閑話 レグリウス.ブレイド.サリウス
私はレグリウス.ブレイド.サリウス
ナード王国東のサリウスの領主をしていた公爵であり、かつては剣聖と言われていた男。
家督は既に息子に譲り、剣聖の称号も次代に継いだ今は隠居の身。
残りの余生を考える。
今は亡き妻がいれば共に諸国漫遊をしていたのだろうが、それは叶わぬ夢だ。
ならば再び剣の道に生きてみようと決意した矢先であった…
「視野が狭くなっている…」
視野の外側から黒い靄が広がり狭くなっていた。
その靄は日に日に広がってきている。
最高級の万能魔法薬を飲んでも治らず。
他にも色々な治癒系の魔法薬を試したが治らない。
「エリクサーでも駄目だろうな…」
公爵家に三本だけあるエリクサー。
あれは部位欠損を治す薬だ。
こういった症状は対象外だろう…
絶望が身を包む…
重い足取りで王都を歩く…王都を歩くのは私の趣味の一つである。
普段ならばいい気分転換になるのだが、今の状態では逆効果だ。
視野に入る黒い靄が邪魔で仕方ない…
「もしや[心眼]を使えば靄が晴れるか?」
スキル[心眼]、相手の動作を見極めるスキル。
剣聖の頃、このスキルに何度助けられた事か…
このスキル、相手の動作を見極めると同時に相手の力量も測れるという力もある。
[心眼]で相手を見るとオーラのようなものが見える。相手の力量が高くなるにつれて大きくなる特徴があるのだ。
「やはり靄は消えんか…」
そのことにさらに足取りが重くなりながら中央広場に差し掛かった時であった。
「ッ!?」
私の視線はある一点に止まった。
このオーラというものは赤子にもそれこそ小さな虫にも見て取れる。
それがだ、中央広場の隅の方に座る露天商らしき女性には…
「まるで見えん…」
冷や汗が流れる…オーラが全く見えない、こんな事は初めてであった。
「…確かめねば…な」
露天商らしき女性にどんな対応もできる足取りで近づいていく…
やはり露天商のようだ。フードを目深に被り顔は見えない。
「少し見てもよろしいかな?」
平静を装い声を掛ける。
「どうぞご自由にご覧ください」
なんとも美しい声…その声を聞いた途端に警戒心は消えていた。
なんとも不思議な品揃えであった。
ナードベリー味の薬水を味見してみるとなんとも美味なことか、是非とも買いたくなる。
そして考えてしまう…ここまで不思議な品揃えをしている露天商ならこの目を治す薬を持っているのではないかと。
……持ってはいなかった。
しかし、材料さえあれば薬を作れると言うのだ。
それが嘘でも本当でもそれに賭けてみるしかなかった。
私は全速力で屋敷に戻る。
[魔石[大]はある。
[龍の瞳]ならば馴染みの大商店に急ぎの手紙を出せばいい。
問題は[夜の雫]だろうが…運良く場所はしっている。
「私と妻の思い出の場所だ」
屋敷で愛用の聖銀の剣を手に取り、思い出の場所へとスキル[疾風]を使い全速力で向かう。
これならば馬よりも速く走れる。
「今なら夜までに辿り着ける!」
魔物が邪魔をするように襲いかかってくる。
「邪魔をするな!」
たとえ視野が狭くなろうとも、この肉体が老いていようともこの程度の魔物には負けん。
速度を落とすことなく一撃で魔物を断ち切る。
「もう少しだ」
襲いかかってくる魔物を倒しながら走っていると、小高い丘が見えてくる。
この丘は若かりし頃に妻と2人で来た眺めがいい絶景の場所…そして
「やはり咲いていたか夜の雫…」
夜の雫の群生地。妻と2人でこの淡く青い光を共に見た記憶が蘇る。
「妻、レティアナが導いてくれたのかもしれんな…」
夜の雫を数輪摘み取り袋に入れた。
「さて…戻るか」
戻る時も全力疾走、屋敷に戻り届いていた[龍の眼]と屋敷にある[魔石[大]を袋にいれる。
何か聞きたそうな使用人達には後で説明するとしよう。
再びの全力疾走で王都に向かう。
明日の夕暮れ時にはつくだろう…
中央広場についた頃には日は暮れかけていた。
私は閉店準備をしている不思議なお嬢さんのところに素材を持っていく
驚いているお嬢さんに薬の完成する時間を聞く。
目を治す薬はおそらくエリクサー級の薬だ。
ならば1年くらいは待たねばならないかと覚悟したら…
「えっと…明日の朝にはできるかと」
これが笑わずにいられるか
どこまで規格外なのかこのお嬢さんは。
翌朝。
興奮して早く目が覚めてしまった。
中央広場でまっているとお嬢さんも早めに来たようだ。
目を治す薬[龍眼薬]を受け取る。
なんと黄金色に輝く美しい薬だった。
もっと驚かされたのは点眼薬、目に薬を一滴垂らすと言う所か
薬を受け取り私は屋敷へと戻った。
夜。
私は寝室のベッドの上で[龍眼薬]を手にしている。
「寝る前に一滴だったな……くっ…意外に難しいものだな…うっ」
[龍眼薬]が一滴右目に入る。
「少し沁みるが…左も…」
左目にも一滴垂らす。
「これで少しでも良くなればいいが…」
少しの希望を抱き眠りについた。
「黒い靄が少し引いている…」
朝、起きた時に直ぐにわかった。
明らかに視野に入る黒い靄が引いている。
「薬が効いている!」
喜びのあまり叫んでしまった。
「このままこの[龍眼薬]を使っていけば完治する」
これでまた剣の道に戻る事ができるのだ。
なんという歓喜か!
「あのお嬢さんへの褒美はどうするべきか…」
フードを深く被っている様子から見れば目立ちたくないのがわかる…
公爵家の屋敷に招待するのはよくないな。
「どうするべきか…」
目の悩みが解消されつつある今
お嬢さんへの褒美をどうするべきか悩むのだった。