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宰相

 ベルツェ宰相がようやく国王を説き伏せてメリアナ追跡部隊を編成しようとしたところ、部下の一人が魔導携帯端末で連絡を入れて来た。


「何事だ? 緊急の用件以外は後にしてくれ。こちらは国防にも関わる重大な案件に対処しなければならないのだ」

『申し訳ありません、こちらも重大案件です。チャックフック伯爵が横領の証拠と共に憲兵に連行されました』

「横領だと……? なんて間が悪い」


 宰相は、最近白くなってきた髭を撫でながら思考する。

 こんなタイミングで貴族の不正が明らかになるのは何かがおかしい。

 第一王子派が王都の混乱を手引きしているのではないだろうか?

 あの派閥は宰相の地位を欲しているのだから、あり得ない話ではない。

 いやまて? と宰相は魔導データベースにアクセスする。


「チャックフック伯爵は第一王子派閥ではないか。ならば別の派閥が動いているのか?」


 こんな時メリアナが居てくれればそれぞれ手分け出来るのにと宰相は思う。

 横領の件を宰相が片付けている間に、メリアナの捜索はメリアナに任せて——。

 そこまで考えて我に返る。


「立て続けの問題で少々おかしくなっているな、私は」


 疲れを癒やすように目頭を押さえる。


『宰相閣下、ご指示をお願いします』

「証拠品はお前が回収しろ。憲兵上層部に同派閥の貴族がいた場合揉み消されかねないからな。証拠品さえ手に入れれば、後は尋問など憲兵に任せてよい」

『よろしいのですか?』

「今は優先すべき事がある。証拠品だけ押さえて後回しだ」

『承知しました』


 そこまで言って通信を切ろうとした時、部下が一言付け足した。


『そういえば憲兵が通報者の事を少女であったと言っていました』

「少女……?」

『金髪碧眼の美少女でありながら、少々とぼけた雰囲気だったとの事です。容姿から判断するに、恐らくメリアナ様ではないかと』

「それを早く言えええぇっ!!」

『うわっ!? す、すいませんっ!!』


 転移魔法が使えるメリアナの事だから、既に王都を離れていると思っていた。

 しかし、どうやらまだ王都内を彷徨いている。

 まだ希望はある。

 宰相は直ぐに騎士団から数名派遣してもらい、追跡させようと考えた。


 急ぎ目撃情報を部下に遅らせてから、魔導携帯端末で素早く騎士団長のナンバーを探してコールする。

 しかし、中々騎士団長は応答してくれない。

 この緊急時に何をしているのかと、宰相は少しずつ苛立って来た。

 10回程のコール音の後、ようやく通話に出た騎士団長は焦った声で告げる。


『宰相閣下! 申し訳ありませんっ! 少々立て込んでおりまして……』


 嫌な予感に宰相の額を汗が伝う。


「こちらも緊急の案件なのだが、まずはそちらの状況を聞こう」

魔物暴走(スタンピード)の徴候があり、現在その対応に追われています』


 ベルツェ宰相は通話を切りたい衝動に駆られたが、ギリギリで踏み止まった。


「……分かった。城以外にいる騎士団と魔法師団も全員招集せよ。それ以外にも任務があるからな」

『メリアナ様の捜索でしょうか?』

「知っていたか」

『はい。先程訓練場に現れて、訓練メニューを渡されて風のように去って行きましたから。そちらは既に班を分けて追わせています』

「ならば話が早い。おそらくメリアナ嬢はまだ王都にいる筈だ。目撃証言のあった地区のデータを送る」

『はっ!』


 まさかの魔物暴走(スタンピード)の徴候で、メリアナとの追いかけっこは時間制限が設けられてしまった。

 王都内にいるうちに捉まえる事が出来なければ、魔物暴走(スタンピード)によって甚大な被害が出る事だろう。

 一縷の望みを掛けて魔導携帯端末でメリアナの番号に掛けてみるが、着信を拒否されてしまった。

 当然と言えば当然だが、逃亡している者が通話に応答する訳が無かった。


「まだ王都にいる筈……まだ慌てるような事態じゃない……」


 宰相はブツブツと独り言を繰り返しながら、騎士団と魔法師団に指示のメッセージを送った。

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