婚約破棄
新作です。
「メリアナ! お前との婚約をここに破棄する!」
え? いいの?
第一王子ランス殿下が、私との婚約を破棄すると宣った。
めっちゃ嬉しいんですけど!
でもランス殿下の権限だけで、ちゃんと婚約破棄出来るのかなぁ?
「殿下、それは陛下もご存知の事でしょうか?」
「父上には後で話す」
うわぁ、これは不安。
事後承諾するつもりなのだろうけど、国王陛下が婚約破棄を許してくれるとは思えないなぁ。
うーむ、陛下にはいくつか貸しがあるから、それでなんとか婚約破棄してもらおう。
ごねられそうな気もするけどね……。
あとは宰相か。
「では、ベルツェ宰相には?」
「なぜお前との婚約破棄に宰相が関係あるのだ?」
あ、殿下は本気で分かってないみたい。
私が殿下の婚約者として政務の大半を担っているという事を。
ちなみに私の仕事をベルツェ宰相がやる事になった場合、宰相の睡眠時間は0になります。
宰相は、私を失うぐらいならランス殿下の方を切り捨てかねないよなぁ……。
よし、宰相には気付かれないように動こうっと。
「それと騎士団長と魔法師団長にも許可を得ないとですよ?」
「婚約破棄に騎士団長と魔法師団長は関係無いだろうがっ!」
それがあるんだよねぇ。
王都周辺の魔物討伐でAランク以上の魔物が出現した時は、私が加勢するから勝ててるんだもの。
婚約破棄されたら私は侯爵領に戻る事になるから、王都の防衛を騎士団と魔法師団だけで行う事になる。
強力な魔物が出た時は頑張ってもらうとしますか。
私が立案した訓練メニューを倍に増やせば何とかなるでしょ。
「ふん、今更何を言おうともお前との婚約は破棄するし、俺は男爵令嬢のユミアと新たに婚約する。これは決定事項だ」
ランス殿下がそう言うと、それに合わせたように男爵令嬢のユミアさんが登場する。
そしてユミアさんは、殿下の腕に自らの腕を絡ませた。
「ごめんなさい、メリアナ様。でも私と殿下は運命の出会いを果たしたの。どうか聞き分けてくださいませ」
貴方達の出会いって、ユミアさんがパンを加えて「遅刻遅刻〜」って言いながら走って来て、曲がり角で殿下にぶつかった時の事よね?
運命の出会いって程ドラマチックじゃ無かったと思うけど……。
でも私がとんでもなくブラックな職場からおさらば出来るのであれば、全力で祝福させていただくわ。
「そうですか、お幸せに。では、私はこれで失礼させていただきます」
「なっ!? メリアナ! もう少し悔しそうにしたらどうだ!?」
「え? 何故ですか?」
「ぐっ!」
どこに悔しがる要素なんてあったのかしら?
お2人は幸せでしょうし、私もブラック職場から逃げられて幸せ。
婚約破棄はこちらからは言い出せなかった事なので、殿下がご提案してくださってとてもありがたかったわ。
ハッピーエンド以外の何物でもないのだから、悔しがるどころか感謝しか無いよ。
とりあえず今は、殿下に構ってる暇なんて無い。
宰相に勘付かれる前に国王陛下を言いくるめて脱出しないと。
「お話がそれだけでしたら、私は急ぎますので」
そう言って私は短距離転移魔法を発動した。
一瞬で目の前の景色が変わり、パーティ会場から国王陛下の執務室へ。
「ぬおっ!? な、なんじゃ、メリアナちゃんかい。転移で来るなんて、なんぞ緊急の用件でもあったかの?」
前々から思ってたけど、転移で簡単に王の下へ来れるのってセキュリティ的にどうなのかしら?
もっとも、短距離転移ですら膨大な魔力を消費するから、国内で出来るのは私ぐらいしかいないと思うけどね。
ん? つまり、国王陛下が暗殺されると、一番に疑われるのは私なのか?
……この部屋に結界張っとこうっと。
全力で超強力な結界魔法を張っておく。
これで誰も侵入出来ないわね。
「メリアナちゃんや、今何かしたのかい?」
「国王陛下の部屋があまりにもセキュリティゆるゆるだったので、ちょっと強化しときました」
「おおう、それはありがたい。いや、それより急に転移して来た用件は?」
「あぁ、そうでした。私、ランス殿下から婚約破棄されましたので、陛下に受理していただきに参りました」
「……儂、耳がおかしくなったのかな? もう一度言ってもらえるかい?」
「ランス殿下から婚約破棄されましたので……」
「こ、婚約破棄……?」
あ、陛下が真っ白になった……。
ちょっと刺激が強すぎたかな?
転移で突然目の前に現れるよりはゆるいと思ったんだけどなぁ。
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