希望
「そのことですが、何も心配することはありません。すでにグラディス姫とご相談済みです」
セダムはにっこり笑って言った。
「は? 」
「ドレスについては、こちらからご招待させていただくので、グラディス姫からプレゼントさせていただきます。
マナーや礼儀については、ルミア殿のご都合よい時に、私がお迎えに参りますので、お城にて数日かけて、侍女がご指導させていただきます。
それから、実はグラディス姫は幼い頃に、平民に混じって暮らしていたことがあります。
その時の大切なご友人方を招いての、本当に破格のくだけたお茶会ですので、身分をお気になさることはありません。
そしてもうひとつつけ加えると、私自身、今は爵位をいただいておりますが、もとは平民でございます」
「えっっ!! 」
こんな素敵な方が、もとは平民だったの!?
「ルミア殿」
セダムはルミアの前に片膝をついて跪いて、ルミアの手を取った。
(わわっ…! な、なに…?! )
ルミアはセダムの手の中から、自分の手を引っ込めようとしたが離れなかった。
「お茶会までのあいだ、すべて私がサポートいたしますので、何も心配することはありま せん。不安なことがおありでしたら、何でも仰ってください。
あなたがいらしてくれたら、きっとグラディス姫はお喜びになります」
そうしてセダムは、ルミアの手の甲に、そっとキスをした。
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その日の夜、ルミアは自分の手を何度も見つめた。
(あの方が、私のこの手にキスしてくれたなんて…! )
思い出すたびドキドキして、胸が幸福感でいっぱいになる。
あれほど、荒れていてみっともないと思っていた自分の手を、愛おしく思える気がした。
あのあとセダムは、花屋の女将さんやレナたちに、事情を説明してくれた。
そしてグラディス姫のお茶会のために、ルミアがお城へ通うことも、正式に決まった。
セダムは帰り際、もうひとつグラディス姫から預かったという小さな包みをくれた。
開けてみると、小さな容器に入ったクリームだった。
とても滑らかで、爽やかな香りがした。
手につけるとすーっと肌になじんで、つるつるになる。
ルミアは、セダムがキスしてくれた手を愛おしむように、そのクリームをつけた。
またあの人が、ルミアを迎えに来てくれる時を待ちながら。
終