『聖公爵コンラートの輝かしき遠征の記録』 209頁
海軍工場では内陸の山地から徴兵されてきた一年目の水兵たちがイワシの頭を切り落とし、煮立ったオリーブオイルのなかに放り込んでいる。
中尉が海軍新聞を朗読する。
――海軍検閲局は新基準を導入することを決定した。これにより、検閲対象表現が約300%増加し、機密保全はより完璧なものとなり、我が国は他国に先んじて、アドヴァンテージを獲得することとなった。海軍検閲局長サンドマン大佐は退役した装甲艦を海に浮かぶ検閲施設として利用することで、艦隊に随伴し、水兵たちが送る手紙を圧倒的な効率によって検閲することを約束した。
つまり、こうだ。
母さんへ。
僕はノースエンドの海軍工場でイワシの缶詰を作らされています。
■■■へ。
■は■■■■■■の■■■■で■■■の■■を■■■■■■■■。
新基準において、絶滅から逃れられるのは助詞だけだ。
――なわけで、閣下があの長く苦しい戦役で類まれなる戦功を上げたことはまさに神の御業なわけで、それは三天使の目に見ても明らかなわけで、そんな閣下を護教軍総司令官の座から引きずりおろそうとする卑劣な企ては確かに存在していたわけで、それに対して閣下はこの反教会的陰謀の影にギド族の金塊が垣間見えると看破したわけで、残念ながらこの陰謀に加担した将軍たちのなかには閣下が日頃腹心の部下として目をかけてきたロミヒス将軍もいたわけで、閣下は私情に流されずにその篤い信仰から教会の敵を罰すると決めたわけで、それでもロミヒス将軍が断頭台で泣きわめいて命乞いをするのを見ると、あまりの哀れさに心がゆらいだわけで、その首は胴を離れてもなお命乞いをやめなかったわけで――
――『聖公爵コンラートの輝かしき遠征の記録』 209頁