新しい花
ワラーフ王国の王子と、グラディス姫との結婚は、つつがなく執り行われた。
城下町ではお祝いのお祭りが7日間続き、町の店はどこも、お城からの補助で特売セールが開催された。
町中が飲んだり食べたり踊ったり、浮かれムードのなか、ルミアはひとりで店番をしたり、ひっそりと中庭で過ごしたりしていた。
(グラディス姫、良かったですね。おめでとうございます)
そう思いながらも、あの日会ったあの方のことを思い出しては、涙がこみあげてくるのを耐えていた。
ルミアは自分の両手を見た。
グラディス姫は、ルミアの手を、温かい、と言ってくれた。
姫様と少しでも心を通わせられたことを、嬉しいと感じた。
「何かまた新しい植物を植えようかな」
そんな風に思っていると、ペッキーがルミアの庭のほうで、ふんふんと鼻を鳴らしながらガサガサしている。
「ペッキー、何してるの?」
ペッキーを押さえようと近づくと、ふわっといい香りがした。
「え? この香りは…。まさか…」
見ると、あの花が、小さな小さな花をつけていて、今まさに花を開かせようとしていた。
「まさか、また花をつけるなんて…」
ルミアがそっと花を掬うように手で触れると、その一瞬、花びらが一層開いてほころび、さらに良い香りが花をくすぐった。
ルミアの手が自然と伸び、気づいたら小さな花を摘み取っていた。
そして、手の上の花からじゅうぶんに花の香りを嗅ぐと、ぱくりと口に入れて飲み込んだ。
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「あの、失礼ですが…」
その時、中庭の外から男性の声がして、ルミアは飛び上がるほどに驚いた。
「ああ、失礼。驚かせてしまいましたね」
そこにはグラディス姫と結婚したはずの王子がいた。
「王子様⁉ どうしてここに? 」
するとその男性は驚いたような顔をして答えた。
「私は王子ではありません。王子のお側近くに仕える者です」
「ええっ。王子様じゃなかったんですか? 」
「はい。セダムと申します。ところで、あなたは、ルミア殿でしょうか? 」
「は、はい…」
殿づけで呼ばれたけど、自分のことだよね、とルミアは何度も考えながら答えた。
「そうですか、やっぱり。実は、グラディス姫からあなたへ、これをお渡しするようにと」
セダムはルミアに、王家の紋が入った封筒を差し出した。
ルミアは受け取る時に、差し出した自分の荒れた手が少し恥ずかしかったので、さっと奪い取るように封筒を受け取った。
「えっと…、これは…? 開けてもよろしいでしょうか? 」
「はい、どうぞ。ご確認ください」
セダムは穏やかに微笑んだ。
「これ…、まさか、お城でのお茶会への招待状?? 私に??? 」
「はい。グラディス姫はご結婚してからあとに、ごく親しい方だけを招いた気楽なお茶会を催されます。
そこに、ぜひルミア殿もご招待されたいとのことです」
ルミアは面食らって言葉も出なかった。
平民の自分が、お城のお茶会に出席なんてできるわけない。
「ルミア殿? 」
セダムに声をかけられて、ルミアははっと我にかえった。
「あ、あ、あの…、せっかくですが、お断りいたします。私…平民ですし、お茶会のマナーも礼儀も何もわかりませんし、そもそも着ていくドレスもありません。
姫様のお気持ちは嬉しいですが、行っても恥をかくだけです…」
手だってこんなに荒れているし…、と心の中でつけ加えた。