第三話:真波界
結界を抜けた先──
そこには、昼と夜、光と闇が共に息づくような幻想的な空と、
どこまでも広がる、深く静かな空間が広がっていた。
見渡す限り、人の気配はどこにもなく、静寂と、ほんのり漂う寂しさだけが、
ただただこの世界を満たしている。
気が遠くなるほど広大無辺な草原がどこまでも続き、
ひと筋の獣道が、その草原を切り裂くように真っ直ぐに伸びていた。
その先に──ポツンと、孤独にそびえる塔。
時の流れすら拒むかのように、ただそこに存在し、
その孤高の姿は、この広大な空間の中で異様なまでに目立っている。
──緑の光は、その塔から放たれていた。
光は塔の頂から真上へとまっすぐ柱のように伸び、
やがて空中で拡散し、空気そのものを震わせるように広がり、
まるで、周囲の空間そのものに命を与えているようだった。
こんな光景は、初めて見る……気がする。
カコ──…ン
──また、あの音だ。
さっきよりも、ずっと大きく響いている。
音の出どころは──あの塔の中のようだ。
結界に触れたときにも聴こえた、あの音。
きっと何か意味があるはずだ。
……よし。
まずは、あの塔を目指そう。
他に行けそうな場所も…見当たらないし。
ときおり吹く風が、どこからともなく金木犀の香りを運んでくる。
そのやさしい匂いに包まれながら、ゆっくりと塔へと歩みを進めた。
心の奥が、また──ザザーッと揺らぐ。
塔は、大きな岩を無造作に積み上げた土台の上に建っていた。
階段を、30段ほど登り、やがて塔の入口にたどり着く。
ウォー……ン ウォー……ン
扉はない。
中からは、強い緑の光とともに、人の呻き声とも動物の鳴き声ともとれるような
不気味な機械音が漏れ出ている。
……なんか怖いな…
一瞬躊躇するが、意を決して
恐る恐る──その足を、塔の中へと踏み入れる。
──これは……なんだ……?