閑話 少年少女の討伐依頼
2つの月が浮かぶ闇夜の森に戦闘音が響き渡る。
「おらぁっ!」
ギィィンと金属同士がぶつかり合う音が響く。
「いったぁ!手が痺れるぅ!」
「バカカント!甲殻に剣当てて何してるのよ!」
私はクイナ、冒険者[赤い猪]の8級冒険者だ。
[赤い猪]という名は私達4人の故郷の村の近辺に住んでいる聖獣の名からとっている。
今回は農村を荒らす魔物退治の依頼を受けて森に来ていた。
そんな私達[赤い猪]がいま戦闘をしている魔物は…
「本当に硬いわね。アーマースパイダーって」
[アーマースパイダー]牛ほどの大きさのハエトリグモ型の魔物。毒や糸での攻撃はなく動きも鈍いのだが…
とにかく硬い。
甲殻がとにかく硬く、普通の蜘蛛なら柔らかい腹部や目の方も硬い。
弱点は火と甲殻の隙間なのだが…
「ふっ!」
キーヤが頭胸部と腹部の隙間を狙い槍で突く。
カキィン!と弾かれる。
「くっ!隙間を閉じるのが早い!」
動きが鈍い癖に視野が広くて反射神経もいいのだ。
「弓の天敵よ!」
放った矢も キィン と虚しく弾かれる。
2級冒険者とかなら一撃なんだろうけどね。
「私が火魔法を使えたらよかったのに…」
隣にいるフルミナが弱気発言をする。
フルミナが得意な魔法は氷。相性は悪くないのだが今の実力では温度低下系の氷魔法が使えない。
「無いものいっても仕方ないわよフルミナ。今は魔力温存して!」
再度、矢を放つが軽く弾かれ明後日の方向に飛んでいく…むかつく!
「いくぞ!キーヤ」
「合わせる!はぁっ!」
カントとキーヤの連携攻撃!
だけどそれも金属音を響かせるだけだ。
「どうしたら…」
私の視線は下を向く
すると革紐でぶら下げた1つの瓶が目に入る。
「発火材!」
これしかない!
私は発火材の蓋を取り、矢の先を入れる。
矢尻に黒くどろっとした液体が大量に纏わりつく、粘度が高いのか垂れることがない
矢を構えて弦を引き絞る。
「カント!キーヤ!離れて!発火材使うわ!」
「お、おうっ!」
「ああっ!」
カントとキーヤがアーマースパイダーから離れると同時に矢を放つ
何かを感じたのかアーマースパイダーは身を縮ませ防御態勢をとる
迫る矢と防御態勢のアーマースパイダーが激突すると!
一瞬、視界が赤白い色に埋め尽くされた。
続けて熱波が通り過ぎる。
「あっつう!」
「熱っ!」
カントとキーヤがあまりの熱でさらに距離をとる。
これは炎だけじゃない!?爆発でもない、炎が弾け火花が強烈に飛び散りながら赤白い炎を上げている。
赤白い炎が消えていく
「すご…」
炎が消えると、現れたのは頭胸部の甲殻が溶けて痙攣しているアーマースパイダーであった。
「フルミナ!氷魔法でとどめよ!」
「う、うん!」
フルミナが杖を構え詠唱を唱え始める。
「氷の精よ、水の精と手を取り合い大槍をここに!」
フルミナの頭上に美しい氷のランスが形作られる。
「穿て!アイスランス!」
氷のランスが高速で飛び、アーマースパイダーの頭胸部に深く突き刺さる。
それに合わせカントとキーヤも突き刺す。
アーマースパイダーの痙攣が止まった。
「勝った…?」
「よっし!俺達の勝ちだ!」
「よし!」
カントとキーヤが互いに喜び合う。
「やったね!クイナちゃん!」
「ええ、やったわね」
フルミナが喜び抱きついてくる。
私も喜びで一杯だ。
「しっかし、今回は発火材に助けられたな…ゴクゴク」
「ああ、まったくだ…とてつもないな発火材は…ゴクゴク」
カントとキーヤが薬水を美味しそうに飲みながらこちらに歩いてくる。
あんたら最近薬水飲み過ぎよ…美味しいけど。
「うん、何か魔法の火と違ってた…ゴクゴク」
フルミナ、あなたまで飲みだすなんて…私も飲むからね。
「とにかくだ!これで依頼完了だ!」
「そうだな!」
「うん、おつかれ〜」
「何言ってんのよ。依頼達成はギルドに報告するまででしょ!」
みんなの気が抜けないように注意する。
でも内心は喜びで一杯だった。
王都に向けて帰る間に思う
発火材が売られていたら絶対買おう!と。