日の日の露店
「お姉ちゃん!朝だよ〜〜!」
ベルちゃんの声が聞こえる。
朝になったようだ。また夢も見ずにぐっすりと眠れた。
商社マン時代とはえらい違いである。
目を開けると部屋の中は懐中魔力灯の灯りで緑一色であった。
「魔石って極小でも結構保つんもんだな」
おそらくもう6時間は灯りがついたままだ。
「持続時間もクリアだな」
懐中魔力灯を拾い上げスイッチをOFFにする。
「今日は日の日だっけ…」
日本で言えば日曜日、露天商にとっては稼ぎ日なのだろうが
「どうしよう…」
正直言えば休みたいけど…もう少し稼ぎたいという思いもある。
「…………露店、するか」
一階に降りる。
「お姉ちゃ〜〜ん」
ベルちゃんが飛びついてくる。
何故かだいぶ懐かれてしまった。
「ふふ…ベルがごめんなさいね。はい、朝食ですよ」
今日の朝食は角鼠の燻製サンドパンに野菜のスープである。
早速いただく
「お姉ちゃん、美味しい?」
「ええ、美味しいですよ」
もう鼠を食べるのに抵抗がなくなっていた。
ベルちゃんは俺の方を見てニコニコしている。何がそんなに面白いのか?
子供にしかわからない感覚があるのかもしれない。
「…ふぅ、ごちそうさまでした」
そうだ。ベロアさんに試してもらいたい物があったんだ。
こっそりとアイテムボックスからベロアさんに渡す試供品を取り出す。
「ベロアさん、コレ試してもらえませんか?」
「なんですか?この白い塊と瓶は」
「白いのは無香料の石鹸で瓶は食器用の洗剤です」
試供品は食べ物を扱うので無香料の石鹸と食器用の洗剤も作っていたのでこの2つ。
「この白いのが石鹸ですか!?それに食器用の洗剤なんてあるんですね!」
「はい、露店で売り出す前に試して感想を聞かせて欲しいんです」
「そういうことですか。では喜んで使わせてもらいますね」
よかった。これで使用感が良ければ売れ出せる。
「それでは私は露店しにいきますね」
「ええ、いってらっしゃい」
「いってらっちゃ〜い!」
×
中央広場は早朝だというのに人が多く行き交っている。
「日曜日だけはあるってことか」
定番となりつつある場所に向かうと、ダグさんはいなかった。
「ダグさんは休みかな?」
少し寂しい。
気持ちを切り替え露店の準備だ。
新商品もならべないと。
「せめてもう少し魔導具が作れるくらいの資金が欲しい」
魔導具を作るのは楽しいけどお金がかかるのが難点だ。
特に魔石が高い。
「魔石の代用品があるにはあるようだけど…」
スキル[魔導学]に検索をかけて調べてみた。
「その代用品の材料がどこにあるかがわからない」
もう少し王都にある魔導具店巡りをするか
「もしくは大図書館で調べて自分で取りに行くって手もあるか」
冒険者に依頼するようなお金はないのでそれしかないよな。
「よかった、今日は露店やってたのね」
声のした方を向くと、以前買い物をしてくれた銀槍の女性が立っていた。
「2級冒険者のイリスよ。よろしく」
「あ、露天商のカエデです。こちらこそよろしくお願いします」
上から2番目の2級冒険者とはすごいな。
「あの解毒薬と薬水はすごい効き目ね。なにより美味しさに驚かされたわ」
「ご満足いただけてよかったです」
自分の作った商品が褒められるととても嬉しいものだ。
「あれから商品が増えたんですよ。解毒薬と薬水の味も増えました」
「そうなの?えっ?グレプ味…グレプってアクグレプのこと?」
グレプが好きなのだろうか?
「はい、もしよかったら試飲してみます?」
薬水グレプ味の蓋を外しイリスさんに差し出す。
「いいの?あ、ありがとう、いただくわ…」
ゴクッと飲むその姿も絵になる美人さんだな。
「お、美味しい!すごく濃いわ!」
それはもう3倍濃縮ですからね。
ゴクゴクと一気に飲み干すイリスさん
「さん…!いえっ!5本もらうわ!」
「ありがとうございます!」
気に入ってもらえたようだ。お金を受け取り商品を渡す。
イリスさんは小さい革の袋に入れる…どうやらアイテムボックスのような効果をもった魔導具のようだ。
さすが2級冒険者、そういう物も持っているのか。
「解毒薬は…ナードレモネがいいわ、へぇ、麻痺治療薬もあるのね。これはナードベリーがいいわ」
解毒薬2本に麻痺治療薬2本お買い上げです。ありがたい。
「あら、これは何?魔力飴って何かしら?」
「それはですね。魔法薬のマジックポーションのように速効性はありませんが、舐めている間は魔力を回復する効能があるんです。1瓶10粒入りで銀貨4枚になります」
「それはいいわね…魔力飴なんて初めて聞いたわ」
どうやら魔力飴は珍しいようだ…なら試食が一番だ。
「お1つどうぞ、お味もお確かめください」
「ありがとう……美味しい…蜂蜜の味ね。…うん、確かに微量だけど魔力が体内を巡っているわ」
蜂蜜は川での採取の帰りに見つけた物だ。
「気に入ったわ、2つちょうだい」
「ありがとうございます」
イリスさんの買い物総額は銀貨26枚。
「いい買い物したわ。また来るわね」
「ありがとうございました」
イリスさんが去っていく、その後ろ姿も絵になる美人さんだな。