国王陛下
「そんなのダメええええぇっ!!」
国王陛下の執務室に、陛下の魂の叫びが響き渡った。
ダメって言われてもねぇ。
「メリアナちゃんがいなくなったら、国が滅びちゃうじゃないか!!」
じゃないかって言われてもねぇ。
「大丈夫ですよ。私一人いない程度の穴なんて、新しい婚約者様がすぐに埋めてくれますよ」
「新しい婚約者……?」
「はい。ランス殿下の新しい婚約者である男爵令嬢のユミアさん」
「ユミア……」
陛下は即座に魔導データベースにアクセスしてユミアさんのデータを調べ始めた。
私が作った魔導データベースは、ウェアラブル魔道具の指輪で王国中のあらゆるデータに瞬時にアクセス出来る。
そこからユミアさんのデータを読んだ陛下は、盛大に眉を顰める。
「こ、こんな全てに於いてレベルが低い娘にメリアナちゃんの代わりが務まる筈が無い……」
「そこは王妃教育で補填していただいて」
「無理無理無理っ!! 婚約破棄なんて絶対認めないんだからねっ!!」
若干ツンデレみたいになってる陛下をどう説得したものか。
やはり貸しを今使うしかないわね。
「陛下、貸し一つ使います」
「ぐっ!? このタイミングで使うとは……メリアナちゃんの鬼畜っ!!」
「なんと言われようと使います。私、もう疲れたので、暫く領地に戻ってのんびりしたいのです」
「じゃ、じゃあ療養って事で暫くお休みするだけってのは……」
「嫌です。婚約破棄を受理してください。侯爵家側から破棄する事は出来ないので、この機会を逃したくないので」
「チャンスって言っちゃってるし! そんなに嫌だったのぉっ!?」
「嫌ですよ。殿下には特に愛着も無いのに、婚約者として政務を手伝わなきゃいけないなんて。こんな○みたいな地位なんて欲しい人がいたら喜んでくれてやりますよ」
「儂の息子の婚約者って○みたいな地位なの……?」
がっくりと項垂れる陛下。
「とにかく、貸し一つ今ここで使います」
「……わ、分かった。とりあえず婚約破棄に同意する」
よし!
あとは宰相が来る前に逃げ——とりあえず?
「とりあえずってどういう事ですか?」
「ランスとの婚約は破棄していいんじゃが、他の王子との婚約を視野に入れてくれんかのぉ?」
「嫌ですけど?」
「そこを何とかああああああぁっ!!」
こらこら、国王陛下が土下座すんなし。
だって王族ってろくなやついないじゃない……。
3歳の第四王子殿下はめっちゃ可愛くて私に懐いてくれてるから好きだけど、さすがに年の差がありすぎるからねぇ。
っと、ヤバい。
索敵反応のアラートが鳴ってる。
宰相が動き出したわね……。
「じゃあ陛下、婚約破棄に同意していただきありがとうございます。私はこれで失礼しますので、お元気で」
「ちょ、ちょっと待ってメリアナちゃんっ!!」
悲壮感を漂わせる陛下はちょっと可哀想に思えるけど、もうブラック職場には戻りたくないので。
私の代わりはいるもの、大丈夫でしょ。
即座に転移魔法を発動させて、私はその場から逃げるように姿を消した。
って言うか逃げた。
−−−−−−−−−−
「ここにメリアナ嬢が来ませんでしたかっ!?」
ノックもせずに執務室に飛び込んだベルツェ宰相は、大声で国王に問うた。
「もうどこかへ転移した……」
力無く応えた国王の顔を見て、ベルツェ宰相は青ざめた。
「ま、まさか、婚約破棄を受け入れたのではありますまいな」
「借りを一つ使われてしまったのだから、しょうがないだろう?」
「なんてことだ……」
唯一彼女を繋ぎ止めていたものが断ち切られてしまった。
いや、そもそも彼女程の人物を王子の婚約者などという陳腐な楔で繋ぎ止められていた事が、既に奇跡のようなものだったのだが。
それを無能な王子のせいで失ってしまった。
その損失の大きさを考えただけでベルツェ宰相の血の気は引いていく。
代替案など無い。
彼女を連れ戻さなければ終わりなのだ。
「陛下、私は彼女を連れ戻す為に動きます。ですからその間の政務を……」
「あっ、ずるいぞ宰相! わ、儂が動くから宰相が政務を!」
「何言ってるんですか! 陛下では彼女を連れ戻す方法なんて考えられないでしょう!」
「そんな事言って、儂に政務を押し付ける気じゃろう! メリアナちゃんがやってた量の政務なんて儂には無理じゃ! こうなったら儂は国王を辞めるぞおおおおぉっ!!」
「あっ、絶対言っちゃいけないやつ言いおった! 辞めるなんてダメですからねっ!!」
揉めてる場合では無いというのに、子どものような喧嘩を始める国王と宰相だった。
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