水辺の採取と初戦闘
ゴ〜ン ゴ〜ンと大きな鐘の音が王都に響き渡る。
これは12時を知らせる鐘だ。
時計が普及していないこの世界は鐘の音で時間を知らせている。
俺もこの後は予定があるので今日の露店はここまで。
「おや?今日はもう店じまいかのう?」
「はい、ちょっと素材採取にいってきます」
手早くリュックに詰め込むフリをしてアイテムボックスに詰め込む。
「そうかいそういえば薬師だったかのう、魔物にきいつけてのう」
薬師ではないが…心配してくれるのは嬉しく思います。
「ありがとうございます。では失礼します」
城門へと向かう
俺の今の課題は商品数を増やすことだ。
針葉樹海を出てから王都への道のりではずっと平原だったので同じ素材ばかり集まった。
なので今回は平原ではない所で採取しようと思う。
城門が見えてくる。
再度、王都に入る時も露天商の許可証があれば簡単に入れるそうだ。そうダグさんが言っていた。
城門を出る。
「出る時は呆気なく出れるな。えっと、確かあっちだっけ?」
王都の人達の話を盗み聞きしてある程度の採取地は絞っている。
城壁に沿い西に歩く。
「本当にデカいな城壁…一体なんの為にこんなにデカいんだ?」
昔にそれほどの驚異があったのか、それともこれから起こるのか…
「まぁ、いいか…」
それくらいの感想しかでてこないな。
歩いて一時間、城壁の西の端まできた。
「おっ、川が見えてきたぞ」
少し先に小川が見えてくる。
そう今日は、川辺の素材を採取しにきたのだ。
早足で小川に近づく。
「綺麗な川だな。まるで濁っていない」
こんなにも綺麗な川は日本では山奥くらいでしか見たことない。
川に沿い上流方向に歩く
「おっと、さっそく発見!」
川の中に生えている青い藻を採取。
「これが[あわあわ藻]か」
あわあわ藻は両手ですり潰すようにこすり合わせると白い泡を出す藻。
「あそこにもある…川に入った方が早いな」
革ブーツをアイテムボックスに放り込み、川の中に入る。
深さは足首くらいで、すこし冷たい。
「なんか童心にかえるな…」
子供の頃によく川で遊んでいた…こんなに綺麗な川ではなくドブ川であったが。
「取れる取れる大量だな」
これくらい取ればもういいか
「んっ?あれは…」
水の中に何かが突き出している。
折りたたみナイフで切り取ってみると
「これは…[水筍]っていうのか、ファンタジーだな」
[アクバンブ]という水筍、文字通り水中に生える筍らしい、柔らかく料理にむいていて、薬にはあまり向いていないようだ。
「そうだ、宿屋のベロアさんへのお土産にしよう」
数本採取することにする。
水筍を採取していると、緑色のたくさんの房をつけた水草があった。
コレも採取してみる。
「み、[水葡萄]…異世界なんでもありだな」
[アクグレプ]という水葡萄。味見してみると少し水っぽい葡萄だ。
「でもこれで薬水や解毒薬の味を増やせそうだ」
水葡萄も大量採取。
川の中を歩きながら上流方向にさらに歩いていく。
「あれは…あった!たぶん目当ての物だ!」
水中に小さく赤い実のようなものが漂っている。
「よしっ[ツヤヤの実]だ」
ツヤヤの実は食用ではない、果汁には不純物を吸着する性質があるという。
「あわあわ藻とツヤヤの実と松脂を薬術で合成すれば[石鹸]ができる」
この身体といい、この服といいどういう仕様なのか汚れることがないのが発覚しているが
身体を洗わないのは精神的に嫌になる。
なので石鹸を作りたかったのだ。
石鹸がつくれたらシャンプーも作ることが可能になる。
「でもこのまま合成しても無香料石鹸ができるだけか…なにかひと工夫ほしいな」
もちろん無香料も作りはするけど。
視線を彷徨わせていると水辺にさく花に目が止まる。
花びらが3枚の小さい白い花ホワイティル、香りに魔物除けの効果あり。
花びらが12枚ある赤い花クリムルル、香りに虫除けの効果あり。
ともに香りに効果があるらしい。
「これだな、混ぜてみよう」
まずは普通に合成し無香料石鹸をつくる。
次にホワイティルとクリムルルを使い合成する。
なんとなく合成比率が頭の中に浮かぶ、薬水の時もそうだった。これもスキルの効果なのだろう。
「上手くいってくれよ」
薬術発動、合成開始。
薬術で混ぜ合わされピンク色に発光しだす。
「成功だ」
俺の手にはピンク色の石鹸が出来上がっていた。
「いい香りだ…想像以上の香りだな」
香りを嗅ぐだけで癒やされる。
そんな香りに癒やされていた時だった。
「! この感じ…なんか嫌だな」
川の近くにある林の方から、何か嫌な気配がこちらに向かってきている。
「明らかに魔物…だろうな」
俺は争い事は嫌いだ。
だからといってコチラを襲おうとする相手に容赦する気はない。
登場まで待つとかそんなベタな事する気もない。
「もう魔法の使い方はわかってる」
向かってくる魔物の方に手を翳す。
魔法を使う事を意識する
使用する魔法を選択し
最後に心でトリガーを引く
「ポイズンウォーターボール!」
魔物に翳した手のひらから直径1mほどの毒水玉が高速で射出される。
それと同時に木陰から何かが飛び出したかと思ったら…毒水玉に呑み込まれた。
毒水玉は木を薙ぎ倒しながら突き進んでいき最後に大きな水音を立てた。
「やったか?」
フラグのような事を言ってしまったが反応はない。
確認の為に林に入る。
「……黒い虎かな?」
黒い虎のような魔物が毒浸しで泡を吹き出し絶命していた。
「これどうしようかな?魔石持ってたらいいんだけど…」
よく読むラノベとかで魔物は魔石をよく落としたりしているが
この世界の魔石事情は違うようだ。
魔石はいわゆる結石らしい、人でいうなら胆石とか尿路結石と同じ。
何らかの要因で石ができそこに魔力が纏わりつき結晶化したのが魔石らしい。
魔石を持っている魔物は10体に1体いればいい方だそうだ。
「魔石欲しいよな…魔石がないと魔導具が作れないんだよな」
魔石は魔導具の心臓といってもいい、魔導具を稼働させるエネルギー源なのだ。
とはいえこの魔物を解体とか勘弁である。
「解体してるラノベ主人公っているけどすごいよな尊敬するよ」
俺はため息と共にとりあえず魔物をアイテムボックスに落としておく。
「帰るか…」
収穫は十分。
あとは宿屋で合成することにして王都へと帰る事にした。