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赤い猪

「んん…」

まったく夢を見ずに目が覚める。

「暗い…朝だよな?」

窓は木で塞がれているのでよくわからない、と思っていたら…

「お姉ちゃん!朝だよ〜起きて〜!ご飯できてゆよ~!」

扉の向こうから明るい少女の声が聞こえてきた。

「あ……ッ!」

ありがとう、と言いかけたがやめる。

今、俺は男性のモミジの姿なのだから

急いで女性のカエデの姿になり返事を返す。

「ありがとうございますベルちゃん、いま下に行きますから」

「あ〜〜い」

ベルちゃんが下に降りて行く

「あ〜…危なかった。下手したらベルちゃんに軽いトラウマ植えつけちゃう所だった」

お姉さんをお越しにきたら扉越しから男の声が聞こえるとかないよな……今後も注意しよう。

衣服を整えて一階に降りる。

「おはよう、カエデさん。よく眠れたかしら?」

「おはようございます、ベロアさん。はい、ぐっすり眠れました」

夢も見ないくらいぐっすりでした。

「それはよかった。すぐ朝食出しますから適当な所に座っててくださいな」

ベロアさんは奥に入って行く、あっちに厨房があるようだ。

すぐ近くの丸テーブルに備えられた椅子に座る。

俺の他には一人の客が隅の方で朝食を食べていた。

「どうぞ!」

ベルちゃんがお茶のような飲み物を丸テーブルの上に置く。

「ありがとうございます。ベルちゃん」

ついつい頭を撫でてしまう

「えへへ…」

ベルちゃんは身体を左右に揺らしながら照れている。

「はい、お待たせしました。朝食のパンサンドと角鼠のスープですよ」

ベロアさんが朝食を持ってきてくれた。

パンサンド…サンドイッチのようだ。パンは硬めだけど間にはさまれた野菜はみずみずしい。

角鼠のスープ…鼠に抵抗はあるけど、食べてみれば鶏肉に近い、スープは薄味だけど朝食ならこれくらいの味付けでいいのかもしれない。

最後にお茶を一口。ほうじ茶に近い味がする…なんかほっとするな。

「美味しかったです。ありがとうございます」

「お口にあってよかったです」

ベロアさんが食器を片付けてくれる。

そうだアレ聞いてみるか…

「あのベロアさん、お部屋の予約ってできますか?今の部屋でいいんですが」

「へ、部屋の予約?そんなこと初めていわれました」

「実は今は手持ちがあまりありませんので、今日、露店で稼いでまたここに泊まりたいので予約したいんです。」

稼げるとは決まってはいないが、稼げなくてもあと一泊できる金はもっている。

最悪の場合はこの銀貨を使えばいいからな。

「ふふふ…かまいませんよ。予約受け付けましたよ」

「ありがとうございます。仕事に行ってきます」

よし!今晩の宿が確保できた。

「いってらっちゃ〜〜い」

ベルちゃんに見送られて外にでる。

「暗かったからよくわからなかったけど、こんな感じの街並みだったのか…」

何と言うかぎゅうぎゅうな街並みだ。

木造の建物達がまるで城に追い立てられて詰まっている感じに見える。

これはこれで雰囲気はあるが…

「隣同士の声が丸聞こえだな」

宿みたいに壁が厚ければいいけれど…普通の民家はどう見ても薄そうだ。

荒れた石畳の細道を進み王都の大通りに出る。

「もう活気があるな」

大通りは荷物を運ぶ人や荷馬車で賑わっていた。

「俺も露天商2日目頑張るか」

気合いを一つ入れて中央広場へと向かう。


          ×


「おはようございます。ダグさん、早いですね」

「おはよう。カエデさん、歳を取ると早く起きてしまっての」

中央広場につくと昨日と同じ場所にはもうダグさんが露店を開いていた。

変わらずの白ひげを撫でながら朗らか笑顔のダグさんである。

「宿の件ありがとうごさいました。いい宿ですね」

「ほっほ、そうじゃろう、だが旦那は見んかったろう、旦那は人見知りじゃからのう」

確かに見なかったな。そうか人見知りなのか…だからベロアさんが店主なのかな?

