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初売り上げと宿

「……売れませんね」

「売れんのう……」

あれから2時間がたった…売り上げは0である。

ダグさんの露店も同じく0

「まぁ、毎回こんなものだからの」

「ですね…理想と現実は違いますよね」

これだけ人が通っているのに売れない…何が駄目なのだろうか?

売れている露店を観察してみる。

中央広場の噴水近くの露店には人が群がっている。

「噴水近くは景気がいいですね」

「ほっほ、噴水近くは人気露店が集まっているからの」

なるほど人気露店が集まっているから客も集まるわけだ。

何が違うんだろう?

俺の露店と人気露店の違いを探す…そして気付いた。

「あー…そうか値札」

基本的な事を忘れていた。

だから前を通る人達もチラッとは見るけどそれがなにかわからずに通り過ぎるのか

俺の商品は全部陶器製の瓶だから見た目はほぼ同じだからな

次からは薬別に色をつけてみようかな。

「あのダグさん、いらない革の切れ端とかありますか?」

「おお、あるよ。いくらでも使っておくれ」

ダグさんから革の切れ端を貰う、折りたたみナイフを取り出し文字を刻んでいく

今こそ役立てスキル[工作[極]!

手がするする動く、まるで自動工作機械のようだ。

「うん…できました」

値札には商品名と値段を刻んだ。

「ほっほ、カエデさんは器用だのう」

出来上がった値札を見てダグさんが感心している。

ほとんどスキルのおかげですからといいたい…

値札を商品の前に置く

「これでお客が来てくれたらいいんですが…」

「そうだのう」

世の中そんなに甘くはないとは知っているけど、希望を抱くのは自由である。


           ×


「やはり売れませんね」

「やはり売れんのう」

一時間経過したがまだ売り上げは無い

前よりは立ち止まってはくれるようにはなったけど

「主婦(夫)や子供には薬はあまり必要ないですよね」

「革製品も同じくだのう」

日取りが悪いのか時間帯が悪いのか場所が悪いのか客層が違う。

日が傾きだしている。

今日は惨敗かと思っていたら…

「解毒薬が銀貨1枚…安い」

視線を上げると銀色の軽装鎧と背中に銀色の槍を背負った切れ長の目が印象の薄紫色セミショートの女性が商品を見ていた。

「何でこんなに安いの?劣化品とか?」

確かにそういった疑問をもつか

「いえ、私は1人でやっていますし薬も私が作っていますのでその分お安くなっているんです」

「なるほど…あなた薬師なのね」

俺の答えに納得してくれた銀槍女性は商品を見ている。

買ってくれるかな?買ってください!

「解毒薬2本買うわ」

「ありがとうございます」

心の中でガッツポーズ!これは一本おまけをつけよう

銀貨2枚を受け取る。

「解毒薬2本とこちらは試供品の薬水となります」

「試供品?タダってことね。あ、ありがと」

受け取った薬水に微妙な表情をする銀槍女性。

「ありがとうございました」

銀槍女性はダグさんの所でも小さい革袋を買い立ち去っていった。

「ようやく売れましたね」

「お互いよかったのう」

ダグさんと労いあう

やっと露天商としての初の売り上げだ。

街が暗くなり始め、日が落ちかけていた。もう店じまいか…

「あ……宿を取ってない」

今更になり気がついた。

宿どうしよう…って今から探すしかないよな。

「おや、カエデさんは宿を取っていないのかい?」

「お、お恥ずかしいながら取り忘れておりました」

「安い宿なら紹介できるがどうかのう?」

「お、お願いします!」

ダグさんは本当にいい人だ。

「ほっほ、では店じまいしていくとするかのう」


×


急いで店じまいしダグさんのあとをついていく

中央広場から南200mほど歩き住民区という所にきた。

「ここらへんは街灯が少ないんですね」

「ほっほ、城から離れれば離れるほど街灯は少なくなるからのう」

街灯は魔導具のランプのようで青い光で辺りを照らしている。

「ここが宿になるのう」

その宿は一言で言えばボロい…古びた木造2階建ての建物

ベッドが彫られた木の看板があるので宿というのは間違いないようだ。

「見てくれはコレでもな中は改修されてなかなかのものでのう」

「そうなんですか」

ダグさんが言うなら平気なのかもしれない

「ではな、ワシはこれで失礼するぞ。また明日、露店での」

「ありがとうございました」

ダグさんが去っていく

俺は少しそれを見送ったあと宿のドアに手をかけた。

カラン カランとドアベルが鳴る。

ダグさんの言う通り室内はボロくない、いかした木造の飲み屋風だった。

というか飲み屋にもなっているようだ、数人が飲み食いしている。

「いらっちゃいませ!」

5歳あたりの栗毛の可愛らしい少女が近づいてくる。

この子が女将ということはないよな?

「もう、ベルだめよ。娘が失礼いたしました」

母親らしき人が奥から出てきて娘を確保した。

「私はこの宿と酒場[ベロアルド]の店主ベロア、こっちは娘のベルです」

母親は娘と同じ栗毛でいい母という感じの女性だ。

旦那さんは奥にいるみたいだ、気配で何となくわかる。

「行商人のカエデといいます。泊まりたいのですが部屋ありますか?それとおいくらでしょうか?」

「お姉ちゃん声きれー!」

「こ、こらベル静かにしなさい!えっと、部屋はありますよ。一泊銀貨1枚で朝食は出せます、夕食は別料金になります」

一泊約1000円とは安いな。

現在、全財産は鉄貨3枚銀貨2枚の俺には大打撃だけど

泊まらないという選択肢はない。

「一泊、泊まらせてください。夕食は大丈夫です」

あまりお腹は空いていない、とにかく今日は疲れたので寝たいです。

ベロアさんに銀貨を渡す。

「部屋は2階の一番奥の部屋ですよ」

鍵をわたされる。

ごつい鍵だ。江戸時代とかのによくある鍵に似ているな

2階に向かう、ギシギシと木の板がいい音をならす。

「一番奥…ここか」

鍵穴に鍵を差し込みまわし、部屋にはいる。

部屋の中は六畳一間でベッドのみ、薄暗い、窓はガラスではなく木で塞がれている。

防犯対策だろうな。

「つかれた〜…今日は寝よう」

ベッドに飛び込むが…ガンッ と顔に衝撃をうけた。

「マットレスなし……床板だけとは…」

思いっきり顔を打ったが痛くない、痛くはないが気分的に痛い。

「リュックやマントは邪魔だな」

起き上がりリュックを下ろし、マントを取ると自分の身体が視界に入る。

「この身体で寝るのはやめよう…たぶんおかしくなる」

男性の姿に戻る。

「男の姿は見たことないけど…たぶん色男なんだろうな」

ため息をついてベッドに寝転がる。

「今日は疲れた…転生したり、転生したかと思ったら両性だし、露天商は大変だし…」

でも商社マン時代では味わうことのできない体験だらけだ…露天商は大変だけど楽しかった。

これはきっと心地よい疲労と言うのだろう。

「明日は午前は露店して、午後は採取にでも出かけようかな……」

そんなこんなを考えているうちに眠りについた。





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