『大海蛇』 第4章 第12節
都市はいつも人間に求める。
稼げ! 貯めろ! 家を見つけろ! 結婚しろ! 子どもをつくれ!
オートマタに対する要求はそこまででもない。
稼げ! 家を見つけろ!
どう稼ぐかはもう決まったので、いまのガルがすべきことは殺人で服役したことのある運び屋オートマタを住まわせてくれる物好きな下宿屋を見つけることだ。
彼が運び屋となって、まだ二時間も経過していないのに、既に新しい運び屋の話がビリヤード場にたむろするいわくつきの連中の口にのぼっている。
「で、そいつはオートマタの運び屋なんだな?」
「そうなんだよ、トム」
「そのトンマ、本当に人間を殺したのか?」
「らしいぜ」
「ひでえ話だ」
「なんで壊さなかったのか分からないけどよ、トム、とにかくそういうやつが運び屋になったんだ」
「宗務院どもにしょっぴかれたら?」
「口は割らねえさ、トム! だって、オートマタだぜ? あいつらには痛みを感じる仕組みがないんだ。生きたままバラバラにされても、ドライバーが一本あれば、元通りにできちまう。こいつは人間の運び屋よりもいいかもしれないぜ」
「まあ、運び屋がタフなのはいいことだ。そいつに仕事を頼みたいときはどこに行けばいい?」
そんな会話がされている。
だから、ガルは一刻もはやく下宿屋を見つけないといけない。
「人生は不平等だ。富も名誉も、死だってそうだ。断頭台で打ち首になるのと、愛するものに手を握られながら寝台で天寿を全うすることは同一か? ああ、死よ。いいところで姿を見せたな。この痴れ者め。こっちに来い! 死は誰にでも訪れますなどという戯言を使わずに、全ての人間に等しく存在するものを、余に教えてみよ」
「恐れながら、陛下。人生は不平等であるという認識だけは全ての人間に平等に存在いたします」
――『大海蛇』 第4章 第12節