騎士団長と魔法師団長
次に私が転移したのは、王城の脇にある練兵場。
そこでは丁度良い事に、騎士団と魔法師団が合同訓練を行っていた。
私が現れた事に騎士団長のオルドさんと魔法師団長のリリンさんが気付き、こちらへ近づいて来た。
「メリアナ様、何か御用でしたか? ご連絡いただければ伺いましたが」
「何かまた新しいご提案でもありました?」
どうやらまだ、ここまで婚約破棄騒動の事は伝わっていないようだ。
そう考えると宰相の動きは実に早かったわね。
「騎士団と魔法師団の訓練は順調?」
「ええ、メリアナ様の考案された訓練によって、皆着実に実力を付けています」
「魔法師団も魔法の発動速度が段違いに早くなりましたよ」
うむうむ、中々順調に育ってきておるようじゃのぅ。
でも私いなくなっちゃうから、それじゃダメなのよね。
って事で、段階すっ飛ばして最終プランに移行します。
「じゃあ、次はこれね」
私は魔法袋から、予てより準備してあった訓練メニューを取り出して、それぞれの団長に渡した。
「こ、これは……」
「メリアナ様、団員を殺す気ですか?」
まぁ、本気で頑張って貰わないと、また魔物暴走が起きたりした時にそれこそ命を落としかねないよね。
「急ぎ騎士団と魔法師団を強化する必要が出て来たのよ」
「なんですとっ!?」
「まさか、また魔物暴走の徴候が!?」
「あぁ、違う違う。私、婚約破棄されたから侯爵領に帰るのよ。だから今後は騎士団と魔法師団だけで王都を守ってもらう事になるから、急いでレベルアップしないと危険かなって」
「「え……?」」
両団長、揃って目が点になってるし。
さて、訓練メニューも渡したから、もう心残りは無いわ。
「その訓練メニューをこなせるようになれば、ドラゴン相手でも何とかると思うから。じゃあ頑張ってね」
「ちょ、ちょっと待ってください!! メリアナ様っ……」
騎士団長のオルドさんが何か叫んでたけど、既に私の転移魔法は発動されていた。
−−−−−−−−−−
「あの○王子、やらかしやがったな……」
「○は不敬ですよ。でも確かにやらかしやがりましたね、あの○ ○ ○王子」
「お前の方が絶対不敬だけど、俺も今後そう呼ぶ事にするわ」
騎士団長オルドと魔法師団長リリンは、手元の訓練メニューに視線を落とす。
「こんなメニューこなせる奴なんてメリアナ様以外にいるか?」
「オルド、貴方ならギリギリこなせるのでは?」
「無理だな。メリアナ様が考案された戦闘能力数値化魔道具によれば、俺の能力値は24000だ。530000のメリアナ様用に作られた訓練メニューなんて10倍身体強化魔法使っても出来ねーよ」
「つまり……メリアナ様を連れ戻せなければ王都は終わりますね」
「でも婚約解消されちまった今、メリアナ様が戻る理由が無い……」
「幸い魔物暴走は収束したばかりですし、まだ時間はあります。宰相と相談して連れ戻す算段を付けましょう」
団長同士頷き合う。
とそこへ息を切らせて慌てふためいた騎士団員が一人、オルド団長の下へ駆け寄って来た。
オルドはどうせ婚約破棄の情報だろうと眉を顰める。
しかし……、
「だ、団長! また魔物暴走の徴候がっ!!」
「マジか……?」
「メっ、メリアナ様を探してぇっ!!」
残された時間は意外にも少なかったようだ。