきものはない。


「違う違う。上だよ、上」


促されるままに顔を上げると、

吹き抜けのホール2階、その回廊に影が。


少年か、少女か。

判別のつかない存在が、こちらを見下ろしている。


「……誰?」


その存在は笑ったように見えた。


「あんた、何も憶えてないんじゃない?

自分がどこの誰で、なんでこんな世界にいるのか…」



──言われてみれば。


名前、年齢、性別、自らの容姿すら曖昧。

自分自身の輪郭が、霧の奥にぼやけている。



「アンチに追われて、虹膜の外から来たんだよね?

──“外波界”から」



──アンチ? 虹膜……?


「ああ、アンチってのは”アンチフェイザー”、つまり逆位相者のこと。

うちらは略してアンチって呼んでるけど、黒い影って言った方がわかるかな。

色も音も、記憶すら呑み込む”逆位相”を創り出す恐ろしいやつさ」



──黒い影……”アレ”のことか。


「で、ここにくる途中、振り返ると虹色の薄い膜があったでしょ?

それが”虹膜結界”。

この灯台が創り出す結界で、すべての波を無力化する効果がある。

この場所、”真波界”をあいつらから守ってるんだ。

あんたはその結界の外、“外波界”から流れ着いたビジターってこと」



また笑ったように見えた。

一見無邪気だが、どこか底知れぬ不気味さを秘めた、そんな笑みだった。


「ここの住人は、ウチも含め、みんなそう。

過去の記憶にノイズがかかってる。

おそらくアンチに呑まれたんだと思う。」


「でも、存在してるだけマシともいえる。

ビジターの半分くらいは、呑まれて……”思念”ごと、消えるんだ」



カコ──……ン


塔の中に響きわたる音が、一瞬自分の鼓動とシンクロした気がした。


ザザ──…

消えかけの…ノイズ混じりの記憶たちが、

この塔の脈動に呼応して、ざわめき始めた。


深く、静かに──…

心の奥のほうで、何かが再構築されていくような感覚がした…


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