「だが、できた旦那での裏仕事は全部しておるのだよ」

それは確かにできた旦那だ。

俺は昨日と同じように露店の準備をする。

「お客さん来たらいいですね」

「そうだのう…」


          ×


開店から1時間が過ぎた。

「きませんね…」

「毎度のことだからのう、気にしすぎても仕方ないわい」

毎度か…なら会話して時間潰すか

「あの、冒険者ギルドに採取依頼って誰でも出せましたっけ?」

忘れてしまった感をだして質問する。

「おお、出せるのう、しかし採取物の値段と依頼料で割高になるから気をつけんとの」

なるほど、誰でもだせるのか…金のない今現在では依頼は出せそうにないな。

「話しは変わるんですが、王都でここは見た方がいいとかありますか?」

「う〜む…名所かの、まずはナード城だのう間近で見ると迫力あるぞい」

確かに見てみたい、王都ナダに入って最初に視界に入ったからな。

「王都大図書館なぞもいいぞい、建物は一見の価値ありだのう」

大図書館かダグさんがそこまで言うのならばきっと凄い建物なのだろうな。

「七神大教会なぞも立派な建物だのう」

七神大教会…この世界の神を祀った教会かな。

建物だけでも見てもいいかも

「明日は[土の日]、休む露天商も多いからの明日あたり見に行ってみるといい、ワシも明日は休みじゃわい」

この世界は、地球と同じ一週間が7日だ。

月、火、水、木、金、土、日と曜日も同じ、ただ曜日と呼ばずに[○の日]と呼ぶようだ。

ついでに距離の表し方もcmとかmとか同じである。

なぜ同じなのか…

どうせあの事務処理天界が事務的かつお役所仕事で設定したのだろうなと思ってしまう。

「そうですね。明日はお休みにして観光したいと思います」

明日の予定が観光に決まった。

次は名物でも聞こうかと思った時…


「おっ!いた!行商人のお姉さん!」


少し離れた場所から声が聞こえてきた。

こちらに向かってくる冒険者風の装いの少年少女4人組。

「針葉樹海の時の…」

その4人組は針葉樹海で初商売した少年少女達であった。

「あ、あの!お、俺っ!その!」

薬水を飲んだ剣士少年が顔を赤くして挙動不審だ。

「落ち着きなさいよ馬鹿カント。あの、お姉さんのお陰で無事帰ってこれました。ありがとうございます。私、8級冒険者のクイナといいます。あの馬鹿カントも同じで、4人で[赤い猪]というパーティーを組んでいます。」

強気弓少女クイナさんがお礼を言ってくる。

「実は昨日の夜遅くに帰ってきたんです。僕はキーヤ、同じく8級冒険者です」

槍少年キーヤくんが補足してきた

「あ、ありがとうございました…わ、わたしはフルミナ、8級冒険者です」

杖少女フルミナが小さい声でお礼を言う、少し引っ込み思案なのかな

「みなさんがご無事でなによりです…もしよかったら商品見ていきませんか?」

この機会に売り込みはしておかないとな。

「もちろんス!おっ!あの時の薬水がある!」

「ちょっとどこよ!」

カントくんとクイナさんが騒ぎはじめる。

「あの、薬水が2種類あるんですけどコレは…?」

キーヤくんはそこに気付いたか

「こちらの印のない方はナードベリー味、丸印がついた方はナードレモネ味となります」

味のこと値札に記載してなかったな。後で記載しとかないと…

「ええっ!?味が違うの!」

「な、なら、私はナードベリーがいいわ!」

「わ、わたしはナードレモネ…」

「苦くないだけじゃなく種類まであるなんて……」

4人組が薬水に群がる。

これで宿代は大丈夫そうだな。

それにしても、味があるのが珍しいなんて

俺はスキルにあるレシピどうりに作っただけなのだが…ただ少し工夫はしている。

通常のレシピのナードベリーやナードレモネの量より多くいれたりしてみた。

その結果、効能に変化はなくより果実の味が強くなった。

「あ、あの、こちらの解毒薬も渋くないんですか?」

フルミナさんが解毒薬を手にして聞いてくる。

「ええ、そちらもナードベリーとナードレモネ味がありますよ」

「マジか!?」

今度は解毒薬に向かうカントくんとクイナさん

「あの、これ値札が置いてないのですが何ですか?」

キーヤくんは端の方に置いてある1本の小瓶が気になったようだ。

「ああ、それは薬ではありません。発火鉄から作った発火材です」

王都に行くまでの道のりで一つだけ見つけた発火鉄という黒い石、それとブラックパインの松脂を薬術で混ぜ合わせたのが発火材である。

「発火材?」

「何だはっかざいって?」

「さぁ…?」

発火材を知らないようだ。

百聞は一見にしかず、と言うし実演するか…

俺は後に転がっていた石ころを拾う

「どういう物かお見せしますね」

折りたたみナイフを取り出しナイフの先に黒くドロッとした発火材を少しつける。

「本来はたっぷりと付けますが、ここは街中なのでこれくらいにしておきます」

4人組は大人しく成り行きを見る姿勢になっている。

「いきますよ」

発火材のついたナイフの先で石ころを突くと…


シュバッと小さな激しい白い火花を上げる。


「うおっ!」

「きゃっ!」

「これはっ!」

「ふぁっ!」

四者四様の反応があった。

「こういったように衝撃を与えると発火材の粒子同士がぶつかり合い激しい発火現象を起こすのです」

4人組は黙ったまま固まっている。

「すげぇ!これを剣につけたらまるで魔法剣じゃん!」

カントくん興奮…でも

「直接武器に付けるのはオススメしません。刃こぼれしたり破損する恐れがありますから」

カントくん撃沈。

クイナさんが何かに気がついたようだ。

「なら矢の先に付ければ問題ないのね!?」

「そうですね。遠距離武器、使い捨ての物と相性がいいでしょうね」

クイナさん何か決心。

「買うわ!いくら!?」

「銀貨5枚となります」

銀貨5枚をなんの躊躇いもなく渡してくる。

クイナさんは思い切りがいいな。

「おいおい、いいのか買って…」

「いいのよこれでいざという時のフルミナの負担が減らせるんだから!」

「クイナちゃん…」

今まで火力は魔法使いだよりだったのか、仲間思いだなクイナさん。

「あ…でもコレどこに入れたらいいんだろ?」

発火材の入れ場所に困っているようだ。

「それでしたらお隣の露店、革製品のダグさんにおまかせください。そうですよねダグさん」

「ほほっ、おお…それを入れるのにピッタリなものがあるのう」

いきなり話を振られてびくっとしたダグさん、でも直ぐに露天商の顔になる。

「本当!あ…なるべくお安くしてくれないかしら?」

「ほっほ、わかっておるよ」

ダグさんとクイナさんの交渉が続く

最終的には頑丈な革紐と金具で発火材の瓶を固定して、ベルトに吊るすようにしたらしい

発火材の瓶は頑丈に作ったのでちょっとしたことでは壊れないようにしている。

4人組[赤い猪]の少年少女達が手を振り去っていく

「ほっほ、感謝するぞいカエデさん」

「商売は持ちつ持たれつですからね」

俺とダグさんは握手を交わす。


4人組[赤い猪]のお買い上げ金額は合計銀貨19枚となった。

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