7 EXTRA3
突然だが、もし〜〜〜の話しをしよう。
問 もし、あなたが見知らぬ美少女に自分の彼氏が未来から来たという話題を提示されたらあなたはどうしますか?
きっと、皆口を揃えてこう言うのだろう。
お前、頭おかしいんじゃねーの?って。
じゃあ、もし、本当に未来から来た男が、美少女からそういった類のお話を面と向かって話されたとしよう。
どんな反応をする?
答えは簡単。
「─────は?」
驚く。驚愕一択なのである。
特別な才に拘る者は、自分だけのオンリーワンな能力ではない事に気付き憤慨するであろう。
だが、彼の場合その根っこはとっくの昔に折れている。
じゃあ、何が彼を驚かせたのか?
「だーかーらー。彼氏が未来から来たって言ってるの!二回も同じこと言わせないでよー!」
ちょっと待て。どういう事だ?未来から来た?確かに焔楓という女子生徒はそう言った。
俺以外にも居るのか?未来から来た者が。
もしくは、俺のいない茶道部、生前の1週目人生での茶道部では、このイベントはあったのだろうか?
⋯⋯分からない。
俺が未来から戻ってきた事により、本来進むべきだった未来へと大きくズレているのではなかろうか。
「すまん。いきなりの事でびっくりした。誰だって人の彼氏が未来からやって来たって言うならびっくりするだろう?」
確かに、と首をうんうんと上げ下げする焔。
「そうだね。でも、本当なんだよ?」
本当、か。
大した自信だ。自分の彼氏の発言に全幅の信頼を預けているのが分かる。
青春しやがって。リア充め!あ、死語か、コレ。
「例えば?」
「うーーんそうだねー。例えば、君の今日の行いとか」
⋯⋯俺の今日の行い? なんだそりゃ。
男に自分の行動が把握されているのはちょっと怖いのだが。というか、キモい。
「君、今日、川に飛び込んだでしょ?」
⋯⋯記憶にございません、と言いたい所だが、この方鮮明に記憶してらっしゃる。
あの時、飛び込んだ時、周りには同校の生徒は見当たらなかったも。
「確かに、飛び込んだな」
「本当に飛び込んだの?君、ちょっと頭おかしいよ」
初対面の男に向かってなんと失礼な。
理解せてやろうか。
「焔、お前の彼氏は何処まで俺のことを知っている?」
俺の事───例えば1周目の世界での俺のしょうもない人生とか。
返答次第では俺はソイツとの関わり方を考えなければならない。
「どこまでって言われても、それは彼しか知らないからなー」
焔の彼氏は俺を警戒し、彼女にあまり俺の事を話していないのか?
それとも、俺の事を川で飛び込んだ所までしか知らないとか。
「そうか。お前の彼氏さんの件、引き受けるよ」
「え!いいの?」
本当にいいの?と言わんばかりの驚いた顔でこちらを見てくる焔。
どうやら、ダメ元できたらしい。
それもそうか。
いきなり『俺、未来から来たんだ』と自分の彼女に言うイカれてる彼氏の話なんて誰が信じるモノか。そんな奴は世界中どこを探しても居ないだろう。俺を除いてな。
「ああ、勿論だ。なんとかしよう。それと、彼氏さんにこう伝えておいてくれ」
「え、何?」
「"お互い仲良くしようぜ"って」
俺がそう言うと焔はりょーかい!と一言言ってその場を去っていった。
⋯⋯さて、これからどうしたものか。
明日話してみるとして、そこで少し探りを入れてみるか。
それとも──────パリン
ん?何の音だ?、お皿が落ちるような、そんな音が近くで聞こえた気がするのだが⋯⋯。
「あ、あ、あああああ。お茶のコップ、割っちゃた……」
──────正直、焔の彼氏の事で頭いっぱいで碧桜の事をすっかり忘れてた。
ちょっと、目を離すとコレか⋯⋯変わってないな。
「あーー。割れたコップは危ないから俺が拾うよ。」
女性の肌に、一つも傷を付けてはいけないなである。
これは、男の心得である。無論、こんな心得を持ってても、童貞卒業出来なかったことに変わりはないので、説得力はないのだが。
「で、でも、わ、私が落としたから、私が⋯⋯ひろう⋯⋯」
ボソボソ何か言っているみたいだが聞こえないので無視してコップの破片を拾う。
これから、毎日放課後で何かやらかすかも知れない想い人の世話をしなければならないのか⋯⋯まぁ、可愛いから良しとしよう。
その日、俺は文武両道の碧桜が苦手とする物の一つを思い出した。
────────茶道だと。
◇
時刻は21時30分。
寝るにはちょうど良い時間帯。壊れた時計の針をベッドの上でストレッチをしながら確認する。
「一周目の世界線のこの時間帯だったら、とっくにクソ上司の悪口言いながら残業してる頃だろうな⋯⋯」
俺が自殺する前の世界のことは一周目の世界と呼ぶことにした。
『生前』と、俺がちゃんと死んだと言えて良いのか分からない為だ。
さて、明日どうするか考えますかね⋯⋯。
「お兄ぃーー⋯⋯」
ん?可愛らしい声だな。
正体はよく知っている。柚だ。妹だ。
この時間帯に起きているとは珍しい。
いつもなら21時にはおやすみと両親に一声かけて就寝する筈なのだが⋯⋯。
「はいはい。どした?」
扉を開けるとそこにはクマさんの人形を持って、泣いている柚がいた。
「怖い夢⋯⋯見た」
なんだ、この可愛い生物。
一周目の世界じゃこんな可愛くなかったぞ!?
「そうか。⋯⋯えと、話聞こうか?」
「⋯⋯うん」
俺は妹を部屋に入れ、涙をボロボロ流す柚を慰めながらこう思うのであった。
(───こいつ、本当にこんな可愛かったけ?)と。